コーヒー豆の袋や焙煎の解説を読んでいて『焙煎指数』という言葉に出会い、何の数字なのか、数字が大きいと深いのか浅いのか、と気になった方は多いのではないでしょうか。シティやフレンチといった名前はなんとなく知っていても、アグトロン値やL値のような数字が出てくると、急に専門的に見えてしまいますよね。
先に結論をお伝えします。『焙煎指数』という名前の指数を、全日本コーヒー協会・日本スペシャルティコーヒー協会・メーカー公式の定義として確認できるページは、今回の調べ(2026年10月時点)では見つかりませんでした。焙煎の深さを表す物差しとして実際に使われているのは、協会が示す8段階の焙煎度の名前、測定器で色の明るさを数値にしたアグトロン値やL値、そして目で比べる色見本タイルです。どれも焙煎が深くなるほど色が濃くなることを手がかりにしています。
この記事では、この3系統の物差しを順番にほどきながら、浅煎り・中煎り・深煎りの境目、数字の読み方、店やメーカーで区分が合わない理由までを整理します。最後に、袋の表示を豆選びと淹れ方に生かす手順もまとめました。
・『焙煎指数』の正体と、焙煎の深さを表す3系統の物差し
・協会の8段階と、浅煎り・中煎り・深煎りの境目
・アグトロン値「55/68」型の表記とL値の読み方
・同じシティでも店によって深さが違う理由と、豆選びへの生かし方
焙煎指数とは何を指す?公式の定義が見当たらない言葉の正体

協会やメーカーの公式ページでは「焙煎指数」という用語を確認できない
結論から言うと、焙煎指数という言葉は、業界団体やメーカーが定めた正式な指標名としては確認できませんでした。焙煎の深さについて解説している全日本コーヒー協会のコラムや、UCCの焙煎についての解説ページを見ても、使われているのは焙煎度という言葉と、ライトからイタリアンまでの8段階の名前です。
理由は、焙煎の深さを1本の数字で表す共通ルールが、そもそも業界全体では統一されていないからです。色を数値で測る方法はありますが、測定器や基準によって値が変わることが知られています。だからこそ、多くの公式解説は数値ではなく段階の名前と色の言葉で焙煎度を説明しています。
やりがちなのは、検索で見つけた二次サイトの数値表を、公式の基準のように受け取ってしまうことです。焙煎指数で調べると、焙煎度ごとに数値の範囲を割り振った表が出てくることがありますが、出典がたどれないものや、資料ごとに数値が食い違うものも混ざっています。
コツは、数字を見たら「誰が、何の機械で、何を測った数字か」を確かめることです。出所が書かれていない数値表は参考程度にとどめ、まずは協会の8段階の名前で焙煎度をつかむほうが、豆の袋の表示とも結びつけやすくなります。
検索する人が知りたいのは「どのくらい炒ったか」の物差し
焙煎指数と検索する人が本当に知りたいのは、この豆はどのくらい深く炒ってあるのか、それが味にどう影響するのか、という一点だと考えられます。言葉そのものより、焙煎の深さを比べるための物差しを探しているわけです。
そう考えられる理由は、焙煎の深さが味の方向を大きく左右するからです。全日本コーヒー協会は焙煎度について焙煎度に関する解説で「浅炒りほど酸味が強く、深炒りになるほど苦味を感じるようになります」と説明しています。酸味派か苦味派かで選ぶ豆が変わる以上、深さを比べる手段が欲しくなるのは自然なことです。
よくある迷い方は、豆の袋に数字が書かれていないことを不安に感じて、数値表示のある豆だけを探してしまうパターンです。家庭向けの豆の多くは、数値ではなく焙煎度の名前や浅煎り・深煎りといった言葉で表示されています。
まずは、袋に書かれた焙煎度の名前を見つけることから始めましょう。名前があれば、協会の8段階のどこに当たるかを当てはめるだけで、おおよその味の方向がわかります。数値はその先、深く知りたくなったときの道具だと考えると気が楽です。
物差しは「名前」「色の数値」「色見本」の3系統に分けると整理できる
