「メキシコ」と書かれたコーヒー豆を見かけて、どんな味なのか、ブラジルやコロンビアと何が違うのかがわからず、手に取るのをためらったことはありませんか。メキシコは中南米の産地のなかでは話題にのぼる回数が少なく、「なんとなく軽い味」という印象だけで選ばれたり、逆に素通りされたりしがちな産地です。
結論から言うと、メキシコは国際コーヒー機関(ICO)の統計で、2025年度の総生産量が世界9位の産地です。生産はチアパス・ベラクルス・オアハカ・プエブラの4州に集中していて、担い手の多くは小さな農園を営む生産者です。味についてはメーカーの公式紹介で「甘い香りとすっきりした酸味」と表現されています。その味を読み解く手がかりとして、標高・品種・精製方法のデータもそろっています。
この記事では、ICO・全日本コーヒー協会・World Coffee Research(WCR)の一次資料をもとに、生産量と順位、産地と生産者の姿、さび病からの植え替えと品種、精製方法と味の関係、日本への輸入量、焙煎度ごとの淹れ方の考え方までを順に整理します。読み終えるころには、ラベルのどこを見れば自分の好みに近いメキシコ産を選べるかがわかるはずです。
・ICO統計で見るメキシコの生産量と、資料によって順位が違う理由
・主要4州・小規模農家・日陰栽培という産地の姿
・さび病で収穫が半減した時期と、植え替えに使われた品種
・「甘い香りとすっきりした酸味」を精製方法と焙煎度から読む方法
メキシコは世界何位の産地?ICO統計で読む生産量

2025年度の生産量は5,165千袋、表の全行を並べると9位
まず数字から押さえましょう。全日本コーヒー協会が掲載しているICO資料「輸出国別総生産量」では、メキシコの2025年度の総生産量は5,165(単位は1,000袋)です。1袋は60kgの袋で数え、生産年度は10月から翌9月までの1年間で区切られています。同じ表で前の年度を見ると、2022年度が4,170、2023年度が4,365、2024年度が5,065と、ここ数年は増える方向で推移しています。
順位を確かめるときに気をつけたいのが表の作りです。ICOの表は加盟国と非加盟国の欄が分かれていて、ウガンダとグアテマラは非加盟国の欄に載っています。加盟国の欄だけを上から読むと、ウガンダを数え落としてメキシコの順位を1つ高く読んでしまいます。全行を並べ替えると、ブラジル・ベトナム・コロンビア・インドネシア・エチオピア・ウガンダ・インド・ホンジュラスに次ぐ9位になります。統計表を読むときは「どの欄まで含めた順位か」を最初に確かめるのがコツです。
| 順位 | 国名 | 総生産量(千袋) |
|---|---|---|
| 1 | ブラジル | 59,400 |
| 2 | ベトナム | 31,885 |
| 3 | コロンビア | 12,800 |
| 4 | インドネシア | 12,322 |
| 5 | エチオピア | 11,911 |
| 6 | ウガンダ(非加盟国欄) | 8,300 |
| 7 | インド | 6,064 |
| 8 | ホンジュラス | 5,846 |
| 9 | メキシコ | 5,165 |
「第6位」「第9位」と資料で順位が違うのはなぜ?
