「ドイツのコーヒー」と聞いて、何を思い浮かべますか。ペーパードリップが生まれた国という話を聞いたことがある人もいれば、ドイツの人はどれくらいコーヒーを飲むのだろう、と気になって調べ始めた人もいるかもしれません。ドイツは生産国ではないので、「ドイツコーヒー」という言葉は豆の産地というより、飲み方や文化を指して使われることが多いんです。
結論から言うと、ドイツコーヒーを理解する鍵は「紙で濾す文化」「飲む量の多さ」「法律と税で管理されてきた歴史」の3つです。1908年にドレスデンでペーパーフィルターの仕組みが生まれ、国際コーヒー機関(ICO)の統計では、2023年の1人当たり消費量(単位:kg/1人/年)がドイツ5.4、日本3.2となっています。一方で、2025年のドイツコーヒー協会の発表を読むと、豆のまま売れた量が過去最多になり、豆を使う全自動マシンが3世帯に1世帯にあるとされていて、「ドリップの国」というイメージだけでは語れない変化も起きています。
この記事では、全日本コーヒー協会が掲載するICO統計、ドイツコーヒー協会の発表、ドイツの法令データベース、メーカー公式の沿革といった一次情報だけを使って、ドイツコーヒーの「なぜ」を順にほどいていきます。最後に、家でドイツ流に淹れるときの考え方まで紹介します。
・ドイツと日本のコーヒー消費量を、ICO統計の同じ表で比べた数字
・ペーパーフィルターが1908年のドレスデンで生まれた経緯と、1つ穴・抽出杯数表記の由来
・2025年のドイツで「豆」「全自動マシン」「外飲み」が伸びている事実
・プロイセンの国家独占から今のコーヒー税、パッケージ表示の読み方まで
ドイツコーヒーとは?「ドリップの国」と呼ばれる理由を3つの事実から

ドイツコーヒーは「産地の名前」ではなく「飲み方と文化」の呼び名
まず押さえておきたいのは、「ドイツコーヒー」はコロンビアやブラジルのような生産国の名前とは意味が違う、という点です。全日本コーヒー協会が掲載している「世界の国別消費量」の表では、ドイツは日本と同じ「輸入国」の欄に並んでいます。つまり、ドイツで飲まれているコーヒーの豆は、海外の生産国から運ばれてきたものなんですね。
そのため、「ドイツコーヒー」と言ったときに指しているのは、豆の味の特徴というより、ドイツでどう淹れて、どれくらい飲み、どんな決まりのもとで売られてきたか、という文化の側面です。ここを取り違えると、「ドイツ産の豆はどんな味?」という問いの立て方をしてしまいがちです。
家でドイツのブランドの豆を買うときは、パッケージで生豆の生産国の記載を確かめておくと、「どこで育った豆を、どこで焙煎したものか」を分けて理解できます。味の傾向を知りたいときは、焙煎した国ではなく、生産国と焙煎度の表示を手がかりにするのが近道です。
ペーパードリップの仕組みはドイツの家庭から生まれた
ドイツが「ドリップの国」と呼ばれる一番の理由は、紙でコーヒーを濾す方法がドイツで生まれたことにあります。メリタジャパンの公式の沿革では、ドレスデンに住んでいたメリタ・ベンツが、穴を開けた真鍮製の容器に紙とコーヒー粉をのせてお湯を注ぐ方法を考え出したと紹介されています。
なぜこれが画期的だったのか。紙で濾すと、粉と液体をその場で分けられるので、カップに粉が残りにくくなります。今の日本の家庭で当たり前のように使われているペーパードリップは、この発想の延長線上にあるわけです。詳しい経緯は、後半で年表と一緒に整理します。
やりがちなのは、「ドイツ式=特別な道具が必要」と考えてしまうこと。実際には、ドリッパーと紙のフィルターという、いま日本で手に入る一般的な道具がそのままドイツ発の仕組みです。新しく何かを揃える前に、手元の道具がすでに「ドイツ生まれの方式」だと知っておくと、気負わずに始められます。
飲む量の多さと、変わりつつある家での淹れ方
もう一つの特徴は、飲む量の多さです。ICOの統計を全日本コーヒー協会がまとめた表では、2023年の1人当たり消費量(単位:kg/1人/年)はドイツが5.4、日本が3.2とされています。国全体の消費量でも、2023年はドイツが7,462千袋、日本が6,670千袋(1袋=60kg)で、人口の違いを考えると、ドイツでコーヒーが日常の飲み物として根づいていることが読み取れます。