焙煎の深さを表す方法は、大きく3つに分けると整理しやすくなります。1つ目はライトやシティといった段階の名前、2つ目はアグトロン値やL値のように測定器で色の明るさを数値にしたもの、3つ目は色見本と見比べて目で判断する方法です。
3つとも共通しているのは、焙煎が進むほど豆の色が濃くなる性質を手がかりにしている点です。UCCは、生豆は淡緑色で、焙煎すると茶褐色になり、さらに炒り進めると黒褐色へと変わっていくと説明しています。色は焙煎の進み具合をもっとも目で追いやすい変化なのです。
実は意外と知られていないけれど、数値の物差しは「数字が大きいほど深い」わけではありません。アグトロン値もL値も、色が明るいほど数値が大きく、焙煎が深いほど数値は小さくなります。指数という言葉から、大きいほど強い・深いとイメージして読み違えるのは、焙煎の数字でいちばん起こりやすい誤解です。
この3系統は、どれか1つが正解というより、使う場面が違います。豆を買うときは名前、品質管理や評価の場では数値、焙煎の練習では色見本、と役割を分けて覚えておくと混乱しません。
焙煎度=豆をどのくらい深く炒ったかの程度。全日本コーヒー協会はライトからイタリアンまでの8段階で説明しています。
アグトロン値=測定器で焙煎豆や粉の色の明るさを数値にしたもの。焙煎が深いほど数値が小さくなります。
L値=挽いた粉の明度を色差計で測った値。黒が0、白が100で、焙煎が深いほど小さくなります。
浅煎り・中煎り・深煎りは8段階のどこで切れる?
協会の表では8段階を「浅・中・深」の3つにまとめている
全日本コーヒー協会は、焙煎度を8段階で示したうえで、それを3つの大きなグループにまとめています。浅煎りにライトとシナモン、中煎りにミディアム・ハイ・シティ、深煎りにフルシティ・フレンチ・イタリアンが入ります。
協会は焙煎度の解説ページで、焙煎度は「大まかには浅炒り、中炒り、深炒りの3段階」に分けられると説明しています。なお、協会のページでは煎りではなく炒りという字が使われていますが、指している内容は同じです。
やりがちな失敗は、8段階の名前をばらばらに覚えようとして挫折することです。8つを丸暗記するより、浅煎り2つ・中煎り3つ・深煎り3つ、という数の配分で覚えるほうが頭に入ります。2・3・3と覚えておけば、袋で見かけた名前がどのグループかすぐに判断できます。
豆の袋を見るときは、まず浅煎り・中煎り・深煎りのどれかを確かめ、次に8段階の名前があればグループの中のどのあたりかを見る、という2段階で読むのがコツです。
| 項目 | 浅煎り | 中煎り | 深煎り |
|---|---|---|---|
| 含まれる呼称 | ライト、シナモン | ミディアム、ハイ、シティ | フルシティ、フレンチ、イタリアン |
| 協会の色の説明 | ライトは黄色がかった小麦色、シナモンはシナモン色 | ミディアムは茶褐色、シティは鮮やかなコーヒーブラウン | フルシティはダークブラウン、イタリアンは黒に近い色 |
| 協会の味・特徴の説明 | 香り・コクはまだ薄く、シナモンはまだ青くささが残る | ミディアムはアメリカンタイプの軽い味わい、シティは最も標準的な炒り方 | フルシティはアイスコーヒー用の段階、イタリアンは強い苦味と濃厚な味わい |
色の言葉で8段階を浅いほうから追いかける
8段階は、色の言葉で順に追うと変化の流れがつかめます。協会の説明では、ライトは黄色がかった小麦色で香りやコクはまだ薄く、シナモンはその名のとおりシナモン色でまだ青くささが残る段階です。ミディアムは茶褐色でアメリカンタイプの軽い味わい、シティは鮮やかなコーヒーブラウンで最も標準的な炒り方とされています。
色が段階の目印になるのは、焙煎中に豆の成分が熱で変化し、それが色・香り・味の変化として同時に表れるからです。色は外から見える変化なので、名前の基準として使いやすいのです。
