フィリピンと聞くと、バナナやマンゴーを思い浮かべる人が多いかもしれません。コーヒーの産地としてはあまり話題にならない国ですが、実はアラビカ・ロブスタ・リベリカ・エクセルサの4つのタイプを商業的に育てています。なかでもリベリカは現地でバラコ(Barako)と呼ばれ、フィリピンのコーヒーを語るときに必ず出てくる名前です。
結論から言うと、フィリピンのコーヒーは2020年の生産のうち76.5%をロブスタが占め、その多くはインスタントコーヒー用に回っています。標高の高い地域ではアラビカも育ちますが、国内の需要に生産が追いつかず、フィリピン農務省(DA)のコーヒー産業ロードマップによれば、2020年12月時点で自給率は15%、必要量の約81%を輸入でまかなっています。
この記事では、農務省のロードマップ、フィリピンコーヒー委員会(Philippine Coffee Board)、フィリピン科学技術省系の研究評議会PCAARRDの資料をもとに、品種ごとの違い、バラコの正体、産地と標高、18世紀からの歴史、輸入に頼る理由、そして家で楽しむときの見方までを、数字の年を添えて整理します。
・フィリピンで育つ4品種のシェアと使われ方(2020年)
・バラコ(リベリカ)とエクセルサの関係と、2025年の新しい分類の提案
・ミンダナオとコルディリェラ、標高で分かれる産地の特徴
・かつて輸出国だった国が、必要量の約81%を輸入するようになった理由
フィリピンのコーヒーはどんな豆?2020年の数字で見る全体像

4つのタイプをすべて育てている、少し珍しい産地
フィリピンの大きな特徴は、商業的に流通するコーヒーの主要なタイプを1か国でそろえて育てていることです。PCAARRDの産業プロファイルは、フィリピンで生産できるのはロブスタ、アラビカ、リベリカ(バラコ)、エクセルサの4タイプだと説明しています。多くの産地はアラビカかロブスタのどちらか、あるいは両方が中心なので、リベリカやエクセルサまで一定量を育てている点が目を引きます。
ただし、4タイプがあるからといって、均等に作られているわけではありません。後の章で詳しく見るように、生産量の4分の3以上はロブスタです。フィリピン産と書かれた豆を見かけたときに、どのタイプかで味の方向がまったく変わる、というのが最初に押さえておきたいポイントです。家で飲むときは、国名より先に品種名を確認する習慣をつけると、選び間違いが減ります。
生産量・栽培面積・収量を一枚で確認
農務省のロードマップは、2020年の生産量を60,640.95トン、栽培面積を113,264.89ヘクタール、平均収量を1ヘクタールあたり0.54トンと記録しています(いずれも乾燥チェリー換算、元データはフィリピン統計庁)。地域別では、ミンダナオが生産の83.63%を占め、ルソンが9.18%、ビサヤが7.2%です。
| 生産量・栽培面積 | 60,640.95トン(乾燥チェリー)/113,264.89ヘクタール |
| 主な品種 | ロブスタ76.5%、アラビカ16.7%、エクセルサ5.7%、リベリカ1.1% |
| 地域別の生産割合 | ミンダナオ83.63%、ルソン9.18%、ビサヤ7.2% |
| 需給の状況 | 自給率15%(2020年12月時点)、必要量の約81%を輸入。1997年以降は純輸入国 |
数字を見るときの注意点は、どれも2020年版だということです。ロードマップは2021〜2025年の計画として作られており、最新年の値は別の資料で確かめる必要があります。この記事でも、数字には必ず年を添えています。
実は、6万トンは生豆ではなく乾燥チェリーの重さ
意外と見落とされがちなのが、生産量の単位です。ロードマップの60,640.95トンは、果肉ごと乾かした乾燥チェリー(dried cherries)の重さです。私たちが焙煎前の豆として目にするのは、そこから殻や皮を取り除いた生豆(グリーンコーヒー)なので、同じ収穫でも重さが大きく違います。