メキシコの順位を調べると、資料によって数字がばらつきます。これは誤りというより、どの年の統計を使ったかの違いです。全日本コーヒー協会のサイトに掲載された2011年のコラムでは「メキシコの生産量は4,500(同)と世界の約3.2%でブラジル、ベトナム、コロンビア、インド、インドネシアに続く第6位。」と書かれていました。
一方、同じ協会サイトに2022年に掲載された寄稿では「コーヒー豆の生産量が世界第9位で(世界総生産量の2.4%)、そのうち97%がアラビカ種。」と紹介されています。この2つの資料のあいだの時期には、後で詳しく触れるさび病の被害(ICO調査によると2012〜2016年)も重なっています。生産量は天候や病害で年ごとに上下しますし、他国の生産量も同時に動くので、順位は固定された属性ではありません。
家で豆を選ぶときにやりがちなのが、販売ページや古い解説記事に書かれた順位を「今の順位」として受け取ってしまうことです。順位を見るときは、その数字が何年のどの統計によるものかを確かめましょう。年版が書かれていない順位は、参考程度にとどめるのが安全です。
1790年に始まった栽培と「常にトップ10入り」の意味
メキシコのコーヒー栽培には長い歴史があります。UCCの産地紹介では「メキシコでコーヒー栽培が始まったのは1790年のこと。」とされ、続けて「今では、国別生産量で常にトップ10入りする生産国に成長しています。」と紹介されています。World Coffee Researchの国別ページでも、メキシコは世界のコーヒー輸出国のトップ10のひとつで、生産はチアパス・ベラクルス・プエブラ・オアハカに集中していると説明されています。
「トップ10の常連」という言葉から、広大な農園で機械的に大量生産している国を思い浮かべる人もいるかもしれません。ところが次の章で見るように、メキシコの生産を支えているのは小規模な農家の集まりです。生産量の多さは、規模の大きな農園によるものではなく、多くの生産者が積み重ねた結果と読むのが実態に近いでしょう。
産地を選ぶときのコツは、順位を「品質の順位」と読まないことです。生産量の順位は量の物差しであって、おいしさの序列ではありません。順位はその国のコーヒーが市場でどれくらい流通しやすいかの目安として使い、味は焙煎度や精製方法の表示で判断するのが確実です。

産地はどこ?4州で生産の9割を占める地図と生産者の姿
チアパス・ベラクルス・オアハカ・プエブラで生産量の90%
メキシコ産の豆を理解する近道は、産地の州名を覚えることです。ICOが公開しているメキシコのコーヒー・バリューチェーン調査によると、メキシコには約54.5万人のコーヒー生産者がいて、栽培面積は約71.2万ヘクタール(メキシコ政府の統計SIAP、2021年)です。そのうちチアパス・ベラクルス・オアハカ・プエブラの4州だけで、栽培面積の85%、生産量の90%を占めるとされています。
ただし、栽培している州の数は資料によって書き方が違います。ICO調査の詳細表は14州を挙げ、全日本コーヒー協会のサイトに掲載された2022年の寄稿は「15州」で栽培され、主要3州で国内生産量の約80パーセントを占めると書いています。数え方や年が違えば数字も変わるので、州の数そのものより「南部の数州に生産が集中している」という構図を押さえておけば十分です。同じ協会サイトの2011年のコラムでも、主な産地として南部のチアパス州・オアハカ州・ベラクルス州が挙げられています。
豆を買うときは、ラベルや商品説明に州名が書かれているかを見てみましょう。「メキシコ」とだけ書かれた豆と、「チアパス」など州名まで書かれた豆では、産地の情報量が違います。州名があれば、同じ州の豆を続けて買って違いを比べる、といった楽しみ方もできます。
平均2.9ヘクタール——生産者の多くは小規模農家
メキシコのコーヒーを語るうえで外せないのが、農園の小ささです。ICO調査は、生産者の多くが小規模農家で、農園の平均面積は2.9ヘクタール、中央値は2.0ヘクタールだと報告しています。平均より中央値が小さいのは、一部の大きめの農園が平均を引き上げていて、半数の生産者は2.0ヘクタール以下の農園で栽培しているということです。