具体的には、深煎り側に進むと、フルシティはダークブラウン、イタリアンは黒に近い色になり、強い苦味と濃厚な味わいになると協会は説明しています。一方、ハイとフレンチについては、協会ページで色の個別説明までは確認できませんでした。両隣の段階の間にあると考えて読むのが無理のない読み方です。
家で豆を見比べるときの注意点として、照明の色で豆の色の見え方は変わります。暖色の照明の下では赤みが強く見えやすいので、色で比べるなら同じ場所・同じ明るさで並べるのがコツです。

コーヒー豆を買うとき、パッケージに浅煎り・中煎り・深煎り、あるいはシティロースト、フレンチローストといった表示を見かけますよね。なんとなく苦そう、酸っぱそうと想…
シティは「中煎り」に入る。深煎りと混同しない
8段階の中で、もっとも位置を取り違えやすいのがシティです。協会の表ではシティは中煎りのいちばん深い側に入り、深煎りの始まりはその次のフルシティです。
取り違えが起きやすい理由は、シティという名前が、フルシティという深煎りの名前と似ているからです。名前の後半が同じなので、同じグループに見えてしまいます。さらに、後で詳しく触れるとおり、メーカーによってはシティを深炒りの側に分類しているケースもあり、情報源によって説明が揺れています。
よくあるのは、深煎りが好きでシティの豆を選んだら、思ったより酸味が残っていた、というパターンです。逆に、中煎りのつもりでフルシティを選ぶと、苦味が想像より前に出ることがあります。名前が1語違うだけで、協会の区分ではグループがまたがっているのです。
この記事では、協会の表に合わせてシティを中煎りとして扱います。豆を選ぶときは、シティは中煎りの深め、フルシティから深煎り、と境目を一行で覚えておくと迷いません。
色が濃くなると、なぜ酸味が引いて苦味が出てくる?

生豆は淡い緑色。焙煎しなければ飲めない
焙煎の深さを語る前に、出発点を押さえておきましょう。UCCは、焙煎前の生豆は淡緑色で、味も香ばしさもほとんどなく、そのままでは飲めないと説明しています。私たちが知っているコーヒーの色・香り・味は、すべて焙煎で生まれるものです。
理由は、生豆の段階では香りや苦味のもとになる成分がまだできていないからです。焙煎によって熱が加わることで、豆の成分が変化し、はじめてコーヒーらしい風味が生まれます。焙煎度の違いは、その変化をどこで止めたかの違いだと言えます。
家で手網やフライパンで焙煎してみようとする人がやりがちなのは、生豆の香りを確かめて、香りがしないから品質が悪いと判断してしまうことです。生豆の段階で香ばしさがないのは自然なことで、豆の良し悪しとは別の話です。
生豆の扱いや精製の違いをもっと知りたい場合は、生豆そのものの性質を解説した記事も参考になります。焙煎度の物差しは、この淡緑色から黒に近い色までのどこにいるかを示すものだと考えると、数字の意味もつかみやすくなります。
焙煎中の化学変化が香り・苦味・酸味・甘味を生む
焙煎で味が変わるのは、豆の中で化学変化が起きるからです。UCCは、焙煎中に豆の成分が化学変化を起こし、香り・苦味・酸味・甘味が生まれると説明しています。
ここで大事なのは、酸味も苦味も焙煎によって生まれる風味だという点です。焙煎の進み具合によって、どの風味が前に出るかのバランスが変わっていきます。焙煎度の物差しは、このバランスがどちら寄りかを読むための目印になります。
やりがちな誤解は、深煎りは単に焦がしただけで、豆本来の味がなくなっている、という見方です。協会もUCCも、深煎りの苦味やコクを焙煎で引き出される特徴として説明しています。浅煎りが本来の味で、深煎りは焦げ、という二択で考えると、豆選びの幅を狭めてしまいます。
味のバランスを読むときのコツは、色と味をセットで考えることです。色が明るいほど酸味寄り、暗いほど苦味寄り、という対応を頭に置いておくと、アグトロン値やL値の数字を見たときも味の方向に置き換えられます。
