グラスの上に小さな金属のフィルターをのせ、ぽたぽたと黒い液体が落ちていくのを待つ。ベトナムコーヒーはそんな見た目が印象的な飲み物です。ところが家で真似してみると、いつまでも落ちない、逆にすぐ落ちて薄い、練乳の甘さがちぐはぐになる、といった失敗が起きやすいんですよね。器具の部品は少ないのに、どこで味が分かれるのかが見えにくいのがこの淹れ方の難しさです。
結論から言うと、ベトナムコーヒーの入れ方の要は「挽き目」と「待つ時間」の2つです。ベトナム航空の旅行ガイドでは、フィンに粗挽きの粉を大さじ3~4杯入れ、少量の湯で30秒蒸らし、湯を満たしたら完全に落ちきるまで5~7分待つ流れが紹介されています。ペーパードリップのように注ぎ方で味を組み立てるのではなく、重力で落ちる速さそのものが味を決める器具なんです。
この記事では、フィンの仕組み、豆と練乳の選び方、挽き目の考え方、手順と失敗の直し方、カフェ・スア・ダーなどのアレンジ、全日本コーヒー協会の統計から見たベトナムの豆の立ち位置までを、公的機関・協会・公式ガイドの情報をもとに順番に整理します。
・フィンが重力だけで抽出する仕組みと、練乳を合わせる理由
・粉は大さじ3~4杯、蒸らし30秒、抽出5~7分という公式ガイドの手順
・挽き目と湯温で「落ちない」「薄い」「苦い」が起きる理由と直し方
・カフェ・スア・ダーなどの飲み方と、ベトナムの豆を数字で見た立ち位置
ベトナムコーヒーの入れ方は注ぐより待つ?フィンが重力だけで落とす仕組み

グラスにのせる金属フィルター、フィンの正体
フィンは、カップやグラスの上にのせて使う金属製のドリップフィルターです。ベトナム国家観光局の日本語サイトでは、この器具を「この小さな重力式の金属製ドリップフィルターは、小さな冠のようにグラスの上に鎮座しています。」と紹介しています(ベトナム国家観光局)。
ポイントは「重力式」というところです。エスプレッソマシンのように圧力をかけるわけでも、ハンドドリップのように細口のケトルで湯の当て方を調整するわけでもありません。粉の上に湯をためて、あとは粉の層と金属の小さな穴を湯が自然に通り抜けるのを待つだけ。だからこそ、粉の粗さや量、押さえ方といった「最初に決めた条件」が、そのまま落ちる速さと濃さに表れます。
家でやりがちなのが、ペーパードリップの感覚で湯を細く何度も注ぎ足そうとすることです。フィンは湯をためて待つ設計なので、注ぎ方を工夫しても味はあまり動かず、むしろ途中でふたを開け閉めして温度を逃がしてしまいがちです。湯を入れたら、落ちていく様子を眺めて待つ。この器具はそれが基本の使い方だと考えると、迷いが減ります。
地元ではカフェ・フィンと呼ばれる淹れ方
ベトナム航空の旅行ガイドでは、このフィンで淹れるコーヒーが地元で「カフェ・フィン」として知られていると紹介されています。器具の名前がそのまま飲み物の呼び名になっているわけで、それだけ日常の淹れ方として根づいていることがうかがえます。
同じガイドは、淹れ方の中身を「粗挽きにしたコーヒー豆(通常は深煎りのロブスタ種)に熱湯をゆっくりと通します。」と説明しています(ベトナム航空 旅行ガイド)。ここに、豆の種類(ロブスタ種)、焙煎度(深煎り)、挽き目(粗挽き)、抽出の仕方(ゆっくり通す)という、味を決める4つの条件がすべて入っています。
よくある失敗は、手元にある中細挽きのドリップ用の粉をそのまま使い、ゆっくり通すどころか詰まらせてしまうケースです。逆に、極端に粗い粉だと湯が素通りして薄くなります。カフェ・フィンを家で再現するなら、まずこの4条件のうちどれを揃えられていて、どれが違うのかを確認しておくと、味が想定と違ったときに原因を探しやすくなります。
なぜ練乳を入れるのか、熱帯気候が生んだ組み合わせ
ベトナムコーヒーといえば甘い練乳入りを思い浮かべる人が多いと思います。これには気候の事情があるとされています。ベトナム航空の旅行ガイドは「甘い練乳を加えることは、新鮮な牛乳がすぐに腐ってしまう熱帯気候のために必要不可欠となりました。」と説明しています(ベトナム航空 旅行ガイド)。