ロードマップはロブスタについて、乾燥チェリー41,808.65トンが生豆では20,904.32トンになると併記しています。リベリカも乾燥チェリー462.53トンに対して生豆231.26トンです。どちらもおよそ半分になる計算で、他国の生豆ベースの統計とフィリピンの乾燥チェリーベースの数字をそのまま並べると、規模を見誤ります。生豆がどんな状態のものかは、別の記事でまとめています。

通販サイトや専門店の棚で、いつもの茶色い豆とは違う、淡い色の豆を見かけたことはありませんか。それがコーヒーの生豆です。焙煎する前のコーヒー豆のことで、家で焙煎に…
統計を比べるときは、単位の欄に「DC(乾燥チェリー)」か「GCB(生豆)」かが書かれていないかを確認するのがコツです。
ミンダナオに生産が集中している
地域別の割合では、ミンダナオの83.63%が突出しています。ロードマップによると、なかでも最大の産地はRegion 12(SOCCSKSARGEN)で、全国生産の35.60%を占めます。南部の島に生産が集まっている理由として、ロブスタの主産地がダバオ地域とSOCCSKSARGENであることが挙げられます。生産量の多い品種が育つ場所に、そのまま全体の比重が寄っている形です。
一方で、ルソン北部の山岳地帯ではアラビカが育ち、ルソン南部のバタンガス州リパは歴史的にコーヒーが最初に植えられた土地として知られています。量の中心はミンダナオ、品種や歴史の話題ではルソンの名前もよく出てくる、と覚えておくと産地の話が整理しやすくなります。
4つの品種、シェアと使われ方はどう違う?
ロブスタが76.5%、主な行き先はインスタント
2020年のフィリピンで最も多く作られたのはロブスタで、生産の76.5%(乾燥チェリー41,808.65トン)を占めます。栽培面積も86,376.14ヘクタールと全体の76.26%です。ロードマップは、ロブスタが主にインスタントコーヒーに使われると説明しています。
ロブスタは一般に、アラビカより苦味が強く香ばしい方向の豆として知られ、インスタントや缶コーヒー、ブレンドの土台に使われることが多い種です。そのため、フィリピン産のロブスタを単体でハンドドリップしたとき、アラビカの感覚で淹れると重く感じることがあります。濃さは豆の量で調整し、まずは普段使っている器具のメーカーが案内する分量から始めて様子を見るのが無難です。ロブスタとアラビカの違いそのものは、こちらで詳しく整理しています。

アラビカは16.7%、育つのは標高の高い地域
アラビカは2020年に14,657.46トン(16.7%)、栽培面積18,155.7ヘクタール(16.02%)でした。ロードマップは、アラビカが主に標高の高い地域(1,000m以上)で栽培され、プレミアム価格で取引されると記しています。主産地はロブスタと同じくダバオ地域とSOCCSKSARGENです。
アラビカは寒暖差のある高地で実がゆっくり熟すため、酸味や香りの要素が出やすい種とされています。フィリピンでは全体から見れば少数派ですが、スペシャルティコーヒーとして紹介される豆の多くはこのアラビカです。家でハンドドリップやペーパーフィルターで楽しむなら、まず候補になるのはアラビカでしょう。袋に「Arabica」と書かれていても、どの地域・標高の豆かが書かれていない場合は、販売元の説明で産地を確かめると選びやすくなります。
エクセルサとリベリカは合わせて1割に満たない
エクセルサは3,712.31トン(5.7%)、リベリカは462.53トン(1.1%)で、2つを合わせても1割に届きません。主産地も異なり、エクセルサはARMMとダバオ、リベリカは西ビサヤとARMMが中心です(2020年)。量は少ないものの、どちらもフィリピンのコーヒーを特徴づける存在です。
| 項目 | ロブスタ | アラビカ | エクセルサ | リベリカ |
|---|---|---|---|---|