浅いほど酸味、深いほど苦味という基本の傾向
焙煎度と味の関係でいちばん大切な傾向は、浅いほど酸味が強く、深いほど苦味が強く感じられるということです。協会は焙煎度の解説で「浅炒りほど酸味が強く、深炒りになるほど苦味を感じるようになります」と説明しています。
UCCも焙煎についての解説で「浅く炒るほど酸味が強く」と同じ方向の説明をしています。協会とメーカーの両方が同じ傾向を示しているので、豆選びの基本として安心して使えます。
具体的な場面で言えば、酸っぱいコーヒーが苦手な人がライトやシナモンの豆を選ぶと、好みに合わないと感じやすくなります。反対に、苦味が苦手な人がフレンチやイタリアンを選ぶと、強い苦味に驚くことがあります。淹れ方の失敗だと思っていた違和感が、実は焙煎度の選び方から来ていた、というケースは少なくありません。
ただし、これはあくまで傾向です。同じ焙煎度でも、産地や精製方法、淹れ方によって感じ方は変わります。焙煎度は味の方向をつかむ第一の目安として使い、細かい好みは淹れ方で調整する、という順番で考えるとよいでしょう。
焙煎が進むほど色は濃くなり、味は酸味寄りから苦味寄りへ移っていきます。数値の物差しは色の明るさを測るものなので、数値が大きい=明るい=浅煎り寄り、数値が小さい=暗い=深煎り寄り、と読み替えると味の方向がつかめます。

「深煎り」と書かれた豆を買ってみたけれど、思ったより苦かった。逆に、カフェで飲んだ深煎りのアイスコーヒーはコクがあっておいしかった。同じ「深煎り」なのに印象が違…
焙煎したてが香りのピーク。焙煎度より鮮度が効く場面もある
焙煎度と並んで味を左右するのが、焙煎してからの時間です。協会は焙煎度の解説ページで「焙煎されたてのコーヒーが香気成分が最も多く、次第に劣化していきます」と説明しています。
理由は、焙煎で生まれた香りの成分が、時間とともに失われていくからです。焙煎度が同じでも、焙煎からの時間が違えば香りの立ち方は変わります。焙煎度の物差しは焙煎した瞬間の状態を表すもので、その後の変化までは表していません。
やりがちな失敗は、好みの焙煎度の豆を選んだのに香りが物足りない、と焙煎度のせいにしてしまうことです。購入後に長く置いていた豆なら、原因は焙煎度ではなく鮮度にある可能性があります。
豆を選ぶときは、袋に焙煎日の表示があれば焙煎度と一緒に確認しましょう。焙煎度で味の方向を選び、鮮度で香りを守る、という二つの軸で考えると、物差しを使いこなせるようになります。
アグトロン値の「55/68」はどう読む?数字が小さいほど深い理由
アグトロン値は色の明るさを数値にしたもの
アグトロン値は、焙煎したコーヒーの色の明るさを測定器で数値にしたものです。焙煎が深くなるほど色が暗くなり、数値は小さくなります。英語圏のコーヒー評価でよく見かける数値で、焙煎指数という言葉で検索したときに出てくる数字の代表格です。
アメリカのコーヒーレビュー媒体であるCoffee Reviewは、焙煎の定義を説明したページで、M-BasicまたはGourmetと呼ばれるアグトロンのスケールを使っていると説明しています。アグトロン値にはスケールの種類があり、どのスケールの値かによって数字の意味が変わる点に注意が必要です。
よくある読み違いは、指数という言葉のイメージから、数値が大きいほど深く焙煎されていると思い込むことです。実際は逆で、数値が大きいほど明るい色、つまり浅い焙煎を示します。
アグトロン値を見たときは、まず数字が大きいか小さいかで浅いか深いかの方向を判断し、次にどのスケールの値かを確認するのがコツです。スケールが書かれていない数値は、別の資料の数値と単純に比べないようにしましょう。
スラッシュの前は豆のまま、後ろは粉の値
Coffee Reviewのレビューでは、アグトロン値が「55/68」のように2つの数字をスラッシュで区切って書かれています。前の数字は豆のまま測った値、後ろの数字は粉に挽いて測った値です。
