「ペルー」と書かれたコーヒー豆を見かけて、ブラジルやコロンビアと何が違うのか、どんな人がどんな場所で作っているのか、気になったことはありませんか。南米の産地というイメージはあっても、品種や生産者の姿、日本にどれくらい届いているのかまで知る機会は意外と少ないものです。
先に結論をお伝えすると、ペルーで栽培されているコーヒーは、フェアトレード・ジャパンのイベント報告で在日ペルー大使館商務部の商務参事官が紹介したところでは100%がアラビカ種で、標高1200〜2300mの高地で栽培されています。担い手は小規模農家が中心で、JETRO(日本貿易振興機構)はペルーを「エチオピアと並ぶ世界的な有機コーヒー生産国」と位置付けています(JETRO 世界貿易投資報告 ペルー)。日本の生豆輸入量では、2025年に9位でした。
この記事では、国際コーヒー機関(ICO)や全日本コーヒー協会の統計、品種カタログ、品評会の公式結果といった一次情報をもとに、ペルーのコーヒーの「数字」「品種」「生産者」「品質評価」を順にひもときます。最後に、店頭でペルー産の豆を選ぶときにラベルのどこを見ればよいか、家で淹れるときにどう確かめればよいかまでつなげます。
・ペルーのコーヒーの品種・栽培標高・担い手の基本
・ICOの生産量、輸出統計、日本の輸入量と順位の正しい読み方
・2013年のさび病が品種と農園に残した影響
・品評会とスペシャルティの定義から考える、豆の選び方と淹れ方
ペルーのコーヒーはどんな豆?まず押さえたい3つの事実

栽培されているのは100%アラビカ種、しかも標高1200〜2300mの高地
最初に押さえたいのは、ペルーのコーヒーはアラビカ種だけで成り立っている産地だという点です。フェアトレード・ジャパンのカッピングイベント報告には、在日ペルー大使館商務部の商務参事官フェルナンド・アルバレダ氏の発表として「ペルーで栽培されているコーヒーは100%がアラビカ種で、ティピカ、ブルボン、カトゥーラ、パチェ、ゲイシャなどの品種が高地(1200-2300m)で栽培されています」と紹介されています(フェアトレード・ジャパンのイベント報告)。同じ報告で、ペルーの生産者組合COCLAのヴラディミール・ヴィヴァンコ氏は「現在の栽培地の60%が標高1200〜2400mの高地」と説明しており、すべての農地がこの範囲にあるわけではありません。
なぜこれが大事かというと、店頭で「ペルー」と表示された豆を手に取ったとき、少なくとも種(しゅ)のレベルでは迷う必要がないからです。コーヒーにはアラビカ種のほかにも栽培される種がありますが、ペルー産であれば、違いを生むのは「アラビカ種のなかのどの品種か」「どのくらいの標高で育ったか」「どう精製・焙煎されたか」といった、もう一段細かい条件になります。
やりがちなのは、「南米の豆だからブラジルと同じような味だろう」と国の位置だけで判断してしまうことです。同じ南米でも、品種構成や栽培標高は国ごとに違います。袋に標高や品種が書かれていれば、それがペルー産の個性を読み解く入口になります。標高の数字は「1200m以上」「1500〜1800m」のように幅で書かれることが多いので、上の1200〜2300mという範囲のどのあたりかを見てみると、同じペルー産どうしでも違いを意識しやすくなります。
担い手は小規模農家。ただし数字は出所ごとに読む
二つ目の事実は、ペルーのコーヒーの多くが小さな農家によって作られていることです。同じ報告の大使館商務部の発表では「ペルーでは95%のコーヒーが、5ha未満の小規模農家によって生産されており」と紹介されています(フェアトレード・ジャパンのイベント報告)。一方、JETROの報告は、ペルー農業灌漑省(MIDAGRI)の情報として「コーヒー生産者の85%は1~5ヘクタールの小規模農家であるが、コーヒー生産に関わる雇用は間接的なものを含めると200万人に達する。」と書いています(JETRO)。
95%と85%、どちらが正しいのかと迷うかもしれませんが、前者は「生産されるコーヒーのうち、5ha未満の農家によるものの割合」、後者は「生産者のうち小規模農家の割合」と読めます。数えている対象が違うので、どちらか一方に寄せて断定せず、出所ごとに併記するのが正確です。