同じ調査は、全国の生産者の22%を女性が占めることにも触れています。WCRとICO調査では、生産者向けの政府の支援策として「Producción para el Bienestar」や「Sembrando Vida」といった事業名も挙げられています。生産の担い手が小規模で多数いる構造は、さび病のような病害が広がったときに、植え替えの費用や手間が一軒一軒の農家にのしかかることも意味します。
やりがちな誤解は、「生産量が多い国=大規模農園で均一な豆」と考えてしまうことです。小規模な生産者が多い産地では、地域や農園ごとに栽培条件がばらつきやすく、同じ「メキシコ産」でも中身は一様ではありません。商品説明に地域名や農園名が細かく書かれた豆は、その幅のどこに位置する豆なのかを知る手がかりになります。
標高400〜2,200m——同じ国でも条件の幅が広い
メキシコ産の豆が「ひとくくりにしにくい」理由は、栽培される標高の幅にも表れています。ICO調査によると、アラビカ種は標高400〜2,200mで栽培されています。ロブスタ種はそれより低い100〜1,300mの範囲です。同じ国のなかに、低地から高地まで、これだけ条件の違う畑が並んでいるわけです。
標高は、コーヒーの品質を語るときの軸のひとつとして扱われています。たとえばWCRの品種カタログには、品種ごとに「高標高でのカップ品質の可能性」という評価欄があります。品種や精製方法と同じく、標高も豆の性格を形づくる条件として見られているということです。
ここでの注意点は、販売ページに書かれた標高の数字を、そのまま味の保証と受け取らないことです。標高が書かれていても、品種・精製方法・焙煎度が違えば味は変わります。標高の表示は「どんな条件で育った豆か」を知るための情報として受け止め、味の判断は焙煎度の表示や、実際に淹れたときの印象と合わせて行うのが確実です。
森の木陰で育てる「日陰栽培」が多い産地
メキシコの産地の特徴として、日陰栽培の多さも挙げられます。日陰栽培とは、背の高い木の下でコーヒーの木を育てる栽培方法です。ICO調査では、生産者の約66%が、日陰が40%を超える農園で栽培していると報告されています。さらに約20%の生産者は、農園の75%以上が日陰で覆われた環境で栽培しているとされています。
日差しを直接受ける畑で一面にコーヒーを植える産地もあるなかで、メキシコでは森の樹木と共存する形の農園が多数派だということになります。小規模な生産者が多いことと合わせて、メキシコのコーヒー畑のイメージは「広い単一の畑」より「木々に囲まれた小さな畑」に近いと言えます。
豆の表示で「シェードグロウン(日陰栽培)」といった言葉を見かけたときは、どの程度の日陰を指しているのか、どの団体のどんな基準によるものかを販売元の説明で確かめましょう。言葉だけでは基準がわからないことがあります。認証ラベルの見方は、フェアトレードなどの認証制度ごとに決まりがあるので、ラベルの発行団体を確認するのが近道です。
| 主な産地・生産国 | チアパス・ベラクルス・オアハカ・プエブラの4州で生産量の90%(ICO調査) |
| 主な品種・精製方法 | ティピカ・カトゥーラ・ブルボンなど。生産者の約70%が何らかの水洗処理を実施(ICO調査) |
| 味の傾向 | 甘い香りとすっきりした酸味(UCC・キーコーヒーの公式紹介) |
| 淹れ方のコツ | 酸味を確かめたいなら浅〜中煎りから。苦味が強いときは挽き目や湯温で調整 |
品種は何が多い?さび病で収穫半減からの植え替え

伝統のティピカ・カトゥーラ・ブルボンが今も中心
メキシコで育てられているコーヒーの大半はアラビカ種です。前の章で触れた協会サイトの2022年の寄稿では、生産量の97%がアラビカ種と紹介されています。UCCの産地紹介でも、品種はアラビカ種とカネフォラ種ロブスタで、主にアラビカ種とされています。
アラビカ種のなかでどんな品種が多いかについて、ICO調査は、ティピカ・カトゥーラ・ブルボンといった伝統的なアラビカ品種が今も広く栽培されている一方で、病気に強い品種への植え替えを進める農家が増えていると説明しています。WCRの国別ページも、従来の品種としてこの3つを挙げています。