2つの値を並べる理由は、豆の表面と内部で焙煎の進み具合が違うことがあるからだと考えると理解しやすくなります。豆の外側は熱が直接当たって色が濃くなりやすく、挽いて内側まで混ぜると、全体として少し明るい値になることがあります。55/68のように後ろの数字が大きい表記は、粉のほうが明るく測れたことを示しています。
やりがちな失敗は、2つのうち片方の数字だけを見て焙煎度を判断することです。たとえば前の55だけを見ると深め、後ろの68だけを見ると中くらい、と受け取り方が変わってしまいます。
読むときは、前が豆、後ろが粉、と順番を覚えておきましょう。2つの値の差が大きいときは、豆の外と中で焼け方に差がある焙煎だと読み取ることもできます。
海外のレビューで「55/68」のような表記を見て、前の55だけを読んで深煎りだと判断してしまう失敗です。原因は、スラッシュの前後で測った対象(豆のままか粉か)が違うことを知らない点にあります。対策は、前が豆・後ろが粉と覚え、2つを平均して判断すること。さらに、その数値がどのスケールの値かも確かめましょう。
2つの値を平均して焙煎名を決める例
Coffee Reviewは、豆のままの値と粉の値を平均して、その焙煎がどの区分に入るかを判定しています。同媒体の説明にある例では、55/66の場合、平均は60.5となり、Mediumに分類されます。
平均を使う理由は、豆の外側と内側のどちらか一方だけでは焙煎全体を表しきれないからです。2つの値をならすことで、一杯に淹れたときの味に近い焙煎の深さを1つの数字で示せるようになります。
Coffee Reviewの区分は、Lightが80超、Medium-Lightが70から80、Mediumが60から70、Medium-Darkが50から60、Darkが40から50、Very Darkが25から40、Extreme-Darkが25未満です。数字が10下がるごとに一段深くなっていく作りなので、平均値がどの帯に入るかを見れば区分がわかります。
注意したいのは、帯の境目にある数値です。たとえば平均が60ちょうど前後だと、MediumとMedium-Darkの境目に当たります。境目付近の豆は、区分名より数字そのものを見て、隣の区分の特徴も少し持っていると考えるのが実用的です。
| 採用スケール | M-Basic(Gourmet)スケール |
| 表記のしかた | 豆のままの値/粉の値(例:55/68) |
| 区分の決め方 | 2つの値の平均で判定(例:55/66→60.5→Medium) |
| 数値の向き | 焙煎が深いほど数値が小さい |
| 位置づけ | レビュー媒体の区分の一例。SCA・SCAJ公式の数値表ではない |
Coffee Reviewの区分表はあくまで一例と考える
ここまで紹介した区分は、Coffee Reviewというレビュー媒体が自分たちの評価で使っている表です。スペシャルティコーヒー協会や日本スペシャルティコーヒー協会が公式に定めた数値表ではない点を押さえておきましょう。
そう扱うべき理由は、アグトロン値には複数のスケールがあり、測定器や基準も統一されていないからです。同じ豆でも、測る機械や条件が違えば値は変わります。媒体ごとの表は、その媒体の中で比べるための物差しだと考えるのが安全です。
やりがちなのは、Coffee Reviewの区分を日本の8段階に当てはめて、Mediumはシティ、Darkはフレンチ、のように一対一で対応させてしまうことです。英語の区分名と日本の8段階の名前は、作られた背景も基準も違うため、名前が似ていても同じ深さを指しているとは限りません。
海外のレビューを読むときは、その媒体の中で数字を比べるのにとどめ、日本の豆の袋の表示とは別の物差しとして扱いましょう。両方を見比べたいときは、数字の方向(大きいほど浅い)だけを共通の手がかりにするのが無理のない使い方です。
L値と色見本タイルは何を測っている?