ただし、ドイツの家庭がいまもペーパードリップ一色かというと、そうでもありません。ドイツコーヒー協会の2025年の発表では、豆のまま売れた量がこれまでで最も多くなり、全自動マシンが3世帯に1世帯にあると紹介されています。「紙で濾す国」が、同時に「豆を家で挽く国」にもなりつつあるわけです。
ここで気をつけたいのは、統計の年と出典を混ぜないこと。消費量は2023年版まで、協会の市場データは2025年の数字です。読み比べるときは、どの表のどの年かを必ず確認しておきましょう。
ドイツは統計上「輸入国」。ドイツコーヒーは豆の産地ではなく、ペーパードリップの発祥、多い消費量、法と税で管理されてきた歴史をまとめた「文化」の呼び名として理解すると、話がすっきり整理できます。
日本と比べると、ドイツはどれくらい飲んでいる?ICO統計を年ごとに比較
国全体の消費量は、6年続けてドイツが日本を上回っている
まずは国全体の量から見てみましょう。全日本コーヒー協会が掲載する世界の国別消費量(出所:ICO統計2024年7月)では、ドイツと日本の消費量が「輸入国・暦年・単位1000袋」で並んでいます。1袋は60kgです。
表を見ると、2018年から2023年まで、どの年もドイツの数字が日本を上回っています。ドイツの人口は日本より少ないので、国全体の量で上回っているということは、1人あたりで見るとさらに差が開くことになります。この点は次の見出しで確認します。
下の表は、協会の2つのPDFから、ドイツと日本の行だけを抜き出して並べたものです。消費量と1人当たり消費量は別々の表なので、列を分けてあります。
| 年 | ドイツ消費量(千袋) | 日本消費量(千袋) | ドイツ1人当たり(単位:kg/1人/年) | 日本1人当たり(単位:kg/1人/年) |
|---|---|---|---|---|
| 2018年 | 8,461 | 7,834 | — | — |
| 2019年 | 8,670 | 7,551 | 6.3 | 3.6 |
| 2020年 | 8,506 | 7,168 | 6.1 | 3.4 |
| 2021年 | 8,375 | 7,051 | 6.0 | 3.4 |
| 2022年 | 9,917 | 7,203 | 7.2 | 3.4 |
| 2023年 | 7,462 | 6,670 | 5.4 | 3.2 |
消費量はICO統計(2024年7月)、1人当たり消費量はICO統計資料(2025年7月)を全日本コーヒー協会が掲載したもの。1袋=60kg。
1人当たりで見ると、差はよりはっきり見える
全日本コーヒー協会の世界の一人当たりコーヒー消費量(単位は「kg/1人/年」)を見ると、2019年はドイツ6.3・日本3.6、2023年はドイツ5.4・日本3.2です。表に載っているどの年も、ドイツが日本を上回っています。
この単位は、豆の重さで数えた量です。カップ何杯分という数え方とは違うので、「1日何杯」に置き換えるには豆の量や濃さの前提が必要になります。前提を決めずに杯数へ換算すると、根拠のない数字ができてしまうので、ここでは表の数字のまま比べるのが安全です。
家でコーヒーを飲む立場から読むなら、「ドイツの人は日本の人より多くのコーヒー豆を消費している国」と理解しておけば十分です。数字を誰かに伝えるときは、「ICO統計・2023年・kg/1人/年」と年と単位をセットで添えると、誤解されにくくなります。
2022年だけ数字が大きい年を「急増」と読まない
表を見て気になるのが、2022年のドイツの数字です。消費量は9,917千袋、1人当たりは7.2と、前後の年より大きくなっています。ただ、その翌年の2023年は消費量7,462千袋・1人当たり5.4です。1年の数字だけを取り出して「ドイツで消費が急に増えた」と読むと、全体の流れを見誤ります。
統計資料の表には、この年だけ数字が大きい理由は書かれていません。理由が書かれていない以上、こちらで推測して説明をつけるのは控えるべきところです。複数年を並べて見る、というのが統計を読むときの基本になります。