| 生産量(乾燥チェリー) | 41,808.65トン | 14,657.46トン | 3,712.31トン | 462.53トン |
| 生産シェア | 76.5% | 16.7% | 5.7% | 1.1% |
| 栽培面積 | 86,376.14ha(76.26%) | 18,155.7ha(16.02%) | 7,429.6ha(6.56%) | 1,303.45ha(1.16%) |
| 主な産地 | ダバオ地域・SOCCSKSARGEN | ダバオ地域・SOCCSKSARGEN | ARMM・ダバオ | 西ビサヤ・ARMM |
| ロードマップの説明 | 主にインスタント用 | 標高1,000m以上の地域で栽培 | 干ばつ・病害虫に強い | 強い風味と鋭い香り |
出典:フィリピン農務省 Philippine Coffee Industry Roadmap 2021-2025(元データ:フィリピン統計庁)
割合の数字は「全国」か「ミンダナオ」かを見分ける
フィリピンの品種割合を調べると、資料によって数字が違うことがあります。ロードマップの中にも、全国の値(上の表)とは別に、ミンダナオに限った割合の記述があります。対象地域が違えば割合が変わるのは当然ですが、見出しだけを拾うと全国の数字と取り違えやすくなります。
やりがちなのは、ネット上で見かけた割合を「フィリピン全体の品種構成」として覚えてしまうことです。数字を見たら、対象(全国か特定の島か)、年、単位(乾燥チェリーか生豆か)の3点を確かめるだけで、取り違えはほぼ防げます。この記事の割合は、すべて2020年の全国値です。
バラコとは何者?リベリカとエクセルサをめぐる新しい分類

バラコはリベリカのフィリピンでの呼び名
フィリピンコーヒー委員会は、フィリピンのリベリカが現地でBarako/Baracoと呼ばれると説明しています。農務省のロードマップでも、リベリカはKapeng Barako(カペン・バラコ)とも呼ばれ、強い風味と鋭い香りを持つと紹介されています。カペンはタガログ語でコーヒーを指す言葉に由来する表記で、バラコは豆の名前として定着しています。
つまり、バラコという独立した品種があるのではなく、リベリカの地元での呼び名です。ただし市場では、バラコという名前がブランドや商品名のように使われることもあり、袋の表記だけでは中身の種が分からない場合があります。味の説明は、公的資料で確認できるのは強い風味と鋭い香りという範囲までです。それ以上の細かな風味の表現は販売元ごとの説明なので、参考程度に受け止めておくのがよいでしょう。
エクセルサは実の大きさと強さが特徴
ロードマップはエクセルサについて、実がアラビカより大きくリベリカより小さく、他のタイプより干ばつや病害虫に強いと説明しています。気候の変動に耐えやすい性質は、生産が伸び悩むフィリピンにとって注目される理由の一つです。
生産量は2020年に3,712.31トンで、リベリカの8倍近くあります。リベリカとエクセルサは長く同じ種の仲間として扱われてきたため、販売の現場では両者がまとめて紹介されることもあります。どちらを飲んでいるのかを知りたい場合は、袋に「Excelsa」「Liberica」のどちらが書かれているかを見るのが確実です。
バラコ(Barako/Baraco):フィリピンでのリベリカの呼び名。Kapeng Barako(カペン・バラコ)とも呼ばれる。
エクセルサ(Excelsa):実の大きさがアラビカとリベリカの中間で、干ばつや病害虫に強いとされるタイプ。
乾燥チェリー(DC):果肉ごと乾かしたコーヒーの実。生豆(GCB)より重く、統計の単位として使われることがある。
2025年、リベリカは3種に分けられると提案された