豆を選ぶときにやりがちなのは、品種名が書かれていないからといって、品種の情報をまったく気にしないことです。メキシコ産は伝統品種と植え替え品種が混在している産地なので、品種名が書かれている豆は、それだけで中身を知る手がかりが1つ増えます。品種名がある場合は、それが伝統品種か、後で紹介する耐病性の品種かを見てみると、豆の背景が読みやすくなります。
2012〜2016年、さび病で収穫の50%を失った
メキシコのコーヒー生産を語るうえで避けて通れないのが、さび病です。ICO調査は、さび病をメキシコのコーヒー生産にとって第一の植物病害の脅威と位置づけ、2012〜2016年に収穫の50%という壊滅的な損失をもたらしたと書いています。同じ調査の冒頭では、2015/16年に生産がほぼ半減したことにも触れています。
被害のあとに問題になったのが、木の年齢です。WCRの国別ページは、2025年の研究として、生産のピークにあたる樹齢(3〜15年)の木は全体の68%にとどまると紹介しています。ICO調査では州ごとの割合も示されていて、ベラクルスが81%、プエブラが70%、チアパスが68%、オアハカが51%です。オアハカでは、ピークを過ぎた木や若すぎる木の割合が相対的に高いことになります。
この数字から読み取れるのは、生産量の回復には植え替えが欠かせないものの、植えた苗が実をつけるまでには時間がかかるということです。生産量の数字が年ごとに大きく動いて見えるのは、こうした病害と植え替えのサイクルが背景にあるためで、ある年の順位だけで産地の実力を判断しないほうがよい理由の1つでもあります。
さび病=ICO調査がメキシコのコーヒー生産にとって第一の植物病害の脅威と位置づける病害。2012〜2016年に収穫の50%の損失をもたらしたとされます。
耐病性品種=さび病などへの抵抗性を持たせるように育成された品種。メキシコではOro Azteca・Marsellesa・Costa Rica 95などへの植え替えが進んでいます(ICO調査)。抵抗性の強さは品種ごとに異なります。
Oro Azteca・Marsellesa・Costa Rica 95——植え替え品種の素顔
さび病の後、メキシコでは国の事業として大規模な植え替えが行われました。WCRの国別ページは、メキシコの研究機関INIFAPによると、2015年以降の国の更新事業で15万ヘクタールに5.5億本の苗が植え替えられたと紹介しています。苗の例として挙げられているのが、Oro AztecaやCosta Rica 95です。ICO調査はこれにMarsellesaを加えた3品種を、農家が植え替えに使っている耐病性品種の例として挙げています。
WCRの品種カタログによると、Oro AztecaはINIFAPがティモール・ハイブリッド832/1とカトゥーラの交配から育成し、1995年にメキシコでの生産用に公表した品種です。さび病への抵抗性は中程度、高標高でのカップ品質の可能性は「Good」と評価されています。一方、Costa Rica 95はコスタリカのICAFEが同じ組み合わせの交配から育成した品種で、さび病への抵抗性は「Low」とされ、コスタリカでさび病にかかった記録があると書かれています。
ここで注意したいのは、「植え替え品種だから味が劣る」と決めつけないことです。品種カタログの評価は品種ごとに異なり、一括りにはできません。またICO調査は、予算の制約で更新事業の継続が危ぶまれていることも指摘しています。品種の話は、メキシコの生産がいまも変化の途中にあることを知る材料として読むのがよいでしょう。
実はメキシコは中米最大のロブスタ生産国でもある
意外と知られていないけれど、メキシコはアラビカ種だけの産地ではありません。WCRの国別ページは、ロブスタ種がベラクルス・チアパス・オアハカの低地で栽培されるようになり、メキシコがメソアメリカ(中米)で最大のロブスタ生産国になっていると説明しています。さらに、生産の大半は商業グレードの水洗式アラビカである一方で、スペシャルティコーヒーとロブスタの両方の生産を着実に広げているとも書いています。
ICO調査では、ロブスタの栽培は主にチアパス(生産者の35%)、ベラクルス(7.7%)、オアハカ(1.1%)で見られるとされています。標高100〜1,300mという、アラビカより低い土地を生かした栽培です。世界全体で見ても、全日本コーヒー協会の栽培の解説によると、アラビカ種が生産量全体の6割弱、カネフォラ種(ロブスタ)が4割強を占めています。
