「深煎り」と書かれた豆を買ってみたけれど、思ったより苦かった。逆に、カフェで飲んだ深煎りのアイスコーヒーはコクがあっておいしかった。同じ「深煎り」なのに印象が違うのはなぜだろう、と感じたことはありませんか。袋に並ぶ「フルシティ」「フレンチ」「イタリアン」といったカタカナも、どれがどのくらい深いのか分かりにくいですよね。
先に結論をお伝えすると、深煎りは「時間をかけて焙煎した豆」のことで、焙煎8段階のうち後半の段階を指します。焙煎が進むほど苦味が前に出て酸味が引っ込み、豆の表面にはオイルがにじみ出てきます。そして淹れるときの湯温しだいで、苦味の出方はある程度コントロールできます。
この記事では、全日本コーヒー協会やキーコーヒー、UCC、HARIOなどの公式情報をもとに、深煎りの定義から豆の中で起きている変化、苦味を調整する淹れ方、アイスやカフェオレとの相性、カフェイン量と保存の考え方までを、理屈から順番に整理していきます。
・深煎りが焙煎8段階のどこに当たるのか、フルシティ・フレンチ・イタリアンの違い
・焙煎が進むと苦味が強まり、豆にオイルが出てくる理由
・湯温と抽出時間で苦味の出方を調整する淹れ方の考え方
・アイスコーヒーやカフェオレとの相性、カフェイン量と保存の目安
深煎りとは?焙煎8段階のどこを指すのか、ことばの意味から整理

深煎りは「時間をかけて焙煎した豆」のこと
深煎りとは、ひとことで言えば焙煎に時間をかけた豆のことです。キーコーヒーの解説では、同じ原料を同じ焙煎方法で煎った場合に、焙煎時間の短いものを浅煎り、程よいものを中煎り、「時間をかけて焙煎したものを「深煎り」と言います」と説明しています。つまり「深い」というのは、熱を加える時間が長く、豆の変化が進んでいる状態を表していると考えると分かりやすいです。
なぜ時間で分けるのかというと、生豆はそのままでは私たちが知っているコーヒーの色や香りを持っておらず、熱を加えることで色が変わり、味の方向性が決まっていくからです。熱を加える時間が長いほど変化は先へ進み、色は濃く、味は苦味寄りになっていきます。
家でやりがちなのが、「深煎り=濃いコーヒー」と思い込んでしまうことです。濃さは豆と湯の量や抽出時間でも変わるので、焙煎度とは別の話です。深煎りの豆でも湯を多めにすれば薄くなりますし、浅煎りでも粉を多くすれば濃く感じます。
豆を選ぶときは、袋の「焙煎度」の欄や商品説明に書かれた段階名をまず見るのがコツです。「深煎り」とだけ書かれている場合も、どの段階を指しているかが補足されていることがあります。
8段階のうち、後ろの3つが深煎りと呼ばれやすい
焙煎度は細かく分けると8段階で表されます。全日本コーヒー協会のコラムでは「焙煎度は最も浅いライトローストから真っ黒になるまで炒り上げたイタリアンローストまで8段階」と紹介されています。浅いほうから順に、ライト・シナモン・ミディアム・ハイ・シティ・フルシティ・フレンチ・イタリアンです。
このうち全日本コーヒー協会のコラムは、フルシティ・フレンチ・イタリアンの3つを「深煎り」、シティを「中煎り」に分けています。一方、UCCの解説やキーコーヒーの解説ではシティを含む4つを深煎りとしていて、どこからを深煎りとするかは資料によって少しずれがあります。8段階は「浅煎り・中煎り・深煎り」の3区分をさらに細かくしたものだと捉えると、整理しやすくなります。
やりがちな失敗は、「シティロースト」と書かれた豆を深煎りだと思って買い、思ったより苦味が穏やかで戸惑うケースです。シティは中煎りと深煎りの境目あたりに置かれることが多い段階なので、苦味のしっかりした味を期待するなら、フルシティ以降の表記を目安にすると選びやすいでしょう。
段階名はカタカナで並ぶと覚えにくいので、「後ろの3つが深煎り」とだけ押さえておけば、店頭や通販の表記で迷いにくくなります。
同じ名前でも店によって差がある——袋の表記をどう読むか
意外と見落とされがちなのが、8段階の境界がメーカーごとに完全に揃っているわけではないという点です。キーコーヒーの解説でも、「同じ焙煎度合いでもコーヒーショップによって若干の違いが出ることがあります」とされています。協会やUCCの説明も、各段階を色や状態で示すもので、色の数値までは書かれていません。