理屈としては、砂糖を加えて濃縮した練乳は水分が少なく、生乳より日持ちのする乳製品として使いやすかった、という流れです。深煎りのロブスタ種の濃い抽出液に、甘くて濃度の高い練乳を合わせることで、苦味と甘さが釣り合う飲み物になります。
家で再現するときにやりがちなのは、練乳の代わりに牛乳と砂糖で済ませてしまうことです。もちろんそれもひとつの飲み方ですが、練乳特有の濃厚さやとろみは出ません。本場の組み合わせを確かめたいときは、まず加糖練乳を用意し、少量から加えて甘さを見ていくのが近道です。
フィン:グラスやカップの上にのせて使う、ベトナムの金属製ドリップフィルター。圧力をかけず重力で抽出する。
カフェ・フィン:フィンで淹れたコーヒーの地元での呼び名(ベトナム航空の旅行ガイドより)。
カフェ・スア・ダー:練乳入りのアイスコーヒー。ベトナム国家観光局の日本語サイトでは「カフェ・スー・ダー」と表記されている。
用意するものはフィン・豆・練乳の3つ。選ぶときはどこを見る?
フィンはアルミかステンレスか、材質と手入れの考え方
フィンの材質は、アルミニウム製とステンレス製の金属フィルターが中心です。どちらも紙のフィルターを使わないので、コーヒーの油分が液体側に通りやすく、ペーパードリップよりもとろりとした口当たりになりやすい、という金属フィルター共通の傾向があります。
選ぶときの基準は、材質そのものの優劣よりも「手持ちのグラスやカップの口に安定してのるか」「中ぶた(金属ディスク)とふたが揃っているか」といった使い勝手の面です。フィンは抽出中ずっとカップの上にのっているので、口径が合わずにぐらつくと、熱い湯ごと倒れるおそれがあります。
手入れについては、正直にお伝えしておくことがあります。編集部が2026年10月11日に検索した範囲では、フィンのメーカー公式の取扱説明書や公式の抽出ガイドは見つかりませんでした。そのため、洗い方や使える洗剤、食洗機の可否といった具体的な条件は、購入したフィンに付属する説明や販売元の案内で確認してください。使ったあとに粉を残したままにすると、細かな穴に粉が詰まって次回の落ちる速さが変わる原因になるので、粉を捨てて洗い、よく乾かすところまでを一連の流れにしておくと安心です。
豆は深煎りのロブスタ種が基本とされる理由
豆については、ベトナム航空の旅行ガイドが「通常は深煎りのロブスタ種」と書き、ベトナム国家観光局も材料として「粗挽きのロブスタ豆」を挙げています(ベトナム国家観光局)。国家観光局はさらに、ベトナムの豆について「ほんの少しのバターやカカオとともに焙煎されたその豆は」と紹介しており、焙煎の段階から独特の香りづけが行われることがあるとわかります。
全日本コーヒー協会によると、飲用目的で栽培・流通しているのはアラビカ種とカネフォラ種(通称ロブスタ)の2つです。ロブスタ種については「生産量はコーヒー全体の4割強だが、強健で病害虫にも強い。単品で飲むにはあまり適さず、主にインスタントコーヒーの原料に使用される。」と説明されています(全日本コーヒー協会「コーヒーの基礎知識」)。
実は、ここがベトナムコーヒーの面白いところです。協会の説明では単品で飲むにはあまり向かないとされる豆を、ベトナムでは深く煎り、フィンでじっくり濃く落とし、甘い練乳と合わせることで、日常の一杯として成り立たせてきました。豆の性質に淹れ方と飲み方を合わせた結果が、あの甘くて濃い味だと考えると、練乳を入れる理由にも納得がいきます。
手元にアラビカ種の豆しかない場合でも、フィンで淹れることはできます。そのときは深煎りの豆を選ぶと、練乳と合わせたときの味の方向が本場に近づきます。焙煎度の区分は全日本コーヒー協会の表で、深煎りはフルシティ・フレンチ・イタリアンにあたります。