ドイツの消費量を調べると、「千袋」「kg/1人/年」「リットル/人」と単位の違う数字が出てきます。原因は、ICO統計と各国の協会発表で数え方が違うこと。対策は、数字を書き写すときに「出典・年・単位」の3点を必ずメモすること。2022年の突出した値だけを抜き出して紹介するのも避け、前後の年と並べて示しましょう。
「豆」で買う量が過去最多に?2025年のドイツで起きていた3つの変化

レギュラーコーヒーの販売量は約456,000トンで、前年比1.5%減
ICO統計は2023年版までですが、もっと新しい様子はドイツの業界団体の発表から読み取れます。ハンブルクのドイツコーヒー協会(Deutscher Kaffeeverband)は、2026年4月2日に「Deutscher Kaffeemarkt 2025 stabil」というプレスリリースを出しています。協会は50年以上の歴史があり、約380社を代表する団体と紹介されています。
このリリースでは、2025年のレギュラーコーヒー(Röstkaffee)の販売量が約456,000トンで、前年比1.5%減とされています。タイトルにある「stabil(安定)」のとおり、大きく増えも減りもしていない、という見方です。
読むときの注意点は、ICO統計の「消費量(千袋)」とは数え方が違うこと。協会の数字は焙煎したコーヒーの販売量です。前の見出しの表とつなげて「増えた・減った」を判断すると、違うものどうしを比べることになるので、協会の数字は協会の数字の中で前年と比べるようにしましょう。
豆のまま買う人が増え、全自動マシンは3世帯に1世帯
実は、ドイツの家庭で今いちばん大きく変わっているのは「どの形で買うか」です。同じリリースでは、豆のまま(Ganze Bohne)売れた量が2025年に193,800トンとなり、これまでで最も多くなったとされています。10年で130%増えた一方、挽いた粉(gemahlener Kaffee)は約38%減ったと紹介されています。
その理由として協会の事務局長は、豆のまま買うことが多くの人にとって品質の高さを意味することを挙げたうえで、「Inzwischen steht in jedem dritten Haushalt ein Vollautomat, der mit ganzen Bohnen bestückt wird.」と話しています。今では3世帯に1世帯に、豆をセットして使う全自動マシン(Vollautomat)がある、という意味です。
ペーパーフィルター発祥の国と聞くと、粉を紙で濾す家庭ばかりを想像しがちですが、豆を家で挽いて淹れるスタイルが広がっているわけです。日本で「ドイツ流」を真似したいなら、ドリップの道具だけでなく「豆で買って、淹れる直前に挽く」という買い方も、今のドイツに近い選択肢になります。
外で飲む量も過去最多、インスタントは10杯に1杯
家の外で飲まれるコーヒー(Außer-Haus)も伸びています。リリースでは、2025年に外で飲まれた量が125,500トンとなり、これまで最も多かった2018年の125,000トンを上回ったとされています。カフェや職場、移動中など、家以外の場面でのコーヒーも定着していることがわかります。
一方、インスタントについて事務局長は「Schon heute wird jede 10. Tasse Kaffee in Deutschland mit löslichem Kaffee zubereitet.」と述べています。ドイツで淹れられるコーヒーの10杯に1杯がインスタント(löslicher Kaffee)で作られている、という内容です。
ここで混同しやすいのが、外飲みの「125,500トン」とレギュラーコーヒー販売量の「約456,000トン」の関係です。リリースの中で別々の切り口として示された数字なので、割り算して「外飲みの割合は◯%」と自分で数字を作らないようにしましょう。
「1人161リットル」はICOの豆の重さとは別の物差し
同じリリースには「Mit einem durchschnittlichen Konsum von rund 161 Litern pro Kopf bleibt Kaffee eines der beliebtesten Getränke in Deutschland.」という一文もあります。1人当たり平均約161リットルで、コーヒーはドイツで人気の高い飲み物であり続けている、という意味です。