この「対象を確かめてから数字を読む」という姿勢は、このあと出てくる生産量や輸入量の統計でも何度も役に立ちます。ペルーのコーヒーを語る記事で「〇割が小規模農家」とだけ書かれていたら、何を分母にした数字なのかを一度立ち止まって確かめてみてください。
有機とフェアトレードで名前が挙がる産地
三つ目は、認証コーヒーの分野で存在感がある点です。同じ報告では、中南米フェアトレード生産者ネットワーク(CLAC)のパウロ・フェレイラ・ジュニア氏の説明として「ペルーでは、世界のフェアトレード認証コーヒーの約24%を生産しており」と紹介され(フェアトレード・ジャパンのイベント報告)、JETROは有機コーヒーの主要生産国としてエチオピアと並べています。
小規模農家が多い産地では、一軒ごとに輸出や認証の手続きをするのは負担が大きく、協同組合(生産者組合)にまとまって取り組む形がとられやすくなります。同じ説明では、160以上のフェアトレード生産者組合に6万2000人以上の農家が参加していると紹介されています。認証と小規模農家と協同組合は、ペルーのコーヒーを理解するうえでセットで考えると見通しがよくなります。
注意したいのは、「認証の多い産地」であることと「目の前のペルー産がすべて認証品」であることは別の話だという点です。認証の有無は国名ではなく、袋に表示された認証ラベルで確かめます。詳しくは協同組合と認証を扱う章で整理します。
| 種 | 100%アラビカ種(ペルー大使館商務部の発表/フェアトレード・ジャパンのイベント報告) |
| 主な品種 | ティピカ、ブルボン、カトゥーラ、パチェ、ゲイシャなど(同上。JETROはカティモールも挙げる) |
| 栽培標高 | 1200〜2300mの高地(同上。COCLAは栽培地の60%が1200〜2400mと説明) |
| 担い手・認証 | 小規模農家が中心。世界のフェアトレード認証コーヒーの約24%を生産、有機コーヒーの主要生産国(CLACの説明・JETRO) |
世界でどれくらい作られている?生産量と輸出の数字を読む
ICOの生産量は3,750千袋、世界の中での規模感
結論から言うと、ペルーの生産量は国際コーヒー機関(ICO)の統計で2024生産年度に3,750千袋(1袋60kg)です。全日本コーヒー協会が掲載しているICOの「輸出国別総生産量(生産年度)」の表に、ペルーの数値が年度ごとに並んでいます(全日本コーヒー協会掲載 ICO生産量表)。ペルーの生産年度は4月から翌3月までで、カレンダー上の1年とはずれています。
同じ表で2024年度の主な生産国を並べると、ブラジルの65,400千袋とは桁が一つ違う規模で、ペルーは「巨大産地」ではなく「中規模の産地」に入ります。この規模感を知っておくと、日本の輸入量で上位に入らない理由も想像しやすくなります。
| 国 | 2024生産年度(千袋・1袋60kg) |
|---|---|
| ブラジル | 65,400 |
| ベトナム | 29,185 |
| コロンビア | 13,633 |
| エチオピア | 9,911 |
| ペルー | 3,750 |
| 世界合計 | 174,820 |
出典:ICO(2025年10月)の生産量表、全日本コーヒー協会掲載資料より作成。ペルーの過去年度は2021年度4,350、2022年度3,564、2023年度4,130(いずれも千袋)。
輸出は2024年に数量も金額も伸びた
輸出の面では、2024年は伸びた年でした。JETROの報告には「コーヒーの輸出は11億200万ドルで前年比32.9%増加し、12億3,600万ドルを記録した2022年に次いで、過去2番目に多い年となった」とあり、さらに「数量で見ても2024年は16.0%増の23万8,000トン」と書かれています(JETRO)。
ここで注目したいのは、金額の伸び(32.9%)と数量の伸び(16.0%)の幅が違うことです。金額は数量だけでなく取引される単価にも左右されるため、「輸出額が増えた=それだけ多く作られた」とは限りません。数量の数字を見て初めて、実際に出ていったコーヒーの量の変化がわかります。
行き先については「輸出先国は58カ国・地域にのぼる。上位輸出先には米国、ドイツ、ベルギー、カナダ、スウェーデンなどが続き」と紹介されています(同報告)。北米と欧州が主な行き先で、日本は上位の常連という位置ではありません。同じ報告では、2024年の対日輸出は31.9百万ドル、前年比80.0%増とされています。