家で豆を選ぶうえでのポイントは、「メキシコ産=すべてアラビカ」と思い込まないことです。日本の輸入統計ではメキシコ産のロブスタとアラビカは区別されていません。苦味が強めの豆やブレンドの原料として使われている場合もあるので、種類が気になるときは、ラベルや商品説明で「アラビカ」「ロブスタ(カネフォラ)」の記載を確認しましょう。

味の特徴は?「甘い香りとすっきりした酸味」を精製から読む
メーカーの公式紹介は「甘い香りとすっきりした酸味」
メキシコ産の味はどう紹介されているのでしょうか。UCCの産地紹介では、アラビカ種について「アラビカ:甘い香りとすっきりした酸味、爽やかな後味」と書かれています。
キーコーヒーの産地解説でも、「メキシコ、グァテマラ、ホンジュラス等:甘い香りとすっきりとした酸味が特徴」とまとめられています。2社の表現はほぼ重なっていて、メキシコ産を語るときのキーワードは「甘い香り」と「すっきりした酸味」の2つだと言えます。
ただし、これは産地としての大まかな傾向を示した紹介です。やりがちな失敗は、この表現を「どのメキシコ産の豆でも必ずこの味」と受け取ってしまうことです。前の章で見たように、メキシコは標高・品種・栽培の条件に幅がある産地で、さらに焙煎度によっても味は変わります。深煎りにされたメキシコ産なら、酸味より苦味が前に出ることもあります。公式紹介の言葉は「選ぶときの出発点」として使い、最終的な味は焙煎度や精製方法の表示と合わせて読みましょう。
水洗式が約7割——生産側のデータで見る精製方法
コーヒーの味を左右する条件のひとつが、収穫した実から豆を取り出す「精製」の方法です。全日本コーヒー協会の解説では、水洗式は「コーヒーチェリーから果肉を除去し、豆についた粘液質(ミューシレージ)を発酵させてから、きれいな水で洗い、乾燥させる製法です。」と説明されています。
メキシコではこの水洗式が主流です。ICO調査によると、生産者の約70%が何らかの水洗処理を行っています。州による差もあり、チアパスとオアハカでは約95%、プエブラとベラクルスでは約半数とされています。WCRの国別ページも、生産の大半は商業グレードの水洗式アラビカだと書いています。
メーカーの紹介にある「すっきりした」という表現と、水洗式が多いという生産側のデータは、同じ方向を指しているように読めます。とはいえ、味は品種や標高、そして焙煎度でも変わります。精製方法だけで味を決めつけず、「水洗式の豆が多い産地」という事実を、豆を選ぶときの手がかりの1つとして持っておくのがよいでしょう。州名が書かれた豆なら、チアパス産やオアハカ産は水洗式の割合が高い州のもの、という読み方もできます。
ナチュラル・ハニーも——ラベルの精製方法で見分ける
水洗式が主流とはいえ、メキシコでは他の精製方法も使われています。協会サイトの2022年の寄稿では「豆の精製は主にナチュラル、ウォッシュド、セミウォッシュド、ハニープロセスで行われています。」と紹介されています。ウォッシュドは水洗式、ナチュラルは非水洗式のことです。
全日本コーヒー協会の解説では、非水洗式は「果肉がついたままのコーヒーチェリーを天日干しで乾燥させて、その後、脱穀してコーヒー豆を取り出す製法です。」とされています。水洗式と非水洗式の違いは、果肉を取り除いてから乾燥させるか、果肉ごと乾燥させるかという工程の順番にあります。
セミウォッシュドやハニープロセスの具体的な工程は、生産者や販売元によって説明の仕方が異なることがあります。ラベルにこれらの表記がある場合は、商品説明で「どの段階で果肉を取り除いたか」を確かめると、水洗式と非水洗式のどちらに近い工程なのかが読み取れます。精製方法の表記がない豆も多いので、表記があるものは産地の情報が丁寧に書かれた豆だと考えてよいでしょう。
| 項目 | 水洗式(ウォッシュド) | 非水洗式(ナチュラル) |
|---|---|---|
| 工程 | 果肉を除去→ミューシレージを発酵→水洗い→乾燥 | 果肉がついたまま天日乾燥→脱穀 |
| 果肉を取るタイミング | 乾燥の前 | 乾燥の後 |