この「161リットル」は、飲み物の量で数えた数字です。一方、前の見出しで紹介したICOの1人当たり消費量は、豆の重さ(kg/1人/年)で数えています。単位が違うので、どちらが正しいという話ではなく、物差しが違うだけです。報道によっては別の年のリットル数が紹介されていることもありますが、ここでは協会の2025年の発表にある数字だけを使っています。
人に話すときは「豆の重さで数えるとICO統計(2023年・kg/1人/年)でドイツ5.4、飲む量で数えると約161リットル(ドイツコーヒー協会・2025年の発表)」と、物差しごとに分けて伝えるのがおすすめです。
| レギュラーコーヒー販売量 | 約456,000トン(前年比1.5%減) |
| 豆のまま(Ganze Bohne) | 193,800トンで過去最多。10年で130%増、挽いた粉は約38%減 |
| 家での淹れ方 | 3世帯に1世帯に豆を使う全自動マシン。インスタントは10杯に1杯 |
| 外で飲む量・1人当たり | 外飲み125,500トン(過去最多)。1人当たり約161リットル |
ペーパーフィルターは1908年のドレスデンで生まれた――発明から1つ穴まで
穴を開けた真鍮の容器に、1枚の紙をのせた
ペーパードリップの始まりは、驚くほど身近な工夫でした。メリタジャパンの公式の沿革には、「メリタ・ベンツは小さな穴をいくつか開けた真鍮製の容器(のちのフィルター)に1枚の紙とコーヒー粉をのせ、お湯を注ぐ方法を考え出しました。」と書かれています。
この仕組みのポイントは、「粉を湯に浸す」のではなく「粉の層に湯を通して、紙で濾し分ける」ところにあります。紙が粉を受け止めるので、注いだ湯はコーヒー液だけになってカップに落ちていきます。今のドリッパーの基本形は、この真鍮の容器と紙の組み合わせにさかのぼります。
現代のドリッパーを見ると、素材はプラスチックや陶器などさまざまですが、「穴のある器に紙をのせ、粉を入れて湯を注ぐ」という骨格は変わっていません。手元のドリッパーの底を見て、穴の数や位置を確かめてみると、発明当時の発想がどう受け継がれているかを実感できます。
1908年6月20日は、出典によって語られ方が違う
この発明の年として知られる1908年ですが、日付の意味は出典によって切り口が違います。メリタジャパンの沿革では、「同1908年6月20日、このメリタ・ベンツのアイデアだけが資本の会社「M.Bentz」が設立されました。」と、会社の設立日として紹介されています。
一方、ドイツ特許商標庁(DPMA)のメリタ・ベンツの紹介ページにも「20. Juni 1908」の日付が登場し、こちらは帝国特許庁に実用新案(Gebrauchsmuster)として出願した日とされています(登録は同年7月8日)。同じページには「15. Dezember 1908」という日付も記されていて、商業登記に関わる日として紹介されています。
どちらかが間違っているわけではなく、メーカーは会社の歴史として、特許庁は発明者と権利の歴史として、同じ年の出来事を書いているということです。人に紹介するときは「メリタジャパンによれば会社設立」「DPMAによれば実用新案の出願」と、出典ごとに分けて伝えるのが正確です。
ミンデンへの移転と、1つ穴・抽出杯数基準の確立
発明のあと、製品はどう広がったのか。メリタジャパンの沿革では、「1912年には本格的に生産を始め、発注に生産が追い付かなくなったメリタ社は、現在の工場があるドイツ北西の町・ミンデンに移転します。」と書かれています(メリタジャパン 沿革)。ただし移転の年は、ドイツ特許商標庁(DPMA)の紹介ページでは1929年で、ドレスデンの部屋が手狭になりヴェストファーレンのミンデンへ移ったとされています。1912年の生産開始と、ミンデンへの移転は別の年の出来事として読むのが正確です。