理由は、焙煎度を決める基準が豆の色や焙煎の進み具合といった、連続的に変わる状態だからです。境目をきっちり線引きしにくいため、同じ「フレンチロースト」でも、メーカーが違えば色の濃さや苦味の強さに差が出ることがあります。
家での失敗例としては、あるメーカーの「フルシティ」が気に入ったので別のメーカーの「フルシティ」を買ったら、苦味の印象が違ったというものがあります。これは名前が同じでも焙煎の深さが少し違うことが原因と考えられます。
コツは、段階名だけでなく、商品説明の「苦味」「酸味」の目盛りや味の説明もあわせて見ることです。気に入った豆があれば、メーカー名と段階名をセットでメモしておくと、次に選ぶときの手がかりになります。
焙煎度=生豆に熱を加えた度合いのこと。浅いほうから順にライト・シナモン・ミディアム・ハイ・シティ・フルシティ・フレンチ・イタリアンの8段階で表されます。
深煎り=時間をかけて焙煎した豆。全日本コーヒー協会はフルシティ・フレンチ・イタリアンを深煎りとし、シティを含める資料もあります。同じ名前でも店によって焙煎の深さに違いが出ることがあります。
浅煎り・中煎りと比べると、味と見た目はどこが違う?
苦味が前に出て、酸味が引っ込んでいく
焙煎度による味の違いでいちばん大きいのは、酸味と苦味のバランスです。全日本コーヒー協会のコラムでは「浅炒りほど酸味が強く、深炒りになるほど苦味を感じるようになります」と説明されています。深煎りはこの流れのいちばん苦味側にいる豆、ということになります。
キーコーヒーも「深煎りコーヒーの最大の特徴は苦み」とし、同じページで「酸味については、ほとんど感じることはありません」と紹介しています。焙煎が進むにつれて、浅煎りで感じられた酸味が目立たなくなり、代わりに苦味やコクが中心になっていくわけです。
やりがちな失敗は、「酸っぱいコーヒーが苦手」という理由で深煎りを選んだのに、今度は苦味が強すぎて飲みにくいと感じてしまうことです。酸味が苦手なら、いきなりイタリアンまで行かずに、フルシティあたりから試すと段差が小さく済みます。
選ぶときは「酸味を減らしたい」のか「苦味とコクがほしい」のかを先に決めておくと、段階を絞り込みやすくなります。
色とツヤで、焙煎度の見当がつく
見た目の違いもはっきりしています。キーコーヒーは深煎りの豆の外観を「濃い茶褐色から黒褐色で、ツヤツヤした印象」と説明しています。浅煎りの豆が明るい茶色で表面が乾いた感じなのに対し、深煎りは色が濃く、光を反射するようなツヤがあるのが特徴です。
ツヤの正体は、焙煎が進むにつれて豆の内側からにじみ出てくるオイルです(詳しくは後のセクションで説明します)。焙煎が浅い段階ではオイルが表面まで出てきにくいため、色の濃さとツヤの有無を見れば、おおよその焙煎度の見当がつきます。
注意したいのは、ガラス瓶や透明な袋に入った豆を見て、ツヤが少ないから深煎りではないと判断してしまうことです。深煎りでも焙煎からの日数や段階によって、表面のツヤの出方には差があります。見た目はあくまで目安として使い、表記とあわせて判断するのが安全です。
豆を買う機会があれば、浅煎りと深煎りを並べて色を見比べてみると、8段階の違いが目で理解しやすくなります。
成分の面でも変化がある——クロロゲン酸類が減る傾向
味や色だけでなく、豆に含まれる成分も焙煎度で変わります。全日本コーヒー協会が紹介している研究では「焙煎度が深くなるにつれて,いずれの品種もクロロゲン酸類の含有量は低くなる傾向がみられました」と報告されています。
クロロゲン酸類はコーヒーに含まれるポリフェノールの一種で、焙煎の熱によって変化していく成分です。焙煎が進むほど熱を受ける時間が長くなるため、含有量が下がる方向に働くと考えられます。深煎りの味わいが浅煎りと違うのは、こうした成分の変化も背景にあります。
ここでやりがちなのが、成分の増減をそのまま体への良し悪しに結びつけてしまうことです。上の報告は焙煎度と含有量の傾向を示したもので、どちらの焙煎度が体によいかを述べたものではありません。この記事でも、成分の話は「焙煎で豆が変わる」ことの説明にとどめます。
焙煎度を選ぶ基準は、あくまで味の好みと飲み方で考えるのがおすすめです。
| 項目 | 浅煎り | 中煎り | 深煎り |