「袋」「トン」「パーチメント換算」を混ぜると数字がずれる
ペルーの生産量を調べると、資料によって数字がばらばらに見えることがあります。これは誤りというより、数えている単位と期間が違うためです。ペルーのコーヒー業界団体であるペルー・コーヒー・カカオ会議所(The Peruvian Chamber of Coffee and Cocoa)のサイトでは、2024年1〜12月のデータとして国内の生産量(Production Quantity)が359,060トン(単位はPergamino coffee tonne)と表示されています(camcafeperu.com.pe)。同じサイトでは、2024年の生豆輸出を4,033千袋、輸出額をUSD 1.105 billionとしています。
pergamino(パーチメント)は、果肉を取り除いたあと、生豆が薄い殻に包まれたまま乾燥させた状態を指すことが多い言葉です。殻の分だけ重さが加わるため、生豆の重さで数えた数値とそのまま比べることはできません。ICOの表は「生産年度(4〜3月)の60kg袋数」、業界団体の数字は「暦年(1〜12月)のパーチメント換算トン」で、物差しが二重に違います。
ICOの3,750千袋(2024生産年度)と、業界団体の359,060トン(2024年・パーチメント換算)を並べて増減を語ると、期間も状態も違うため結論を誤ります。原因は「袋とトン」「生産年度と暦年」「生豆とパーチメント」の3つの違いを見落とすこと。対策は、比較するときは同じ機関・同じ単位の表の中だけで年ごとの変化を見ることです。
年によって上下する生産量と、更新を待つ農園
ICOの表でペルーの生産量を年度順に見ると、2021年度4,350千袋、2022年度3,564千袋、2023年度4,130千袋、2024年度3,750千袋と、毎年上下しています。農作物であるコーヒーは天候や病害、木の状態で収穫量が変わるため、一年分の数字だけで「伸びている産地」「縮んでいる産地」と決めつけないことが大切です。
木の状態という点では、現地の農業メディアが報じたペルーのコーヒー関係団体JNCの発言に「Actualmente, el 70% de las plantaciones de café tienen más de 15 años, por lo que requieren ser renovados.」という一文があります(agraria.peの報道)。農園の70%が樹齢15年を超え、植え替えが必要だという趣旨です。同じ報道では、2025年の生産量を282,250トンとする数字も紹介されていますが、報道では60kg袋で4,704,167袋とも書かれていますが、JNCの発言を伝えた報道ベースの値で、ICOの生産年度の表とは期間や集計元が違う点に注意が必要です。
家でコーヒーを楽しむ立場からすると、こうした背景は「同じ産地の豆でも年によって手に入りやすさや中身が変わりうる」という理解につながります。去年と同じ銘柄名でも、収穫年が違えば別のロットだと考えておくと、味の違いに戸惑いにくくなります。
日本にはどれだけ届いている?輸入量9位の中身

2025年は4,754,319kgで9位
日本に入ってくるペルー産のコーヒー生豆は、2025年に4,754,319kgで、国別の順位は9位でした。全日本コーヒー協会が財務省貿易統計をもとにまとめた国別輸入量の表で確認できます(全日本コーヒー協会 国別輸入量上位表)。過去5年を並べると、順位は9〜11位のあたりを行き来しています。
| 年 | 輸入量(kg) | 国別順位 |
|---|---|---|
| 2021年 | 2,520,862 | 11位 |
| 2022年 | 6,032,356 | 9位 |
| 2023年 | 3,536,735 | 10位 |
| 2024年 | 5,174,954 | 9位 |
| 2025年 | 4,754,319 | 9位 |
出典:全日本コーヒー協会「国別輸入量上位表」(財務省貿易統計より)。脱カフェインの生豆を含む。2025年は確々報。