L値は挽いた粉の明るさ。黒が0、白が100
L値は、ミルで挽いたコーヒーの粉の明度を、色差計という測定器で測った値です。黒を0、白を100とした数値で表し、焙煎が深いほど色が暗くなるので、値は小さくなります。日本の焙煎の解説で、焙煎度を数字で示すときによく使われる指標です。
L値が焙煎度の物差しになる理由は、焙煎の進み具合が粉の明るさとして素直に表れるからです。浅煎りの粉は明るく、深煎りの粉は黒に近づきます。アグトロン値と同じく、数値が小さいほど深い、という向きを覚えておけば読み間違えません。
注意したいのは、L値の区分表の扱いです。焙煎度の8段階ごとにL値の範囲を割り振った表が出回っていますが、今回の調べでは、協会の原典で内容を確認することはできませんでした。そのため、この記事ではL値の区分表は載せていません。
L値を見かけたときは、まず数字の向きを確認し、区分表がついていれば出典をたどれるかを見るのがコツです。出典が確かめられない表は、数値の大小の目安として眺めるくらいにとどめておきましょう。
粉の細かさで明るさが変わる。測定条件をそろえる必要がある
L値を測るときに気をつけたいのが、粉の粒度です。同じ豆でも、細かく挽いた粉は明るく見え、粗く挽いた粉は暗く見える傾向があります。粒度が違うと、焙煎度が同じでもL値が変わってしまいます。
粒度で明るさが変わるのは、粉が細かいほど表面に光が散らばりやすく、全体が明るく見えるためです。だからこそ、L値で焙煎度を比べるなら、挽き目や測り方を同じ条件にそろえる必要があります。
やりがちな失敗は、別々の場所で測ったL値を並べて、どちらが深いかを比べることです。片方は細挽き、もう片方は粗挽きで測っていたら、数値の差は焙煎の差ではなく挽き目の差かもしれません。
数値を比べるときは、同じ人が同じ機械・同じ挽き目で測った値どうしで比べるのが原則です。別の資料から集めた数値を比べるのは、条件がそろっている保証がないので避けましょう。これはアグトロン値にも同じことが言えます。
色見本タイルは95番から25番まで10刻みの8枚
3つ目の物差しが、色見本と見比べる方法です。計測機器メーカーのHunterLabの解説によると、SCAAのローストカラーの見本は、10刻みで番号がついた8枚のカラーディスクで、もっとも淡いVery Lightが95番、もっとも濃いVery Darkが25番です。
この見本は、挽いた粉をペトリ皿に入れ、ディスクの色と並べて目で比べるために使われます。数値を測る機械がなくても焙煎度の見当をつけられるのが利点です。一方で、同じ解説では、目視による評価は機器で測った値よりも本質的に精度が低いとされています。
具体的に気をつけたいのは、見る人や照明によって判断がぶれることです。同じ粉でも、明るい窓辺と暖色の照明の下では違う色に見えますし、人によって色の感じ方も違います。
色見本は、ざっくり浅いか深いかを確かめるための道具として使うのがコツです。なお、この解説には8枚それぞれの中間の名称までは書かれていないため、日本の8段階の名前と1枚ずつ対応させる使い方はおすすめしません。
3つの物差しを並べてみると違いが見える
ここまでの物差しを一つの表に並べてみましょう。焙煎の深さを表す方法は、何を対象に、何で測り、数字がどちら向きかで違いがあります。
並べて比べる理由は、どの物差しも「色」を手がかりにしているのに、対象や道具が違うために、そのまま換算できないことが見えてくるからです。下の表は、全日本コーヒー協会・UCC・Coffee Review・HunterLabの公開情報をもとにまとめたものです。
| 項目 | 8段階の名前 | アグトロン値 | L値 | 色見本タイル |
|---|---|---|---|---|
| 何を見るか | 豆の色と味の特徴 | 豆のままと粉の色の明るさ | 挽いた粉の明度 | 挽いた粉の色 |
| 道具 | 目と言葉 | 測定器 | 色差計 | 8枚のディスクと目視 |
| 深いほど | イタリアン側へ | 数値が小さい | 数値が小さい(黒が0) | 番号が小さい(Very Darkが25番) |
| 主な出典 | 全日本コーヒー協会・UCC | Coffee Review(区分は一例) | 区分表は原典未確認 | HunterLabの解説 |
表を見ると、数値系の物差しはどれも深いほど小さくなる点で共通しています。家庭でまず使うのは8段階の名前で、数値は海外のレビューや詳しい資料を読むときの補助、と位置づけると混乱しません。
同じ「シティ」でも店によって深さが違うのはなぜ?