| メキシコでの位置づけ | 生産者の約70%が何らかの水洗処理(ICO調査) | 主な精製方法の1つとして挙がる(協会サイトの寄稿) |
日本にはどれだけ届く?輸入量の推移とラベルの読み方
2025年は1,104トン、国別で15位
日本の家庭や店に届くメキシコ産はどれくらいあるのでしょうか。全日本コーヒー協会が財務省「貿易統計」をもとにまとめた国別の生豆輸入量の表によると、2025年(確々報)のメキシコ産の輸入量は1,104トンで、表に載っている上位24か国のうち15位です。
同じ年の生豆の総輸入量は359,382トンなので、メキシコ産は全体の約0.3%にあたります。世界の生産量では9位でも、日本に入ってくる量で見るとシェアは小さい産地です。ICO調査によると、メキシコのコーヒーの輸出先は米国が44%、欧州が30%で、地理的に近い米国が最大の行き先になっています。
この数字の読み方で注意したいのは、統計の中身です。協会の表の数量には脱カフェインの豆も含まれていて、アラビカ種とロブスタ種も区別されていません。「1,104トンのメキシコ産アラビカが入ってきた」と読むのは正確ではないということです。統計は「メキシコから来た生豆の合計」として受け取り、種類の内訳までは読み取れないと考えておきましょう。
2010年の2,865トンから——数字で見る推移
日本のメキシコ産の輸入量は、長い目で見ると大きく変わっています。協会の表では、2010年の輸入量は2,865トンでした。2020年には1,046トンまで減り、その後は年によって上下しながら推移しています。
| 年 | 輸入量 | 国別順位 |
|---|---|---|
| 2010年 | 2,865トン | — |
| 2020年 | 1,046トン | — |
| 2021年 | 約1,136トン | 16位 |
| 2022年 | 約1,328トン | 14位 |
| 2023年 | 約1,038トン | 17位 |
| 2024年 | 942トン | 16位 |
| 2025年(確々報) | 1,104トン | 15位 |
2021年以降の順位は14位から17位のあいだで動いていて、日本の輸入元としては「中位グループの常連」と言える位置です。数量が年ごとに上下する背景には、産地側の生産量の変化や、他の産地との兼ね合いなど複数の要因が考えられますが、統計の表そのものは理由までは示していません。推移は「量の動き」として読み、特定の原因に結び付けて断定しないのが安全です。
家で豆を選ぶ立場で言えば、メキシコ産はブラジル産やベトナム産ほど店頭にあふれている産地ではない、ということです。見かけたときに産地・焙煎度・精製方法の表示を確かめておくと、次に買うときの比較の基準になります。
「AL(アルツーラ)」など等級の表記はどう読む?
メキシコ産の豆の名前には、産地名のあとにアルファベットの略号がついていることがあります。UCCの産地紹介では、「メキシコ AL(アルツーラ)」などの例を挙げて、「格付けを表す等級と一緒に表記されることも。」と説明されています。
気をつけたいのは、こうした等級の具体的な基準です。標高による等級について、販売サイトによって境目の標高の数字が食い違っているのを見かけます。編集部が2026年10月時点で確認した全日本コーヒー協会・ICO・WCRの資料の範囲では、メキシコの等級の標高の境目を示した記述は見つかりませんでした。そのため、この記事では等級ごとの標高の数字は紹介しません。
実用的な読み方としては、等級の略号を「格付けにもとづく呼び名がついた豆」というサインとして受け取り、具体的な基準は販売元の説明で確認するのが確実です。等級名だけで味の良し悪しを判断せず、焙煎度や精製方法など、ほかの表示とあわせて見ていきましょう。
「メキシコ」の一語で味を決めつけてしまう失敗
メキシコ産の豆を選ぶときに起こりやすい失敗が、産地名だけで味を想像して買ってしまうことです。たとえば「すっきりした酸味の産地」という紹介を読んで買ったのに、淹れてみたら苦味が強かった、というケースです。
状況:「すっきりした酸味」を期待してメキシコ産を買ったのに、苦味が前に出た。
原因:深煎りにされた豆だった、ロブスタ種を含む豆だった、など産地名以外の条件が味を決めていた。