最も少ない2021年と最も多い2022年では2倍以上の差があり、年ごとの振れ幅が大きいことがわかります。輸入量が少ない年があっても、ペルー産が日本から消えたわけではありません。
上位3国で76.4%、その中でのペルーの立ち位置
日本の2025年の生豆輸入量は合計359,381,973kgで、輸入相手は53ヶ国でした。そのうちブラジル・ベトナム・コロンビアの上位3国で76.4%を占めています(全日本コーヒー協会 生豆輸入量資料)。トン単位で見ると、ブラジル146,619トン、ベトナム89,998トン、コロンビア38,034トン、グアテマラ19,630トン、エチオピア15,069トンと続きます。
この数字から見えるのは、日本で飲まれているコーヒーの大部分は上位の数ヶ国でまかなわれていて、ペルー産は「どこでも必ず見かける豆」ではないということです。スーパーの定番ブレンドよりも、産地名を前面に出したシングルオリジンの棚や、焙煎したての豆を量り売りする場で目にする機会が多いかもしれません。
やりがちな誤解は、「9位なら少しは輸入されている程度」と小さく見積もりすぎることです。53ヶ国の中の9位で、5年連続で数千トン規模が入ってきています。手に取れる機会は十分にあるので、棚で見かけたら産地の背景を思い出しながら選んでみてください。生豆そのものの性質や、精製方式の違いはこちらの記事で整理しています。

輸入統計に「含まれるもの」と「含まれないもの」
輸入量の表を読むときに確かめたいのが、何が数えられているかです。全日本コーヒー協会の表には「注:脱カフェインを含む」と注記があり(同協会の表)、ペルー産の数字にも脱カフェイン処理された生豆が含まれています。また2025年の値は「確々報」で、のちに数字が更新される余地のある段階の値です。
もう一つ大事なのは、この表が「生豆」の輸入量だという点です。海外で焙煎された豆や、インスタントコーヒー、液体のコーヒー飲料として入ってくる分は、この生豆の表とは別に扱われます。「日本人が飲んだペルーのコーヒーの量」と同じ意味ではありません。
統計を引用した記事や商品説明で「日本の輸入〇位」と書かれていたら、何年の、何(生豆か、焙煎豆か)の順位なのかを確かめる習慣をつけておくと、数字に振り回されなくなります。順位は年によって入れ替わるので、年版を併記していない順位は参考程度に受け取るのが安全です。
ティピカからゲイシャまで、品種と「さび病」が変えたもの
大使館商務部の紹介に並ぶ5つの品種名を知っておく
ペルーで栽培される品種として、フェアトレード・ジャパンのイベント報告(ペルー大使館商務部の発表)にはティピカ、ブルボン、カトゥーラ、パチェ、ゲイシャの名前が挙げられています(フェアトレード・ジャパンのイベント報告)。JETROの報告は、主な品種としてカトゥーラ、ティピカ、ブルボン、カティモール、パチェ、ゲイシャを挙げています。どちらも書き方は「など」で、これで全部というわけではありません。また、どの品種がペルー全体で何割を占めるかといった内訳は、この記事で参照した一次資料からは確認できていないため、ここでは書きません。
品種を知っておくと何がよいかというと、袋の表示を読むときの手がかりが増えることです。同じペルー産でも、品種名が書かれているものと書かれていないものがあり、品種名が明記された豆は、その品種の個性を前に出して売られていることが多いと考えられます。
やりがちなのは、品種名を「味のラベル」として受け取ってしまうことです。品種は味を決める要素の一つですが、同じ品種でも標高や精製、焙煎度で印象は変わります。品種名は「この豆を説明する条件の一つ」として読むのがちょうどよい距離感です。たとえばゲイシャはパナマでの評価で知られる品種名ですが、ペルー産のゲイシャも同じ品種名で流通します。品種と産地は別々の情報として並べて見るのがコツです。
2013年のさび病で、収穫の最大50%が失われた
ペルーのコーヒーを語るうえで外せない出来事が、2013年のさび病です。ペルーのコーヒー業界団体のサイトの記事には「Coffee rust in 2013 caused significant damage in Peru, losses that destroyed up to 50% of the harvest.」と書かれています(camcafeperu.com.peの記事)。収穫の最大50%が失われるほどの被害だったということです。