|---|---|---|---|
| 焙煎時間 | 短い | 程よい | 時間をかける |
| 味の傾向 | 酸味が強い | 酸味と苦味の中間 | 苦味が中心、酸味はほとんど感じない |
| 見た目 | 明るい茶色 | 茶褐色 | 濃い茶褐色〜黒褐色でツヤがある |
| クロロゲン酸類 | 多い傾向 | 中間 | 低くなる傾向 |
出典:全日本コーヒー協会、キーコーヒー公式の解説をもとに作成
焙煎度ごとの味の変化をもっと広く知りたい方は、8段階全体を解説したこちらの記事も参考にしてください。

フルシティ・フレンチ・イタリアンは何が違う?

フルシティ——アイスコーヒー用の目安になる段階
深煎りの入り口に当たるのがフルシティローストです。全日本コーヒー協会のコラムでは、この段階を「ダークブラウン。アイスコーヒー用はこの段階まで熱を加える」と紹介しています。色は濃い茶色で、苦味がはっきりしてくる一方、黒っぽさはまだ控えめです。
アイスコーヒー用にこの段階まで焙煎するのは、氷で冷やしたり薄まったりしても味の輪郭が残るようにするためと考えられます。冷たい飲み物は温かいものより香りや味を感じにくくなるため、ある程度の苦味とコクが必要になるわけです。
家でやりがちなのは、アイスコーヒーを作るのに浅めの豆を使い、氷が溶けるにつれて味がぼやけてしまうケースです。冷たくして飲む予定があるなら、フルシティ以降を選ぶと薄まりにくくなります。
深煎りに初めて挑戦する人にとっても、フルシティは苦味とまろやかさのバランスが取りやすい段階です。まずはここから試して、物足りなければフレンチへ進むという選び方ができます。
フレンチ——表面に脂肪分が出てくる段階
フルシティよりさらに焙煎を進めたのがフレンチローストです。キーコーヒーの解説では、フレンチローストの見た目を「外観は深い黒褐色で、豆の表面に脂肪分が出てくるのが特徴です。」と説明しています。色が一段と濃くなり、表面のツヤがはっきりしてくるのがこの段階です。
味については、全日本コーヒー協会のコラムで強い苦味と独特の香りが楽しめる段階として紹介されています。焙煎が進んで酸味がさらに後ろに下がるため、苦味とコクがはっきり感じられ、ミルクと合わせても存在感が残りやすくなります。
注意したいのは、フレンチの豆は表面のオイルが多いぶん、保存状態の影響を受けやすい点です。オイルは空気に触れると酸化するので、袋を開けたまま置いておくと風味が落ちやすくなります。保存の考え方は後のセクションで詳しく取り上げます。
カフェオレやカフェラテなど、ミルクを入れて飲むことが多い人には、フレンチは選択肢に入れやすい段階です。
イタリアン——黒に近い色と濃厚な味わい
8段階のうち最後に当たるのがイタリアンローストです。色は黒に近く、全日本コーヒー協会のコラムでは味わいを「強い苦味と濃厚な味わい」と表現しています。ここまで来ると、酸味を感じる場面はほとんどなくなり、苦味と重さが中心になります。
焙煎時間が最も長い段階なので、熱による豆の変化も最も進んでいます。色がここまで濃くなるのは、焙煎とともに豆が茶褐色から黒褐色へと変わっていく流れの終わりにあるからです。
家でやりがちなのは、イタリアンの豆をいつもの湯温・いつもの時間でブラックで淹れて、苦すぎると感じてしまうことです。深い段階ほど苦味が出やすいので、湯温を少し下げる、量を控えめにする、ミルクで割るといった工夫が向いています。
濃厚な苦味が好きな人や、ミルクたっぷりで飲みたい人に合う段階ですが、初めて深煎りを試すなら、一段手前から始めるほうが味の変化をつかみやすいでしょう。
| 項目 | フルシティ | フレンチ | イタリアン |
|---|---|---|---|
| 色・見た目 | ダークブラウン | 深い黒褐色、表面に脂肪分 | 黒に近い |
| 味の紹介 | アイスコーヒー用はこの段階まで | 強い苦味と独特の香り | 強い苦味と濃厚な味わい |
| 向いている飲み方 | アイスコーヒー、深煎り入門 | カフェオレ、アイス | ミルクたっぷりのアレンジ |
出典:全日本コーヒー協会コラム、キーコーヒー公式の記載をもとに作成。段階の境界は各社で異なります
焙煎が進むと、豆の中では何が起きている?