海外のコーヒー業界メディアの報道によると、2025年8月8日に学術誌Nature Plantsで、英国キュー王立植物園などの研究チームが、これまで1種として扱われてきたリベリカを、C. liberica、C. dewevrei(エクセルサにあたるもの)、C. klaineiの3種に分けるという提案を発表しました。業界での呼び名は、引き続きエクセルサが使われるとされています。
同じ研究者らは、リベリカが世界のコーヒー生産の1〜2%を占めるという通説は19世紀末の数字にもとづく誤りで、現在は1,000トン未満、輸出のおよそ0.01%にとどまると述べていると報じられています。これは分類学上の提案であり、すぐに表示や流通が変わるわけではありません。ただ、リベリカとエクセルサを別の豆として理解しておくと、今後の情報を読み解きやすくなります。
バラコはリベリカの現地名ですが、商品名として使われると、エクセルサやロブスタとのブレンドが同じ名前で売られている場合もあり得ます。名前だけで選ぶと、思っていた強い香りの豆と違うことがあります。原因は、呼び名と種名が1対1で表示されていないことです。対策として、袋の品種欄に「Liberica」の表記があるか、ブレンドならその配合が書かれているかを確かめましょう。
リベリカが少ない理由を数字から読む
フィリピンでもリベリカは生産の1.1%(2020年)にすぎません。栽培面積は1,303.45ヘクタールで、面積の割合(1.16%)と生産の割合がほぼ同じです。面積あたりの収量がとくに高いわけでも低いわけでもなく、単純に植えられている面積が小さい、という読み方ができます。
歴史的には、19世紀末にフィリピンの農園を襲ったさび病のあと、病気に強いタイプへの植え替えが進んだ経緯があります。現在の主力がロブスタであるのは、インスタント向けの需要と栽培のしやすさが重なった結果と考えられます。量の少ないリベリカは、だからこそ地域の名物として語られる存在になっています。
産地はどこ?ミンダナオとコルディリェラ、標高で変わる豆
ミンダナオは量の中心、アポ山周辺も産地に
フィリピンコーヒー委員会の整理では、ミンダナオの産地は標高700〜1,200m超で、ダバオ・デル・スル州のアポ山周辺が挙げられています。前章で見たとおり、ミンダナオは全国生産の83.63%を占め、ロブスタとアラビカの主産地であるダバオ地域とSOCCSKSARGENもこの島にあります。
PCAARRDの資料は、下院法案の資料を引いて、2020年の栽培面積が大きい地域としてSOCCSKSARGEN(27,010.25ヘクタール)、ダバオ地域(15,881.29ヘクタール)、ARMM(13,976ヘクタール)、CALABARZON(13,196ヘクタール)、北ミンダナオ(11,639.41ヘクタール)を挙げています。また、SOCCSKSARGENのスルタン・クダラット州を国内で最もコーヒー生産の多い州として紹介しています。
コルディリェラは標高1,000〜1,800mのアラビカ産地
ルソン島北部の山岳地帯、コルディリェラ行政地域は、アラビカの産地として紹介されることの多い場所です。フィリピンコーヒー委員会は、マウンテン州、ベンゲット、カリンガ、イフガオ、アブラを含む山岳地域と説明しています。
| コルディリェラの主な州 | ベンゲット、カリンガ、イフガオ、マウンテン州、アブラ(北ルソン) |
| コルディリェラの標高・品種 | 標高1,000〜1,800m。レッドブルボン、イエローブルボン、ティピカ、モンドノーボ、カトゥーラ |
| ミンダナオの標高・代表地 | 標高700〜1,200m超。アポ山(ダバオ・デル・スル州) |
| 淹れ方のコツ | 高地のアラビカはペーパードリップで酸味と香りの出方を確認。ロブスタ主体なら豆量で濃さを調整 |
出典:フィリピンコーヒー委員会(Philippine Coffee Board)の産地紹介