協会は中煎り、UCCは深炒り。区分はメーカーで違う
同じシティという名前でも、どのグループに入れるかは情報源によって違います。全日本コーヒー協会はシティを中煎りに分類していますが、UCCの焙煎の解説ではシティは深炒りの側に置かれています。
こうした違いが生まれるのは、8段階の名前は共通していても、それを3つや4つのグループにどうまとめるかに統一ルールがないからです。UCCは中煎りと深煎りの間に中深炒りという区分を設けており、まとめ方そのものが協会と異なります。
具体的には、協会の表とUCCの表を見比べると、名前の並び順は同じなのに、グループの境目の位置がずれています。そのため、ある資料では中煎り、別の資料では深煎り、と同じ豆の説明が変わって見えることがあります。
豆を選ぶときのコツは、グループ名より8段階の名前そのものを手がかりにすることです。名前の順番はどの資料でも同じなので、シティはミディアムやハイより深く、フルシティより浅い、という位置関係は変わりません。
苦味の強いコーヒーが好きで深煎りと書かれた豆を選んだら、思ったより酸味があった、という失敗です。原因は、販売者によってシティを深煎りの側に入れている場合があり、協会の表でいえば中煎りの豆だった可能性があることです。対策は、浅煎り・深煎りの言葉だけでなく、8段階の名前を袋で確かめること。苦味をしっかり求めるなら、協会の表でフルシティ以降の名前が書かれた豆を目安にしましょう。
ハイも「中煎り」と「中深炒り」で揺れる
揺れているのはシティだけではありません。ハイもまた、協会の表では中煎りですが、UCCの解説では中深炒りに分類されています。中煎りから深煎りへ移り変わる途中の段階は、とくにまとめ方の違いが出やすい部分です。
理由は、ミディアムからフルシティにかけての段階が、酸味と苦味のバランスが入れ替わっていく途中にあるからだと考えると理解しやすくなります。どちらの特徴も持っている段階なので、どちら寄りに分類するかで判断が分かれるのです。
やりがちなのは、中煎りと書かれた豆をすべて同じ味の傾向だと思うことです。協会の中煎りの中にはミディアム・ハイ・シティの3つが含まれていて、ミディアムはアメリカンタイプの軽い味わい、シティは鮮やかなコーヒーブラウンと説明されています。同じ中煎りでも幅があります。
豆選びで迷ったら、中煎りの中でもどの段階かを確認しましょう。軽さを求めるならミディアム寄り、コクも欲しいならシティ寄り、と同じグループの中で選び分けるのがコツです。
測定器・基準がそろっていないので、数値も一致しない
名前の区分だけでなく、数値もまた資料によって一致しません。アグトロン値もL値も、測定器や基準が統一されておらず、同じ豆を測っても機器によって値が異なることがあります。
そうなる理由は、それぞれの機械が光を当てる方法や、数値に換算する基準が違うからです。前の章で触れたとおり、粉の粒度でも明るさが変わります。機器と条件の両方がそろわない限り、数字の単純な比較は成り立ちません。
実際に、日本語の二次資料を見比べると、同じライトに対するアグトロン値が、ある資料では80から70、別の資料では91以上と、大きく食い違っています。どちらかが間違いというより、使っているスケールや基準が違うと考えるほうが自然です。
こうした事情があるので、この記事では日本の8段階とアグトロン値の対応表は載せていません。数値を見たときは、同じ資料・同じ機械の中での比較にとどめるのが、読み違いを防ぐいちばんの方法です。
焙煎指数を豆選びと淹れ方にどう生かす?