対策:買う前にラベルで「焙煎度」「アラビカかロブスタか」「精製方法」「州名」の4点を確認する。
原因はこれまで見てきた産地の性格にあります。メキシコは標高400〜2,200mという幅のある土地で、伝統品種と植え替え品種、アラビカ種とロブスタ種、水洗式とそれ以外の精製方法が混在する産地です。そこに焙煎度の違いが加わるので、「メキシコ産」という一語でくくれる味の幅は広くなります。
対策は、表示を順番に読むことです。まず焙煎度で酸味と苦味の大まかな方向を見て、次に種類と精製方法、最後に州名や品種名を確認します。この順番で見ていけば、「思っていた味と違う」という失敗をかなり防げます。
どう淹れる?焙煎度で変わる酸味と苦味の引き出し方
焙煎度は8段階、浅・中・深の3つに分けて読む
メキシコ産の「すっきりした酸味」を楽しむか、苦味寄りに仕上げるかを決めるのは、焙煎度です。全日本コーヒー協会の解説では、「焙煎度は最も浅いライトローストから真っ黒になるまで炒り上げたイタリアンローストまで8段階あります」とされています。
8段階は、浅煎り・中煎り・深煎りの3つに分けると読みやすくなります。協会の区分では、浅煎りがライトとシナモン、中煎りがミディアム・ハイ・シティ、深煎りがフルシティ・フレンチ・イタリアンです。シティは名前の印象から深めに思われがちですが、協会の区分では中煎りに入ります。ラベルに「シティロースト」とあれば中煎り、「フルシティロースト」とあれば深煎りの入り口、と読んでください。
味の方向について、同じ解説は「浅煎りは酸味が強く、深煎りは苦味が強くなると言われています。」と説明しています。メーカーの公式紹介にあるメキシコ産の「すっきりした酸味」を感じたいなら、まずは浅煎りから中煎りの豆を選ぶのが筋の通った選び方です。逆に、ミルクを入れて飲みたい人や苦味が好きな人は、深煎りの表記がある豆を選ぶと好みに近づけやすくなります。

コーヒー豆を買うとき、パッケージに浅煎り・中煎り・深煎り、あるいはシティロースト、フレンチローストといった表示を見かけますよね。なんとなく苦そう、酸っぱそうと想…
「すっきりした酸味」を生かすなら浅〜中煎りから
メキシコ産を初めて淹れるなら、中煎り(ミディアム・ハイ・シティ)の豆から始めるのがおすすめです。理由は、酸味と苦味のどちらにも振れすぎない位置にあり、産地の紹介にある「甘い香り」と「すっきりした酸味」の両方を確かめやすいからです。そこから「もっと酸味がほしい」なら浅煎りへ、「もう少しコクがほしい」なら深煎りへと動かしていけば、自分の好みの位置が見つかります。
淹れるときの分量や湯温は、使っている器具のメーカーの抽出ガイドに書かれた基本の量から始めましょう。メーカーごとに案内の数字は異なるので、1社の値を唯一の正解と考えず、手元の器具の説明書に合わせるのが確実です。基本どおりに淹れてから調整することで、味の変化が「豆のせい」なのか「淹れ方のせい」なのかを切り分けられます。
調整で大切なのは、一度に1つの条件だけを変えることです。挽き目と湯温を同時に変えると、どちらが味に効いたのかがわからなくなります。メキシコ産のように味の幅が広い産地ほど、条件を1つずつ動かして記録する方法が役に立ちます。
酸っぱすぎる・苦すぎる——淹れ方でやりがちな失敗
メキシコ産を淹れたときによく聞く悩みが、「酸っぱすぎた」「思ったより苦かった」の2つです。どちらも、豆そのものより淹れ方の条件が原因になっていることがあります。
状況:浅煎りのメキシコ産を淹れたら、甘い香りより酸っぱさが先に来た。
原因:粗い挽き目やぬるめの湯では成分が出きらず、酸味ばかりが目立つ仕上がりになりやすいとされます。
対策:挽き目を少し細かくするか、メーカーの抽出ガイドの湯温に近づけて、もう一度淹れてみる。
仕組みで考えると、湯がコーヒーの粉から成分を引き出す量は、挽き目・湯温・湯と粉が触れている時間で変わります。挽き目が細かいほど湯に触れる表面が増え、湯温が高いほど成分は溶け出しやすくなります。そのため、成分の出方が足りないと酸味が前に出やすく、出すぎると苦味や渋みが目立ちやすい、と説明されることがあります。