加糖練乳は法令で中身が決まっている
練乳を選ぶときに知っておくと便利なのが、法令上の定義です。乳及び乳製品の成分規格等に関する命令(旧称は乳等省令)では、加糖練乳を、生乳・牛乳・特別牛乳または生水牛乳にしょ糖を加えて濃縮したものと定めています(e-Gov法令検索)。成分規格も決まっていて、パッケージの名称欄に加糖練乳とあれば、下の表の条件を満たした製品ということになります。
やりがちなのは、似た見た目の甘いミルク系の商品を練乳のつもりで買ってしまうことです。乳成分の割合や甘さの質が違えば、同じ量を入れても仕上がりの濃さが変わります。買うときは商品名ではなく、パッケージ裏の名称欄を確認するのが確実です。
| 定義 | 生乳、牛乳、特別牛乳または生水牛乳にしょ糖を加えて濃縮したもの |
| 乳固形分 | 28.0%以上(うち乳脂肪分8.0%以上) |
| 水分・糖分 | 水分27.0%以下、糖分(乳糖を含む)58.0%以下 |
| 根拠と見るところ | 乳及び乳製品の成分規格等に関する命令。購入時はパッケージの名称欄を確認 |
挽き目はエスプレッソより粗く、フレンチプレスより細かくが目安

中間の挽き目が求められる理由
フィンに使う粉の挽き目について、ベトナム航空の旅行ガイドは「コーヒーはエスプレッソよりも粗く、フレンチプレスよりも細かく挽くべきです」と書いています(ベトナム航空 旅行ガイド)。
この「中間」が求められる理由は、フィンの仕組みから説明できます。フィンは湯をためて重力で落とすので、粉が細かすぎると粉の層が湯の通り道をふさぎ、落ちる速さが極端に遅くなります。反対に、粗すぎると湯が粉の間をすぐに抜けてしまい、成分が十分に溶け出す前に落ちきってしまいます。粉と湯が触れている時間を、ガイドが示す5~7分程度に収めるための挽き目が、この中間の粗さだというわけです。
やりがちな失敗は、エスプレッソ用の極細挽きの粉を「濃く出そう」と使ってしまうことです。フィンには圧力がかからないので、細かい粉は詰まるだけで、濃くなるより先に落ちなくなります。濃さを上げたいときは、挽き目を細かくするより、粉の量をガイドの範囲(大さじ3~4杯)の多いほうに寄せるほうが調整しやすいです。
協会の粒度表に当てはめるとどのあたり?
全日本コーヒー協会は、挽き目(粒度)を砂糖の粒の大きさにたとえて整理しています(全日本コーヒー協会「コーヒーの基礎知識」)。ただし、協会の粒度表にはフィンもフレンチプレスも器具として載っていません。そのため、フィンがどの区分にぴったり当たるかを、協会の表だけで断定することはできません。
手がかりになるのは、ベトナム航空のガイドとベトナム国家観光局がそろって「粗挽き」と書いていることと、協会の表で粗挽きが「ザラメ糖くらい」とされていることです。まずはザラメ糖くらいの粗さから始め、落ちる速さを見て少しずつ細かくしていく、という順番で調整すると失敗が少なくなります。
| 挽き目 | 粒の大きさの目安 | 表に挙がる器具など |
|---|---|---|
| 粗挽き | ザラメ糖くらい | パーコレーターなど |
| 中挽き | グラニュー糖とザラメ糖の中間 | サイフォン、ネル |
| 中細挽き | グラニュー糖くらい | ペーパードリップ、家庭用コーヒーメーカー |
| 極細挽き | 上白糖くらい | エスプレッソなど |
| フィン(参考) | 協会の表に記載なし。ガイドでは粗挽き | エスプレッソより粗く、フレンチプレスより細かく(ベトナム航空の旅行ガイド) |

挽きムラがあると味もムラになる
挽き目の「平均の粗さ」と同じくらい大切なのが、粒の揃い方です。全日本コーヒー協会は「挽きムラがあると、コーヒー粉に湯が平均的に入り込まず、抽出濃度にムラが出ます。」と説明しています(全日本コーヒー協会「コーヒーの基礎知識」)。