色が茶褐色から黒褐色へ変わっていく
深煎りの色の濃さは、焙煎の熱で豆が変化した結果です。UCCは「焙煎をほどこすことで、コーヒー豆は茶褐色、さらに焙煎が進むに従い、黒褐色へと変化していきます。」と説明しています。8段階の名前は、この色の変化を区切ったものだと考えると理解しやすくなります。
熱を加え続けると、豆の中の成分が変化して色づき、香りや苦味のもとになる成分が生まれていきます。深煎りは、この変化を長く続けた状態です。そのため、色の濃さと苦味の強さはおおむね連動していると捉えられます。
やりがちな勘違いは、「黒いほど品質がよい」「黒いほど上等」と考えてしまうことです。色の濃さは焙煎の深さを示すもので、品質の上下を示すものではありません。浅煎りには浅煎りの、深煎りには深煎りの味わいがあります。
豆を選ぶときは、色を「好みの苦味に近いか」を判断する材料として使うのがコツです。
体積が約1.4〜1.7倍にふくらみ、もろくなる
焙煎中、豆は大きくふくらみます。UCCのコラムでは「水蒸気の圧力が豆の組織を急激に破壊し、体積が約1.4~1.7倍ほどにふくらみます」と説明されています。豆の中の水分が熱で水蒸気になり、その圧力で内側の組織が押し広げられるわけです。
さらに同じコラムでは「焙煎度が深くなるほど、コーヒー豆は膨張し、もろくなり、コーヒーオイルがより滲み出してきます」とも紹介されています。深煎りの豆は、浅煎りよりもふくらみ、組織がもろくなっている状態です。
家での具体的な場面としては、同じ重さの豆でも、深煎りのほうが見た目のかさが大きく感じられることがあります。スプーンの杯数で豆を量っていると、焙煎度が変わったときに実際の重さがずれてしまうことがあるので注意が必要です。
焙煎度の違う豆を淹れ比べる場合は、スプーンではなくスケールで重さを量ると、条件をそろえやすくなります。
にじみ出るオイルの正体
深煎りの豆の表面に見えるツヤは、豆に含まれるオイルです。UCCのコラムによると、コーヒーオイルは「焙煎したコーヒー豆の約15%を占めると言われています」。焙煎で組織がもろくなると、内側にあったオイルが表面へとにじみ出てきます。
浅煎りでは組織がまだしっかりしているため、オイルは豆の中にとどまりやすく、表面は乾いた印象です。深煎りになるほど組織が壊れ、オイルの通り道ができるので、表面がツヤツヤして見えるようになります。
ここでやりがちなのが、表面のオイルを見て「傷んでいる」と思い込んでしまうことです。深煎りの豆にオイルが出るのは焙煎の結果として起きることなので、ツヤがあること自体は異常ではありません。ただしオイルは空気に触れると酸化するため、保存のしかたには気をつける必要があります。
オイルの多い豆を扱うときは、開封後は密閉して早めに使い切ることを意識しておくと安心です。
焙煎が進むと、豆は茶褐色から黒褐色へ変わり、体積が約1.4〜1.7倍にふくらんで組織がもろくなります。その結果、内側のオイルが表面ににじみ出てツヤが生まれます。深煎りのツヤは焙煎の結果であって傷みではありませんが、オイルは酸化しやすいので保存には気を配りましょう。
深煎りをおいしく淹れるには?湯温と抽出時間で苦味を調整する
湯温が高いほど、味がしっかり出る
深煎りを淹れるときにいちばん効いてくるのが湯温です。UCCのコラムでは、湯温は一般的に95℃前後が適温と紹介されています。まずはこのあたりを基準に考えるとよいでしょう。
キーコーヒーの湯温の解説では、深煎りについて「深煎りコーヒーの場合は、味わいが苦み傾向となるため、温度が高いとしっかりした味わいになります。苦みを抑えたい場合は、温度を低めにするとよい」と案内されています。湯温が高いと成分が湯に出やすくなるため、苦味の成分も多く引き出されるという理屈です。