小規模農家が多い産地では、一度の大きな被害が生活に直結します。収穫が半分になれば、その年の収入も大きく減ります。さび病は「木が弱って収穫量が落ちる」という形で影響するため、被害を受けた木の回復や植え替えには年単位の時間がかかります。前の章で見た「農園の70%が樹齢15年超」という報道も、こうした更新の課題と地続きの話として読むことができます。
同じ記事では、さび病のほかにセルコスポラやハモグリバエなどの病害虫も挙げられています。コーヒーの木は複数の病害と向き合いながら育てられていて、一つの病気への対策だけで済むわけではない、という前提を知っておくと、産地のニュースの読み方が変わってきます。
英語では coffee leaf rust と呼ばれる、コーヒーの葉に発生する病気です。World Coffee Research の品種カタログでは、品種ごとにさび病へのかかりやすさ(susceptibility)が記載されていて、品種を比べるときの基準の一つになっています。
ティピカは「さび病にかかりやすい」とされる品種
品種とさび病の関係を見るうえで参考になるのが、World Coffee Research(WCR)の品種カタログです。ティピカの項目には「Very high susceptibility to coffee leaf rust」と記載されています(World Coffee Research 品種カタログ)。さび病へのかかりやすさが「非常に高い」と評価されている品種だということです。
前述の業界団体のサイトの記事では、2013年に最も影響を受けたのはティピカのような背の高い品種だったという関係者の話や、その後に耐病性のある品種が取り入れられたという生産者の話が紹介されています。全国コーヒー評議会の会合で、農園で評価したサンプルの82%がカティモールだったという指摘があり、品種が一つに偏る懸念も示されています。品種は「味のため」だけでなく「病気に負けずに収穫を守るため」にも選ばれる、ということがペルーの例からよくわかります。
ここから家で飲む側が学べるのは、品種名の背後には生産者の判断があるということです。ティピカのようにさび病に弱いとされる品種を育て続けるのは手間とリスクを伴いますし、耐病性品種に切り替えるのは収穫を安定させるための選択です。どちらが良い悪いではなく、袋の品種名を見たときに「この品種はどんな事情で育てられているのか」を想像できると、一杯の背景が立体的になります。
品種名は袋のどこで見る?
実際に豆を買うとき、品種名は袋の表面の商品名の近くか、裏面の説明欄に書かれていることが多いです。「ペルー」「ペルー カハマルカ」のように国や地域名だけのものもあれば、「ティピカ」「ゲイシャ」のように品種まで書かれたものもあります。
品種が書かれていないからといって、品質が劣るわけではありません。複数の品種が混ざったロットや、品種まで追跡していない流通の豆もあるからです。一方で、品種名が明記されている豆は、栽培から流通まで情報が細かく管理されている目安にはなります。
やりがちな失敗は、品種名だけを見て「前に飲んだティピカと同じ味だろう」と期待してしまうことです。国も標高も精製も違えば、同じ品種名でも印象は変わります。品種名を見つけたら、あわせて標高・精製方法・焙煎度の表示も確かめ、4つの情報をセットで読むようにすると、選ぶときの精度が上がります。
95%が小規模農家?協同組合・フェアトレード・有機の関係
95%と85%、二つの数字が並ぶ理由
第1章でも触れたとおり、ペルーの小規模農家について、ペルー大使館商務部の発表(フェアトレード・ジャパンの報告)は95%のコーヒーが5ha未満の小規模農家によって生産されている、JETRO(MIDAGRIの情報)はコーヒー生産者の85%が1~5ヘクタールの小規模農家だ、と紹介しています。数字が違うのは、前者が「コーヒーの量のうち」、後者が「生産者の人数のうち」を数えていると読めるためです。
どちらの数字からも読み取れるのは、ペルーのコーヒーが大農園中心ではなく、小さな畑を持つ多くの家族によって支えられているという姿です。JETROは、コーヒー生産に関わる雇用は間接的なものを含めると200万人に達すると紹介しています(JETRO)。