品種名に並ぶブルボンやティピカは、中南米やアフリカでも広く育てられているアラビカの品種です。コルディリェラの豆を買うときに品種名まで書かれていれば、他の国の同じ品種と比べながら飲む楽しみ方もできます。なお、山岳地帯の個別の町の名前を冠した豆も流通していますが、町ごとの標高や品種は公的資料で確認できない場合が多いので、販売元の説明として読むのがよいでしょう。
コーヒーベルトの中にある国という見方
全日本コーヒー協会の生産地の解説によると、コーヒーは世界約70ヵ国以上で栽培され、その多くは赤道をはさむ北緯25°から南緯25°の熱帯地域、いわゆるコーヒーベルトに集中しています。協会のこのページにフィリピンの個別の記載はありませんが、農務省のロードマップは、フィリピンがコーヒーベルトに位置しており、支援があれば広く生産性の高い栽培ができる可能性があると記しています。
つまり、気候の条件だけを見れば、フィリピンはコーヒーに向いた土地に入っています。それでも輸入に頼っているのは、気候ではなく栽培の管理や樹の更新といった別の要因が大きいということです。コーヒーベルトの考え方自体は、こちらの記事で詳しく解説しています。

コーヒー豆の袋や産地の説明で、コーヒーベルトという言葉を見かけたことはありませんか。なんとなく赤道のあたりの暑い国で採れる、というイメージはあっても、どこからど…
同じ国でも標高で豆の性格が変わる理由
フィリピンの産地を標高で見ると、ミンダナオは700〜1,200m超、コルディリェラは1,000〜1,800mと幅があります。ロードマップがアラビカを1,000m以上の高地で育つ種と説明しているとおり、標高の高い場所ほどアラビカの割合が高くなる傾向があります。
標高が上がると気温が下がり、実が熟すまでの時間が長くなります。その間に糖や酸などの成分がゆっくり蓄えられるため、高地の豆は酸味や香りの要素が出やすいとされています。反対に低地ではロブスタが中心になり、苦味やコクの方向に寄りやすくなります。家で飲み比べの対象を選ぶなら、同じフィリピン産でも、産地名と品種名がセットで書かれた豆を選ぶと違いの理由が分かりやすくなります。
18世紀に始まり、世界4位の輸出国を経て輸入国へ
1740年、リパに最初の1本が植えられた
フィリピンコーヒー委員会によると、フィリピンに最初のコーヒーの木が植えられたのは1740年で、スペインのフランシスコ会の修道士がバタンガス州のリパに持ち込んだとされています。農務省のロードマップも、コーヒーはフィリピンで4世紀にわたって生産されてきた農産物だと記しています。
リパのあるバタンガスは、いまでもバラコの産地として名前が挙がることの多い地域です。リベリカが強い香りの豆として地元で親しまれてきた背景には、この長い栽培の歴史があります。ただし、最初に植えられた木がどのタイプだったかについては、ここで参照した公的資料では確認できませんでした。
1880年代、世界第4位のコーヒー輸出国に
フィリピンコーヒー委員会は、1886年までにフィリピンが世界第4位のコーヒー豆輸出国と評されていたと説明しています。PCAARRDの資料では、1880年に世界第4位の輸出国になったと書かれており、年は資料によって1880年とも1886年とも異なります。いずれにしても、1880年代にフィリピンが有力な輸出国だったことは複数の資料で一致しています。
当時、世界の別の産地でさび病が広がり生産が落ち込んでいたことが、フィリピンの存在感を高めたとする説明もあります。現在の輸入国としての姿から見ると意外ですが、フィリピンのコーヒーは国際市場で一時期かなりの位置を占めていたのです。
19世紀末のさび病で農園が壊滅
輸出の勢いを止めたのが、コーヒーさび病です。PCAARRD掲載の産業プロファイルは、さび病が農園を壊滅させたと記しています。何年の出来事かは資料によって1889年、1891年、1894年と食い違っているため、この記事では19世紀末と書いておきます。
さび病は葉に斑点ができて光合成ができなくなる病気で、主にアラビカが被害を受けやすいとされています。この打撃のあと、病気に強いタイプへの植え替えが進み、現在のロブスタ中心の生産構造につながっていきました。