やりがちな失敗は、沸かしたての湯をそのまま注いで、苦味が強すぎると感じることです。下の注意枠で詳しく取り上げますが、深煎りは湯温の影響が味に出やすい焙煎度です。
しっかりした苦味とコクを楽しみたいなら高めの湯温、穏やかにしたいなら低めの湯温と、目的に合わせて使い分けるのがコツです。
苦味を和らげたいなら、湯温を下げてみる
深煎りの苦味がきついと感じたら、豆を変える前に湯温を見直すのが近道です。キーコーヒーの解説では、注ぎ始めから終わりまで95℃〜90℃を目安とする考え方が紹介されており、深煎りで苦味を抑えたいときは温度を低めにするとよいと案内されています。
温度を下げると苦味が和らぐのは、湯の温度が低いほど成分が出るペースがゆるやかになるためです。苦味の成分も同じように出にくくなるので、口当たりがまろやかに感じられやすくなります。
注意したいのは、焙煎度別の具体的な湯温の数値はメーカーによって異なり、決まった正解があるわけではないことです。1社の数値をそのまま「深煎りは○℃」と覚えてしまうと、別の豆で合わないこともあります。
家で試すときは、いつもの湯温で一度淹れ、苦味が強ければ次は少し下げる、という順番で調整していくと、自分の好みの温度が見つけやすくなります。
蒸らしと「注ぎきる時間」も味を左右する
湯温と並んで大切なのが、蒸らしと抽出にかける時間です。HARIOのペーパードリップの解説では、粉に少量の湯を注いで30秒蒸らし、「3分以内に注ぎきる」流れが紹介されています(このページには焙煎度別の湯温の指定はありません)。
蒸らしは、粉全体に湯を行き渡らせて、その後の抽出をむらなく進めるための工程です。そして湯と粉が触れている時間が長いほど成分は多く出るので、時間をかけすぎると苦味や雑味まで引き出されやすくなります。苦味の出やすい深煎りでは、この「時間」の影響も見逃せません。
やりがちなのは、注ぐのに夢中になって時間を気にせず、だらだらと湯を落とし続けてしまうことです。結果として抽出が長引き、苦く重い味になりがちです。
タイマーを使い、注ぎきるまでの時間を意識するだけでも、味のぶれは小さくなります。
挽き目と豆の量は、器具メーカーのガイドで決める
挽き目や豆の量も味に影響しますが、ここはメーカーごとに案内が異なるため、使っている器具の公式ガイドに合わせるのが確実です。ドリッパーの形や穴の数、フィルターの種類によって湯の落ちる速さが変わるので、同じ挽き目でも器具が違えば抽出の進み方が変わります。
理屈として押さえておきたいのは、挽き目を細かくすると湯に触れる面積が増え、成分が出やすくなる方向に働くという点です。深煎りで苦味が強すぎるときに挽き目を細かくすると、苦味がさらに出やすくなるおそれがあります。
家でのやりがちな失敗は、湯温・時間・挽き目・豆の量を一度に全部変えてしまい、何が効いたのか分からなくなることです。調整は1回に1つだけ、が基本です。
まずは器具メーカーの抽出ガイドどおりに淹れ、そこから湯温や時間を少しずつ動かしていくと、深煎りの味を自分好みに寄せていけます。
深煎りは温度が高いほど味がしっかり出るため、沸騰直後の湯をそのまま注ぐと、苦味が想像以上に強く出ることがあります。原因は湯温の高さで成分が一気に引き出されること。対策は、ドリップ用のケトルに移すなどして少し温度を落ち着かせてから注ぐこと。苦味を和らげたいときは、湯温を低めにすると調整しやすくなります。
アイスコーヒーやカフェオレに向くと言われるのはなぜ?