反対に「苦すぎる」と感じたときは、深煎りの豆を細かい挽き目・熱い湯で淹れていないかを確認しましょう。挽き目を少し粗くする、湯温を少し下げる、といった調整で苦味の出方は穏やかになりやすくなります。それでも苦味が強いなら、焙煎度を1段階浅い豆に替えてみるのが近道です。
ほかの中南米産とどう違う?比べ方とシーン別の選び方
グアテマラ・ホンジュラスと同じ「甘い香りとすっきりした酸味」の仲間
メキシコ産はほかの中南米産とどう違うのか、と気になる人も多いでしょう。キーコーヒーの産地解説では、メキシコ・グァテマラ・ホンジュラスなどがひとまとめにされ、「甘い香りとすっきりとした酸味が特徴」と紹介されています。つまり、メーカーの産地紹介のレベルでは、メキシコ産はグアテマラ産やホンジュラス産と同じ傾向のグループとして扱われているということです。
このことから言えるのは、産地紹介の文章だけでは、メキシコ・グアテマラ・ホンジュラスの味の差を読み分けるのは難しいということです。これらの産地のあいだに優劣があるわけでもありません。違いを知りたいときは、産地名ではなく、焙煎度・精製方法・品種といった同じ条件をそろえて比べるのが近道です。
やりがちな失敗は、焙煎度の違う豆どうしで産地を比べてしまうことです。中煎りのメキシコ産と深煎りのグアテマラ産を飲み比べても、感じた差のほとんどは焙煎度によるものかもしれません。産地の違いを感じたいなら、同じ焙煎度・同じ精製方法の表示がある豆どうしで比べるようにしましょう。
生産量はコロンビアの半分以下、国の経済での位置づけも違う
中南米の産地として名前が挙がりやすいコロンビアと比べると、規模の違いがはっきりします。ICO統計の2025年度の総生産量は、コロンビアが12,800(千袋)、メキシコが5,165(千袋)で、メキシコはコロンビアの半分以下です。同じ中米のホンジュラス(5,846千袋)とは近い規模です。
国の経済のなかでのコーヒーの位置づけも違います。WCRの国別ページは、メキシコではコーヒーが国の経済に占める役割が近隣国より小さく、輸出総額の0.1%未満にとどまると説明しています。一方で、生産者の数は約54.5万人(ICO調査)にのぼり、多くの小規模農家の暮らしを支える作物であることに変わりはありません。
この違いは、豆を選ぶときの見方にもつながります。コーヒーが国を代表する輸出品という印象の強い産地と比べると、メキシコ産は国際的な知名度のわりに、日本の店頭で目にする機会が少ない産地です。前の章で見たように輸出先の中心は米国と欧州です。日本で手に入るメキシコ産は限られるからこそ、見つけたときに表示をよく読んで選ぶ価値があります。
こんな人にはメキシコ産から——シーン別の選び方
ここまでの情報をもとに、読者のタイプ別にメキシコ産の選び方を整理します。産地の飲み比べを始めたい人には、中南米の「甘い香りとすっきりした酸味」グループの基準として、中煎りのメキシコ産から始める方法があります。同じ焙煎度のグアテマラ産やホンジュラス産と並べれば、産地による差を感じる練習になります。
朝にすっきりした一杯を飲みたい人は、浅煎りから中煎りで、精製方法にウォッシュド(水洗式)と書かれた豆を選ぶと、メーカーの紹介にある方向の味に近づけやすくなります。ミルクを入れて飲みたい人は、深煎り(フルシティ以上)の表記がある豆を選ぶと、苦味が前に出てミルクと合わせやすくなります。産地の背景まで楽しみたい人は、州名や品種名が書かれた豆を探してみてください。チアパス産やオアハカ産、伝統品種か耐病性品種かといった情報があると、この記事で見てきた背景と一杯の味がつながります。
まとめ
次にメキシコ産の豆を見かけたら、まず焙煎度の表示を見て、中煎り(ミディアム・ハイ・シティ)のものを1袋選んでみてください。手元の器具のメーカーが案内する基本の量で淹れ、酸味と苦味のどちらが前に出るかを確かめれば、そこから浅煎り・深煎りのどちらへ進むかが自然に決まります。州名や精製方法が書かれた豆なら、この記事で見た産地の背景と一杯の味を結び付けながら飲めるはずです。
※統計・資料の内容は2026年10月時点で確認したものです。最新情報は各公式サイトでご確認ください。

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