小規模農家が多い産地では、一軒ごとの収穫量は少なく、それを集めて輸出できる量にまとめる仕組みが必要になります。ここで重要になるのが次に見る協同組合です。統計を読むときは数字の違いに戸惑うより、「なぜこういう構造なのか」をつかむほうが、豆選びにも役立ちます。
283の協同組合と、輸出の23%
現地の農業メディアが報じたJNCの発言には「hoy existen 283 cooperativas, de las cuales 60 exportan y representan el 23% del volumen」とあります(agraria.peの報道)。現在283の協同組合があり、そのうち60が輸出を行い、輸出量の23%を占めているという内容です。
協同組合は、小規模農家の豆を集めて品質をそろえ、輸出や認証の手続きをまとめて担う役割を果たします。フェアトレード・ジャパンのイベント報告でも、ペルーの生産者組合COCLAのヴィヴァンコ氏が、組合は技術支援、肥料管理、健康管理、持続可能な農業に関する研修などを通じて生産者の生活と品質向上に貢献していると説明しています。
家で飲む側から見ると、袋に「〇〇協同組合」のような生産者名が書かれていることがあります。これは一軒の農園ではなく、組合に参加する多くの農家の豆を集めたロットであることを示す場合があります。単一農園の豆と組合の豆は、それぞれ違う魅力があり、どちらが上というものではありません。
世界のフェアトレード認証コーヒーの約24%を生産
フェアトレード・ジャパンのイベント報告によると、CLACのパウロ・フェレイラ・ジュニア氏は、ペルーでは「160以上のフェアトレード生産者組合に6万2000人以上の農家が参加しています。」と説明しました(フェアトレード・ジャパンのイベント報告)。そして世界のフェアトレード認証コーヒーの約24%をペルーが生産しているとされています。
同じ報告の大使館商務部の発表でも、小規模農家の多くが生産者組合に所属していることで、フェアトレードをはじめとする国際的な認証の取得や海外市場へのアクセスが促進されていると紹介されています。小規模農家が個別に取るのが難しい認証も、組合という単位なら取り組みやすくなります。
やりがちなのは、「フェアトレード」を味の等級や品質の証明だと受け取ってしまうことです。フェアトレード認証は取引の条件や生産者の環境に関する仕組みで、カップの中の風味を点数で保証するものではありません。認証の3つの柱や最低価格・プレミアムの仕組み、ラベルの見分け方はこちらの記事で詳しく解説しています。

「有機の主要生産国」と「この豆が有機」は別の話
意外と知られていないけれど大事なのが、この区別です。JETROはペルーを「エチオピアと並ぶ世界的な有機コーヒー生産国」と位置付けていますが(JETRO)、これは国全体としての位置づけです。店頭に並ぶペルー産の豆が、すべて有機認証を受けているという意味ではありません。
実は、「ペルー産だから有機のはず」「ペルー産だからフェアトレードのはず」と国名から連想して買ってしまう人は少なくありません。有機かどうか、フェアトレードかどうかは、袋に表示された認証マークや表示で確かめるものです。国名と認証は別々の情報として読みましょう。
逆に、有機やフェアトレードの豆を探しているなら、ペルー産は候補が見つかりやすい産地の一つと言えます。認証の多い産地という事実を、「認証品を探すときの手がかり」として使うのが、統計の正しい活かし方です。
品評会とスペシャルティの定義から見るペルー産の品質
Cup of Excellence ペルー2025で何が起きたか
産地のコーヒーの品質を知る手がかりの一つが品評会です。国際的な品評会 Cup of Excellence(COE)のペルー大会は2025年にも開かれ、主催者 Alliance for Coffee Excellence の公式ページには「International Jury Week: 4 – 7 Nov」と記載されています(Alliance for Coffee Excellence 公式 ペルー2025)。国際審査は2025年11月4〜7日に行われました。