氷で冷やしてもコクが残りやすい
深煎りがアイスコーヒーに向くと言われるのには理由があります。キーコーヒーの解説では、「深煎りの豆から抽出したコーヒーは氷を入れてもコーヒーのコクが失われにくい」と説明されています。全日本コーヒー協会のコラムでも、アイスコーヒー用はフルシティまで熱を加えると紹介されていました。
冷たい飲み物は、温かいときに比べて香りや味を感じにくくなります。さらに氷が溶ければ、そのぶんコーヒーは薄まります。苦味とコクがしっかりした深煎りなら、冷やしたり薄まったりしても味の芯が残りやすいわけです。
やりがちな失敗は、ホット用の濃さで淹れたコーヒーをそのまま氷に注ぎ、水っぽくなってしまうことです。氷で薄まることを見込んで、淹れ方を調整する必要があります。
アイスにする前提なら、フルシティ以降の豆を選び、氷の量や抽出量を考えて淹れるとコクを保ちやすくなります。氷の量と水の割合については、こちらの記事で詳しく解説しています。

ミルクや砂糖と合わせても負けにくい
キーコーヒーは深煎りの楽しみ方として、ミルクや砂糖をたっぷり入れる飲み方、濃い目に抽出してカフェオレにするアレンジ、カフェラテやカプチーノを挙げています。深煎りの苦味とコクは、ミルクの甘みやまろやかさと合わせても存在感が残りやすいのです。
理由は、ミルクを加えるとコーヒーが薄まり、苦味がやわらぐためです。浅煎りの軽い味わいでは、ミルクに埋もれてコーヒーの風味が感じにくくなることがあります。苦味の強い深煎りなら、ミルクで割ってもコーヒーらしさを保ちやすくなります。
家でやりがちなのは、ブラック用と同じ濃さで淹れてミルクを足し、ぼんやりした味になってしまうことです。カフェオレにするなら、ミルクで薄まるぶんを見込んで、いつもより濃い目に淹れるのが基本です。
ブラックでは苦すぎると感じた深煎りの豆も、ミルクと合わせると飲みやすくなることがあります。苦味の強い豆が手元に残ったときの使い道としても覚えておくと便利です。
好みと場面で選ぶ——こんな人に深煎りが合う
深煎りが合うかどうかは、味の好みと飲む場面で考えると選びやすくなります。ここでは読者のタイプ別に、焙煎度の選び方を整理してみます。
酸味が苦手で、すっきりした苦味を楽しみたい人は、まずフルシティから試すのがおすすめです。苦味がはっきりしつつ、イタリアンほどの重さはないので、深煎りへの入り口として選びやすい段階です。毎朝カフェオレやカフェラテを飲む人は、フレンチやイタリアンのように苦味とコクの強い段階を選ぶと、ミルクに負けにくくなります。夏場にアイスコーヒーをよく作る人は、フルシティ以降を選んでおくと、氷で薄まっても味が残りやすくなります。
一方、果実のような酸味や軽やかな香りを楽しみたい人には、深煎りは合わないかもしれません。その場合は浅煎りや中煎りを選ぶほうが満足しやすいでしょう。
迷ったら、ブラックで飲むか、ミルクを入れるか、冷たくするかを先に決めると、焙煎度は自然と絞り込めます。
カフェイン量と保存、気になる疑問はどう考える?