袋の表示はまず「8段階の名前」を協会の3区分に当てはめる
焙煎指数を気にする理由が豆選びなら、いちばん実用的なのは、袋に書かれた焙煎度の名前を協会の3区分に当てはめることです。数値がなくても、名前さえわかれば味の方向をつかめます。
この方法が使いやすい理由は、8段階の名前の並び順がどの資料でも共通しているからです。前の章で見たように、グループの分け方は資料で揺れますが、名前の順番は変わりません。協会の表を基準に決めておけば、どの豆の袋でも同じ物差しで比べられます。
やりがちな失敗は、袋の表示に名前がなく、中煎りとだけ書かれた豆を、ほかの店の中煎りと同じ味だと思って選ぶことです。前の章のとおり、中煎りという言葉の範囲は販売者によって違うことがあります。
読むときの手順を下にまとめました。名前がある豆は名前を、ない豆は色の説明や味の特徴の記載を手がかりにしましょう。
酸味派・苦味派・アイス派で選ぶ焙煎度の目安
好みや飲み方によって、選ぶ焙煎度の目安は変わります。酸味の明るさを楽しみたい人は浅煎りから中煎り、苦味やコクを求める人は深煎り、と協会が示す傾向に沿って選ぶのが基本です。
この選び方が成り立つのは、協会とUCCがともに、浅いほど酸味が強く、深いほど苦味が強く感じられると説明しているからです。読者のタイプ別に考えると、次のようになります。酸っぱいコーヒーが苦手な人は、まず中煎りのシティあたりから試すと、酸味と苦味の両方を確かめやすくなります。苦味とコクをしっかり感じたい人は、フルシティ以降の深煎りが候補です。
アイスコーヒーにしたい人は、焙煎度にも注目しましょう。協会は、アイスコーヒー用はフルシティの段階まで熱を加えると説明しています。またUCCは、フルシティのタイプが炭焼珈琲に多く使われると紹介しています。軽い味わいのミディアムで冷たくすると、物足りなく感じることがあります。
はじめて焙煎度を選び分ける人は、浅煎り・中煎り・深煎りから1つずつ選んで順番に飲んでみると、自分の好みの方向がわかりやすくなります。

淹れ方は焙煎度に合わせて「条件を一つずつ」動かす
焙煎度で味の方向を選んだら、細かい好みは淹れ方で整えます。深煎りで苦味が強すぎる、浅煎りで酸味が立ちすぎる、と感じたときは、湯温・粉の量・挽き目などの条件を一つずつ動かして確かめるのが基本です。
一つずつ動かす理由は、複数の条件を同時に変えると、どの変更が味に効いたのかわからなくなるからです。焙煎度は豆を買った時点で決まっていますが、抽出の条件は毎回変えられます。焙煎度という固定の条件と、淹れ方という調整できる条件を分けて考えると、味の原因を探しやすくなります。
やりがちな失敗は、深煎りの苦味が強いと感じたときに、豆を変える前に粉を大幅に減らしてしまい、今度は薄くて水っぽい一杯になることです。苦味の強さそのものは焙煎度から来ているので、淹れ方で消し去ることはできません。
具体的な湯温や粉の量の目安は、使っている器具のメーカーが出している抽出ガイドで確認しましょう。ガイドの基準から始めて、苦味や酸味の出方を見ながら一つずつ調整するのが、焙煎度を生かす近道です。
家で焙煎するなら、色見本より煙・におい・火の扱いを先に
焙煎指数を調べるうちに、家で手網やフライパンを使って焙煎してみたくなる人もいるでしょう。家庭で焙煎するときは、焙煎度の数値を狙うより先に、煙・におい・火の扱いに気を配ることが大切です。
理由は、焙煎は豆に直接熱を加える作業で、焙煎が進むにつれて煙やにおいが出るからです。換気が不十分だと部屋ににおいが残ったり、煙が広がったりします。火を使う作業なので、そばを離れないことも欠かせません。
焙煎の進み具合は、色だけでなく、豆の膨らみやしわ、香り、ハゼと呼ばれるはじける音を合わせて判断する、と説明されることがあります。ただし、ハゼの公式な定義は、今回確認した全日本コーヒー協会とUCCのページ(2026年10月時点)では見つかりませんでした。また、焙煎で豆の重さがどのくらい減るかについても、一次情報で確かめられる数値はありませんでした。
家庭焙煎では、仕上がりを協会の色の説明と見比べて、浅いか深いかをざっくりつかむくらいで十分です。換気扇の下で少量ずつ、火から目を離さずに行いましょう。
まとめ
焙煎の深さを表す物差しは、名前・色の数値・色見本の3系統があり、どれも色の濃さを手がかりにしています。家庭で豆を選ぶなら、数値を追いかけるより、袋の焙煎度の名前を協会の8段階に当てはめるのがいちばんの近道です。次に豆を買うときは、浅煎り・中煎り・深煎りから1つずつ選んで飲み比べ、自分が酸味寄りと苦味寄りのどちらが好きかを確かめるところから始めてみてください。
※焙煎度の呼び方や区分はメーカー・販売者により異なるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。

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