1997年から純輸入国という現在地
農務省のロードマップは、フィリピンが1997年以降、純輸入国になったと記しています。純輸入国とは、輸出より輸入の量が多い国のことです。かつての輸出国が、20世紀の終わりに立場を逆転させたことになります。
ロードマップの記録では、コーヒーの輸入量は2019年におよそ3万7,200トン、2020年におよそ4万7,700トンでした(ロードマップ記載のキログラム値を換算)。2020年の輸入のうち、焙煎もカフェイン除去もしていない生豆が約4万6,600トンと、大半を占めています。国内で焙煎・加工するための原料として、豆を海外から買っている構図が見えてきます。
なぜ必要量の約81%を輸入?生産が伸び悩む4つの背景
消費は増え、生産は減っている
ロードマップによると、フィリピンのコーヒー生産量はこの10年で年3.5%のペースで減ってきました。一方で国内の消費は2018〜2020年に2.1%増えています。需要が伸びるのに供給が減れば、差は輸入で埋めるしかありません。その結果が、2020年12月時点の自給率15%、必要量の約81%を輸入という数字です。
ロードマップは、スペシャルティコーヒーの店や海外のコーヒーブランドが増えるにつれて輸入が伸び続けているとも書いています。国内で飲まれるコーヒーの多くが、海外産の豆でできているということです。
フィリピンが輸入に頼るのは、コーヒーが育たない国だからではありません。コーヒーベルトの中にありながら、収量の低下、樹の高齢化、小規模な農家の多さ、気候の変化といった要因が重なり、増える国内需要に生産が追いついていないためです(農務省ロードマップ・PCAARRD資料より)。
1ヘクタールあたりの収量が年2.53%ずつ低下
ロードマップは、過去10年で1ヘクタールあたりの収量が年2.53%減り、1本の樹あたりの収量も年2.09%減ったと記しています。実がなる樹(結果樹)は、2016年の約7,773万本・1ヘクタールあたり0.64トンから、2019年には約7,450万本・0.54トンに減少しました。
樹の本数が減っただけでなく、残った樹から取れる量も減っているのがポイントです。ロードマップは、この低い生産性が、樹の高齢化、若返り(更新)の不足、農園管理の不十分さなどと関係していると説明しています。コーヒーの樹は植えてから実がなるまで数年かかるため、植え替えを先送りにすると、収量の回復にも時間がかかります。
老齢樹・苗木不足・収穫後の設備
ロードマップが挙げる課題は、低収量、老齢樹、土壌の肥沃度の低さ、病害虫対策の限界、収穫後の加工施設の不足、融資や市場へのアクセスなどです。PCAARRDの資料も、拡大や植え替えに使う収量の高い良質な苗木が足りないことを、産業の足かせとして挙げています。
収穫後の施設が足りないと、乾燥や選別が十分にできず、品質が安定しにくくなります。品質が安定しなければ高く売れず、農家が樹の更新に投資する余裕も生まれにくい、という循環が起きやすくなります。課題が一つではなく、いくつも連鎖している点が、生産の回復を難しくしている理由です。
小規模農家と気候変動のリスク
ロードマップによると、フィリピンのコーヒー農家の多くは1〜2ヘクタールの小規模経営です。規模が小さいと、新しい苗木や加工設備への投資を自力でまかなうのは容易ではありません。
さらにPCAARRDの資料は、気候変動によって栽培に適した地域が縮小し、干ばつが起き、病気の発生範囲が広がる可能性を指摘しています。干ばつや病害虫に強いとされるエクセルサが注目されるのは、こうした背景があるからです。家でフィリピン産の豆を見かける機会が少ないのも、もともと国内の需要すら満たせていない生産規模を考えれば自然なことだと言えます。
フィリピンのコーヒーを日本で楽しむには?消費のかたちと選び方
現地ではインスタントが日常の一杯