そして日本の家庭にとって身近なのが、1963年頃の変化です。沿革には「この頃から1つ穴に統一され、同時に1×2のような抽出杯数基準を確立しました。」とあります。最初の真鍮の容器は「小さな穴をいくつか」開けたものでしたが、のちに1つ穴にまとめられ、ペーパーやドリッパーに杯数の目安を書く仕組みができたということです。
やりがちな誤解は、「最初から1つ穴だった」と思い込むこと。沿革を順に読むと、穴の数は時代とともに変わってきたことがわかります。
今も1日約5,000万枚という規模に
DPMAの紹介ページには、「50 Millionen Kaffeefilter」という数字も登場し、メリタ自身の発表による、現在のコーヒーフィルターの1日あたりの生産規模として紹介されています。家庭の台所で生まれた工夫が、1つの産業になったことを示す数字です。
ここで注意したいのは、この数字はメーカー1社のフィルターの規模として紹介されたもので、ドイツ全体や世界全体のペーパーフィルターの量ではない、という点です。数字を引用するときは、誰の何の数字かを添えておきましょう。
ドイツコーヒー流に家でドリップするなら、何から押さえる?
「1×2」はペーパーの大きさと杯数の目安を示す表記
ドイツ生まれのペーパードリップを家で楽しむとき、最初に見てほしいのがペーパーの箱にある杯数表記です。メリタジャパンのペーパーの一覧ページでは、ペーパーのサイズが「1×2(2~4杯用)」のように書かれています。これが、前の見出しで紹介した1963年頃に確立された抽出杯数基準の流れをくむ表記です。
なぜ杯数の目安が大事かというと、ドリッパーとペーパーのサイズが合っていないと、紙が浮いたり、粉と湯が入りきらなかったりして、湯の通り方が安定しないからです。淹れたい杯数に対して小さすぎるサイズを使うと、湯があふれそうになって注ぐペースを乱しやすくなります。
やりがちなのは、ドリッパーを買い替えたのにペーパーは前のサイズのまま、というケース。ドリッパー側にも同じ形式のサイズ表記があることが多いので、両方の表記をそろえてから使いましょう。
抽出杯数基準=ペーパーやドリッパーのサイズを「1×2」のように表し、何杯分を淹れる大きさかを示す目安。メリタジャパンの沿革では1963年頃に確立されたとされ、ペーパー一覧では「1×2(2~4杯用)」のように表記されています。
1つ穴=ドリッパーの底の抽出穴が1つの方式。メリタジャパンの沿革では、同じ頃に1つ穴に統一されたと紹介されています。
粉と湯の量は、手元の器具の案内に合わせる
「ドイツ式なら粉は何g?」と気になるところですが、ここは手元の器具の取扱説明書やパッケージの案内に合わせるのが正解です。粉と湯の量、湯温、注ぎ方の目安は、ドリッパーの形や穴の数によって湯の抜け方が変わるため、メーカーにより異なります。1社の数字を「ドイツの標準」として一般化すると、別の器具では濃すぎたり薄すぎたりする原因になります。
1つ穴のように湯が出ていく場所が限られる形と、穴が複数ある形では、同じ量の湯を注いでも粉に触れている時間が変わりやすくなります。だからこそ、器具ごとにメーカーが目安を示しているわけです。
まずは説明書どおりに淹れて基準の味を知り、そのうえで濃さを調整していくと、何を変えたら味が変わったのかがわかりやすくなります。道具を一から揃える場合は、こちらも参考にしてください。

豆で買って挽く――2025年のドイツの流れを家に取り入れる
今のドイツに近い楽しみ方をしたいなら、「豆で買う」ことを試してみる価値があります。前の見出しで見たとおり、ドイツでは豆のまま売れた量がこの10年で130%増え、挽いた粉は約38%減ったと協会が発表しています。紙で濾す方式は残しつつ、挽くタイミングを家に移している人が増えているわけです。
豆で買うと、挽き目を自分で選べるのが利点です。粉は粒が細かいほど湯に触れる表面が広くなり、成分が出やすくなります。ドリッパーの案内に合う挽き目に合わせられるのは、粉で買うときにはない自由度です。また、挽いた粉は表面積が広いぶん空気に触れやすく、香りが抜けやすいとされています。
一方でデメリットもあります。ミルが必要になり、手挽きなら毎回の手間が増えます。忙しい朝は粉、休日は豆というように、生活に合わせて使い分けるのも現実的です。

王様がコーヒーを独占した?プロイセンの国家専売と、今も続くコーヒー税