結果については「the winning lots are the top 30 coffees that scored above an 87 by the Cup of Excellence International Jury」とあり、国際審査員団が87点を超えると評価した上位30ロットが入賞しています。主催者の結果ページによると、トップの得点は90.64点で、各コーヒーは最低5回カッピングされたとされています。入賞ロットのオークションは2025年12月2日に行われました。
ここで押さえたいのは、品評会の入賞ロットは「ペルー産の中から選び抜かれた一部」だということです。入賞ロットの得点を、ペルー産全体の平均的な品質と取り違えないようにしましょう。一方で、87点を超える豆が30ロット選ばれたという事実は、ペルーに高い評価を受ける豆を生む生産者がいることを示しています。
SCAJの定義では、スペシャルティは「産地名」ではなく「カップの中」で決まる
「ペルー産のスペシャルティ」といった表示を見かけることがありますが、スペシャルティかどうかは産地名で決まるものではありません。日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)は、スペシャルティコーヒーを「消費者(コーヒーを飲む人)の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること」と定義しています(日本スペシャルティコーヒー協会)。
さらにSCAJは「コーヒーの豆(種子)からカップまでの総ての段階において一貫した体制・工程・品質管理が徹底していることが必須である。(From seed to cup)」としています(同協会)。栽培から精製、輸送、焙煎、抽出までのすべてで品質が管理されていて初めてスペシャルティと言える、という考え方です。
つまり「ペルー産=スペシャルティ」でも「ペルー産≠スペシャルティ」でもありません。同じペルー産でも、管理の行き届き方とカップの中の風味によって評価は分かれます。産地名は品質を保証するラベルではなく、出発点の情報だと考えるのが正確です。
品評会の入賞ロットも、SCAJのスペシャルティの定義も、評価の対象は「産地」ではなく「その豆のカップの中の風味と、そこに至る品質管理」です。ペルー産という表示は品質の保証ではなく、品種・標高・精製・焙煎度などの情報と組み合わせて読むための出発点になります。
評価の7項目を「豆の説明文」を読む物差しにする
SCAJはスペシャルティコーヒーの風味を評価する項目として、カップ・クォリティのきれいさ、甘さ、酸味の特徴評価、口に含んだ質感、風味特性・風味のプロフィール、後味の印象度、バランスの7つを挙げています(日本スペシャルティコーヒー協会)。
この7項目は、プロの審査のためだけのものではありません。家でペルー産の豆を飲むときにも、「後味はどう残るか」「口当たりは軽いか重いか」「酸味はどんな感じか」と項目ごとに意識してみると、漠然と「おいしい・おいしくない」と感じるより、自分の好みがはっきりしてきます。
やりがちなのは、袋の説明文に書かれた風味の言葉を、そのまま感じ取れないと「自分の舌がおかしいのでは」と思ってしまうことです。風味の表現は焙煎や抽出、飲む温度で変わります。説明文は「この方向に注目してみてください」という案内として受け取り、7項目のどこに注目しているのかを読み取ると、説明文と自分の感じ方をすり合わせやすくなります。
ペルーのコーヒーを選ぶ・淹れるときに見るラベルと考え方
「ペルー産の味」を一言で決めないほうがいい理由
「ペルーのコーヒーはどんな味?」という疑問に、一言で答えるのは慎重になったほうがよいテーマです。この記事で参照した統計・定義・認証の一次資料は、ペルー産全体の味を一つの言葉で定めるものではありません。ここまで見てきたように、品種は複数あり、標高は1200〜2300mと幅があり、生産者は数多くの小規模農家と協同組合に分かれています。
条件がこれだけ多様だと、「ペルー産だからこの味」と言い切ることはできません。同じペルー産でも、ティピカかカティモールか、標高がどのあたりか、どう精製され、どの焙煎度に仕上げられたかで、カップの印象は変わりうるからです。