ロードマップは、フィリピンで流通するコーヒーとして国内外のインスタント系ブランドを例に挙げています。生産の76.5%を占めるロブスタが主にインスタント用であることを考えると、フィリピンの日常のコーヒーはインスタントが中心だと言えます。
ロードマップによれば、2020年には在宅での消費が増えたことで、レギュラーコーヒーからインスタントコーヒーミックスに移る消費者が多かったとされています。インスタントコーヒーミックスは、粉のコーヒーに砂糖やクリーミングパウダーをあらかじめ混ぜたものです。お湯を注ぐだけで甘いミルクコーヒーになる手軽さが、家で飲む場面に合っていたと考えられます。
スペシャルティの店が増え、輸入も伸びている
一方で、ロードマップはスペシャルティコーヒーの店や海外ブランドの増加に合わせて輸入が伸び続けていると書いています。インスタント中心の日常と並行して、豆の産地や品種にこだわる飲み方も広がっているわけです。
この動きは国産の豆にとって追い風にも向かい風にもなります。高地のアラビカやバラコのような特徴ある豆は、産地の個性として評価されやすくなる一方、店で使われる豆の多くは輸入品です。フィリピン産をうたう豆が少量の高地産アラビカや地域の名物として紹介されやすいのは、こうした需給のバランスの表れでもあります。
お土産などでフィリピン製のインスタントコーヒーミックスを手に取ると、フィリピン産の豆の味だと思いがちです。しかしフィリピンは必要量の約81%を輸入しており(2020年12月時点)、輸入の大半は国内で加工するための生豆です。製造国と豆の産地は別物と考え、原材料の産地表記が書かれていればそこを確かめましょう。
日本で豆を選ぶときは品種名と産地名を見る
日本でフィリピン産の豆を探すときに役立つのは、袋の表記を読むことです。まず品種名で、アラビカ、ロブスタ、リベリカ(バラコ)、エクセルサのどれかを確かめます。次に産地名で、ベンゲットやカリンガといったコルディリェラの州名か、ミンダナオの地名かを見ると、標高の目安がつきます。
淹れ方は、豆の性格に合わせて考えます。高地のアラビカは、普段のペーパードリップで酸味と香りの出方を確かめるのが分かりやすい方法です。ロブスタやバラコのように強い風味の豆は、まず普段の器具のメーカーが案内する分量で淹れ、濃く感じたら豆の量を少し減らして調整します。ミルクを合わせる飲み方も、インスタントミックスが日常のフィリピンの飲み方に近い楽しみ方です。
読者タイプ別の楽しみ方
産地の個性を知りたい人は、コルディリェラやミンダナオの高地産アラビカを、品種名まで書かれたものから選ぶと、ブルボンやティピカといった他国でもおなじみの品種と比べる楽しみが広がります。珍しい豆を試したい人には、世界的に流通量の少ないリベリカ(バラコ)やエクセルサが候補です。量が少ない分、見かけたときに品種表記を確かめて選ぶことが大切です。
現地の日常の味を知りたい人は、インスタントコーヒーミックスでフィリピンの家庭の一杯を体験するのも一つの方法です。ただしその場合は、豆の産地より飲み方の文化を味わうものと割り切るのがよいでしょう。ミルクの合わせ方を工夫したい人は、乳製品の種類による違いを知っておくと、家でも好みの一杯に近づけます。
まとめ:品種名と年を確かめて選ぶのが近道
フィリピンのコーヒーは、18世紀に始まり、世界第4位の輸出国からさび病を経て輸入国へと姿を変えてきました。量は少なくても、高地のアラビカやバラコのように個性のはっきりした豆が育っています。まずは豆を買うときに袋の品種名と産地名を読み、どのタイプのフィリピンのコーヒーなのかを確かめるところから始めてみてください。
※この記事の統計は主に2020年版の資料にもとづいています。最新情報は各機関の公式サイトでご確認ください。

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