1760年に輸入、1780年に焙煎を国家独占に
ドイツのコーヒーの歴史で興味深いのが、国が直接コーヒーを管理した時代があることです。ワシントンのドイツ歴史研究所が公開する資料集「German History in Documents and Images」の解説には、「Teil dieser Bemühungen war die Errichtung von Staatsmonopolen – beispielsweise auf die Einfuhr von Kaffee 1760 und das Rösten von Kaffee 1780.」と書かれています。国家独占の設立の例として、1760年のコーヒーの輸入、1780年のコーヒーの焙煎が挙げられているわけです。
なぜそんなことをしたのか。同じ解説では、七年戦争(1756〜1763年)のあと、プロイセンのフリードリヒ2世が国家財政を立て直すために重商主義の政策を強めたと説明されています。国家独占は、こうした財政再建の取り組みの一部として位置づけられています。
「焙煎まで国が独占した」という点は、家で豆を焙煎できる今の感覚からすると意外に感じるかもしれません。ドイツでコーヒーが早くから財政や政策の対象になっていたことを示すエピソードです。
1784年の銅版画「コーヒー税」が今も見られる
先ほどの解説は、資料集に収められた「Die Kaffeesteuer (1784)」という画像資料に付いたものです。この資料はヨハン・ゴットフリート・シャドウによる1784年のエッチング(銅版画)で、解説によると、絵の机から下がる札には「Das Lot Kaffee fünf Pfennige.」(コーヒー1ロートが5ペニヒ)と書かれています。解説は、独占が厳しい間接税の仕組みと結び付いていたこと、コーヒーだけが国家独占や消費課税の対象ではなかったことにも触れています。
歴史の話は、ネット上で印象的なエピソードとして語られることが多い分野です。ドイツのコーヒーの歴史についても、さまざまな逸話が紹介されていますが、この記事では、今回確認できた公的・学術的な資料に書かれていることだけを取り上げています。
歴史の話題を誰かに伝えるときは、「どの資料に書かれているか」を一緒に確認するのがおすすめです。年号や人物名が具体的な話ほど本当らしく聞こえますが、出典をたどれない話は「〜と言われている」程度にとどめておくと、誤った情報を広げずに済みます。
今のドイツにも「コーヒー税」がある
実はドイツには、今もコーヒーにかかる税があります。連邦司法省の法令データベースに掲載されているコーヒー税法(Kaffeesteuergesetz)の第1条には、「Kaffee sind Röstkaffee und löslicher Kaffee.」とあり、課税の対象となる「コーヒー」は焙煎コーヒーとインスタントコーヒーだと定義されています。同じ条文で、この税が「eine Verbrauchsteuer im Sinn der Abgabenordnung」、つまり租税通則法でいう消費税の一種であることも示されています。
税の額は第2条に定められていて、焙煎コーヒーには「2,19 Euro je Kilogramm」、インスタントコーヒーには「4,78 Euro je Kilogramm」とされています。いずれも1kgあたりの額で、執筆時点で法令データベースに掲載されている条文の記載です。
注意したいのは、これはドイツ国内の制度だということ。日本の制度とは別物なので、日本で買う豆に同じ税がかかっていると考えないようにしましょう。
Kaffeesteuer(コーヒー税)=ドイツのコーヒー税法にもとづく税。対象は焙煎コーヒー(Röstkaffee)とインスタントコーヒー(löslicher Kaffee)で、消費税の一種(Verbrauchsteuer)と位置づけられています。
重商主義=国の富を増やすため、輸出入や産業を国が管理しようとする考え方。18世紀プロイセンのコーヒーの国家独占は、この政策の一部として説明されています。
ドイツのパッケージで迷わない――法律が決める「焙煎コーヒー」と「カフェインレス」