コーヒーのカフェイン量は公的な数値で確認できる
コーヒーのカフェイン量は、食品安全委員会のファクトシートで確認できます。食品安全委員会のファクトシート「食品中のカフェイン」では、コーヒーのカフェイン濃度を100mlあたり60mgとしており、これはコーヒー粉末10gを熱湯150mlで浸出した場合の値です。インスタントコーヒーは100mlあたり57mg(2gを熱湯140mlで溶かした場合)と紹介されています。
この数値を見るときに大切なのは、浸出の条件がセットになっている点です。粉の量や湯の量が変われば、1杯あたりのカフェイン量も変わります。家で淹れるコーヒーは人によって濃さが違うため、表の数値はあくまで目安として捉えるのが適切です。
やりがちなのが、この数値を自分の1杯にそのまま当てはめてしまうことです。マグカップで飲めば量は増えますし、濃く淹れれば濃度も変わります。
カフェインの摂り方が気になる場合は、公的な資料の数値を参考にしつつ、体調や妊娠中のカフェインについては医師に相談してください。
実は、焙煎度でカフェイン量が変わるとは言い切れない
「深煎りは苦いからカフェインが多い」「いや、焙煎で飛ぶから少ない」と、焙煎度とカフェインの関係はさまざまに語られます。ただ、意外と知られていないけれど、焙煎度別のカフェイン量の違いについては、今回確認した公的な資料には数値が示されていません。メーカーの解説では、キーコーヒーが深煎りについて「浅煎りと比較するとわずかですが、カフェインの含有量が少なくなります」と説明していますが、その差の数値は示されていません。
苦味の強さとカフェインの量は、別々に考える必要があります。深煎りの苦味は焙煎による成分の変化から生まれるもので、苦いからといってカフェインが多いとは限りません。逆に、深煎りだからカフェインが少ないと断定できる公的な根拠も、今回の調査では見つかりませんでした。
やりがちなのは、「深煎りならカフェインを控えられる」と思い込んで飲む量を増やしてしまうことです。焙煎度による違いがはっきりしない以上、焙煎度でカフェイン量を調整しようとするより、飲む量や杯数で考えるほうが確実です。
カフェインを控えたい場合は、焙煎度ではなく、デカフェ(カフェインを取り除いた豆)など表示で確認できる商品を選ぶのが分かりやすい方法です。
オイルの多い深煎りは、酸化に気をつける
深煎りの豆は表面にオイルがにじみ出ているぶん、空気に触れる面積が大きくなります。UCCのコラムでは、オイルが酸化すると酸化臭がしたり風味が著しく落ちたりすること、酸化臭がある場合は飲むのを控えることが紹介されています。
オイルは焙煎したコーヒー豆の約15%を占めるとされ、深煎りほど表面に出てきます。表面に出たオイルは空気中の酸素に触れやすく、時間がたつにつれて酸化が進みます。これが、深煎りの豆が保存の影響を受けやすい理由です。
下の注意枠で取り上げるように、袋を開けっぱなしにしたり、日の当たる場所に置いたりするのは避けたいところです。
豆の香りを嗅いで、焙煎直後のような香ばしさではなく、油の古くなったようなにおいがしたら、酸化が進んでいるサインと考えられます。そうした豆は無理に飲まないようにしましょう。
深煎りの豆は表面のオイルが空気に触れやすく、袋を開けたまま置いておくと酸化が進み、酸化臭が出たり風味が落ちたりします。原因は空気・光・温度変化にさらされること。対策は、開封後は密閉性のある容器に移し、温度変化や光、湿気の少ない場所で保管し、早めに使い切ることです。
保存と飲み切りの目安
開封後の豆の保存について、キーコーヒーは「温度変化や光、湿気を避け、密閉性のある容器で保管」することが風味を維持させるポイントだと案内しています。飲み切りの目安としては、豆は4週間、粉は2週間をすすめています。
粉のほうが目安が短いのは、挽くことで表面積が大きくなり、空気に触れる部分が増えるためと考えられます。深煎りの豆はもともとオイルが表面に出ているので、なおさら空気に触れさせない工夫が大切です。レギュラーコーヒーの保存は、直射日光を避けた冷暗所が基本とされています。
やりがちなのが、使うたびに袋を開け閉めしながら、日の当たる棚に置きっぱなしにすることです。こうした置き方は、温度変化と光の両方を受けやすくなります。
買う量を飲み切れる量に合わせ、ミルがあるなら豆で買って淹れる直前に挽くと、風味を保ちやすくなります。保存容器の選び方や冷凍の考え方は、こちらの記事で詳しく紹介しています。

まとめ:苦味の理由がわかれば、自分に合う一杯を選べる
深煎りの苦味は、時間をかけた焙煎で豆の色や成分、組織が変わった結果です。理由が分かれば、苦味は「我慢するもの」ではなく「湯温や飲み方で調整できるもの」になります。まずは手元の深煎りの豆を、いつもより少し低めの湯温で淹れてみて、苦味の出方がどう変わるかを確かめるところから始めてみてください。
※焙煎度の表記や抽出の目安はメーカーによって異なります。最新情報は各メーカーの公式サイトでご確認ください。

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