ですから、ペルー産を選ぶときは「国名で味を予想する」より「袋の情報で味を予想する」ほうが確かです。品種・標高・精製方法・焙煎度の4つが書かれていれば、それぞれを手がかりにできます。販売店の説明文に風味の言葉があれば、それはその豆についての説明として受け取り、ペルー産全体の特徴とは分けて考えましょう。
前に飲んだペルー産が好みだったからと、別の店のペルー産を国名だけで選ぶと、品種・標高・焙煎度が違って印象がまったく変わることがあります。原因は、国名を「味のラベル」と思い込むこと。対策は、気に入った豆の袋に書かれていた品種・焙煎度・精製方法をメモしておき、次に買うときはその条件が近い豆を選ぶことです。
焙煎度から入ると選びやすい
品種や標高の違いがまだよくわからないうちは、焙煎度から入るのが選びやすい方法です。全日本コーヒー協会の焙煎度の表では、浅煎りにライト・シナモン、中煎りにミディアム・ハイ・シティ、深煎りにフルシティ・フレンチ・イタリアンが分類されています。同じペルー産でも、どの焙煎度に仕上げられたかで、酸味と苦味のバランスは大きく変わる傾向があるとされています。
焙煎が浅いほど豆本来の酸味が残りやすく、深くなるほど苦味やコクが前に出やすい、というのが一般的な傾向です。産地の個性を感じたいなら浅煎り〜中煎り、ミルクと合わせたいなら深煎り、と飲み方から逆算して選ぶと失敗しにくくなります。
やりがちなのは、「シティ」を深煎りだと思い込んでしまうことです。協会の表ではシティは中煎りに入ります。焙煎度の名前と位置関係を知っておくと、袋の表示から味の方向をつかみやすくなります。焙煎度8段階それぞれの位置と酸味・苦味の関係は、こちらの記事で詳しく解説しています。

淹れ方は「一度に一つだけ変える」で確かめる
ペルー産の豆を家で淹れるとき、特別な淹れ方が必要なわけではありません。まずは使っているドリッパーやコーヒーメーカーの取扱説明書・抽出ガイドにある豆の量・湯量・湯温の目安で淹れるのが基本です。器具メーカーの案内はメーカーごとに違うので、ほかの器具の数字を当てはめず、手元の器具の説明書を基準にしてください。
そのうえで味を調整したいときは、変える条件を一度に一つだけにします。酸味が強いと感じたら挽き目を少し細かくする、苦味が強いと感じたら挽き目を少し粗くする、というように一つずつ変えると、何が味を動かしたのかがはっきりします。挽き目と湯温と豆の量を同時に変えてしまうと、どれが効いたのかわからなくなるのがよくある失敗です。
メモを残しておくと、次に別のペルー産の豆を買ったときに比べやすくなります。豆の条件と淹れ方の条件を分けて記録するのが、自分の好みを見つける近道です。
読者タイプ別:ペルー産との付き合い方
最後に、どんな人がどんな視点でペルー産を選ぶとよいかを整理します。まず、ドリップを始めたばかりで味が安定しない人は、産地の違いより先に淹れ方を固めるのがおすすめです。焙煎度が中煎りの豆を一種類決めて、同じ条件で何度か淹れ、味のぶれが小さくなってから産地の飲み比べに進むと、違いが感じ取りやすくなります。
産地や品種の違いを知って選びたい人は、品種名や標高が明記されたペルー産を選び、同じ焙煎度のほかの国の豆と並べてみると、条件の違いが見えやすくなります。ティピカと記された豆があれば、さび病にかかりやすいとされる品種が育てられている背景にも思いを巡らせてみてください。
生産者の背景や取引の仕組みに関心がある人は、フェアトレードや有機の認証マークが付いたペルー産を選ぶのが一つの方法です。世界のフェアトレード認証コーヒーの約24%を生産する産地なので、認証品の選択肢が見つかりやすい国です。どのタイプでも、国名ではなく袋の情報で選ぶという軸は共通です。
まとめ
ペルーのコーヒーは、国名だけで味を決められるほど単純な産地ではありませんが、だからこそ袋の情報を読む楽しさがある豆です。次にペルー産を見かけたら、品種・標高・精製方法・焙煎度の4つの表示を確かめてメモし、手元の器具の説明書どおりに一杯淹れてみてください。その一杯の記録が、自分の好みのペルー産にたどり着く最初の一歩になります。
※統計・認証・品評会の数値は各機関の公表時点のものです。最新情報は各公式サイトでご確認ください。

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