Rohkaffee と Röstkaffee は「焙煎前」と「焙煎後」
ドイツのコーヒーのパッケージや資料を読むと、よく出てくるのが「Rohkaffee」と「Röstkaffee」という言葉です。ドイツには2001年のコーヒー令(Verordnung über Kaffee, Kaffee- und Zichorien-Extrakte)があり、この中で言葉の意味が決められています。Rohkaffeeは果皮や種皮を取り除いた焙煎前の種子、つまり生豆のことです。
Röstkaffeeについては、コーヒー令の別表に「gerösteter Rohkaffee, ungemahlen oder gemahlen, mit einem Wassergehalt von höchstens 50 Gramm in einem Kilogramm」とあります。焙煎した生豆で、挽く前でも挽いた後でもよく、水分が1kgあたり50g以下のもの、という定義です。焙煎で水分が抜けることが、言葉の定義そのものに組み込まれているわけですね。
家で読むときのコツは、「Röst」が「焙煎」を表すと覚えておくこと。焙煎で味がどう変わるかを知っておくと、パッケージの焙煎度の表示も読みやすくなります。

「entkoffeiniert」はカフェインがゼロという意味ではない
ドイツのカフェインレスコーヒーには「entkoffeiniert」と書かれています。コーヒー令の本文では、焙煎コーヒーでこの表示を使えるのは、カフェインが「höchstens ein Gramm Koffein in einem Kilogramm Kaffeetrockenmasse」、つまりコーヒーの乾燥質量1kgあたり1g以下のものとされています。
ここで大事なのは「以下」という書き方です。カフェインを取り除いたコーヒーでも、基準の範囲で少しは残っていることがある、ということを意味しています。ちなみにコーヒー税法の第1条でも、焙煎コーヒーにはカフェインを取り除いたものも含まれると定義されています。
ドイツの「entkoffeiniert」は、コーヒーの乾燥質量1kgあたりカフェイン1g以下という基準を満たした表示で、ゼロを意味する言葉ではありません。原因は、「レス」「除去」という言葉の印象で中身を判断してしまうこと。対策は、表示の言葉が法令でどう定義されているかを確かめることです。体調や妊娠中のカフェインについては医師に相談を。
Ganze Bohne・gemahlen・löslich――袋の言葉で中身がわかる
ドイツのコーヒーの袋で、形を表す言葉も覚えておくと便利です。ドイツコーヒー協会のリリースに出てくる言葉で言えば、「Ganze Bohne」は豆のまま、「gemahlener Kaffee」は挽いた粉、「löslicher Kaffee」はインスタントコーヒーです。コーヒー令の定義にある「ungemahlen(挽いていない)」「gemahlen(挽いた)」も同じ系統の言葉です。
なぜこれが大事かというと、形を間違えると淹れ方そのものが変わるからです。たとえば、ドリップで淹れるつもりで豆のまま(Ganze Bohne)の袋を買うと、ミルがなければ使えません。逆に、全自動マシンに挽いた粉を入れると、マシンの使い方と合わないことがあります。
おみやげや輸入食品店でドイツのコーヒーを選ぶときは、まず形を表す言葉を見て、自分の道具で淹れられるかを確かめましょう。日本で販売される輸入品には日本語の表示も付いているので、そちらとあわせて確認すると安心です。
まとめ
ドイツコーヒーを家で楽しむ最初の一歩は、手元のドリッパーとペーパーのサイズ表記がそろっているかを確かめることです。そのうえで、一度豆のまま買って淹れる直前に挽いてみると、紙で濾すドイツ生まれの仕組みと、豆を家で挽く今のドイツの流れを、両方いっぺんに味わえます。粉と湯の量は器具の案内どおりに始めて、自分の好みの濃さを探していきましょう。
※統計・法令の内容は執筆時点のものです。最新情報は各公式サイトでご確認ください。

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