フィンは湯をためて待つ器具なので、この影響が出やすいんです。細かい粉が多く混じっていると、その微粉が金属の穴をふさいで落ちる速さが遅くなり、一方で粗い粒からは成分が出きらない、という状態が同時に起こります。結果として、時間はかかったのに薄い、あるいは苦いのに香りが弱い、というちぐはぐな味になりがちです。
家でミルを使うなら、刃の調整を粗めにしたうえで、同じ設定で挽き続けることがまず大切です。挽いた粉を軽くふって極端な微粉を落とす、といった工夫も考えられますが、まずは毎回同じ設定で挽き、落ちる時間を記録して比べるところから始めると、どこを直せばいいのかが見えてきます。
市販のレギュラーコーヒーの粉は、ペーパードリップ向けの中細挽き(グラニュー糖くらい)であることが多く、フィンには細かめです。湯が落ちにくくなり、ガイドの5~7分を大きく超えて落ちきらない原因になります。対策は、粗挽き(ザラメ糖くらい)の粉を用意するか、豆から粗めに挽くこと。手持ちの粉を使う場合は、金属ディスクを押さえる力を弱め、粉を少なめにして様子を見ます。
ベトナムコーヒーの入れ方の手順|大さじ3~4杯・蒸らし30秒・5~7分
粉を入れて金属ディスクを優しく押す
最初の工程は、フィンに粉を入れて平らにならし、金属のディスク(中ぶた)をのせることです。ベトナム航空の旅行ガイドは「フィンに大さじ3~4杯の粗挽きコーヒーを入れる」と書き、そのあと金属ディスクを置いて優しく押す流れを紹介しています(ベトナム航空 旅行ガイド)。この分量は、フィン1つで1回分を淹れるときの目安です。
ディスクを押す理由は、粉の層の密度をそろえるためです。粉がふわっと積もったままだと湯が偏って通り、押しすぎると層が固まって湯が通りにくくなります。「優しく」とわざわざ書かれているのは、この押し加減が落ちる速さを左右するからです。
やりがちなのは、エスプレッソのタンピングのような感覚で強く押し固めてしまうことです。粉が粗挽きでも、強く押すと詰まりやすくなります。コツは、ディスクの重さで粉面を平らにする程度に軽く手を添えること。毎回同じ力加減にできると、抽出時間が安定します。
湯温は沸騰直下、90~96℃と90℃〜95℃
湯の温度について、ベトナム航空の旅行ガイドは「湯温は沸騰直下であるべきです」と書き、手順の中では「少量のお湯(90~96℃)を注いで30秒間コーヒーを蒸らし」と温度を示しています(ベトナム航空 旅行ガイド)。ベトナム国家観光局は材料として「お湯(90℃ – 95℃)」と記しています(ベトナム国家観光局)。
2つの出典で上限が少し違いますが、どちらも「沸騰したての湯をそのまま」ではなく、少し落ち着かせた湯を使う点で一致しています。フィンは抽出に5~7分かかり、そのあいだ粉と湯が触れ続けるので、温度が高すぎると苦味の成分まで出やすくなる、という考え方です。
温度計がない家庭でやりがちなのは、電気ケトルのスイッチが切れた直後の湯を勢いよく注ぐことです。対策としては、沸いた湯を別のポットやカップに一度移すと温度が下がります。温度計があるなら、まずは2つの出典が重なる90~95℃の範囲から始めると、どちらの案内にも沿った条件になります。
30秒の蒸らしで粉に湯をなじませる
ディスクをのせたら、少量の湯を注いで蒸らします。ベトナム航空の旅行ガイドには「少量のお湯を注いで30秒間蒸らす」とあります(ベトナム航空 旅行ガイド)。
蒸らしの目的は、乾いた粉全体にまず湯を行きわたらせることです。焙煎した豆には炭酸ガスが含まれていて、最初に湯が触れると泡になって出てきます。このガスが抜けないうちに大量の湯を注ぐと、ガスが湯の通り道を押しのけて、湯が粉に均一に入りにくくなります。少量の湯で粉をふくらませ、落ち着かせてから本番の湯を注ぐことで、そのあとの抽出が均一になりやすいんです。
よくある失敗は、蒸らしの湯が多すぎて、その時点でぽたぽた落ち始めてしまうことです。蒸らしは「粉を湿らせる」量で十分なので、粉の表面が全体に濡れる程度にとどめます。深煎りの豆は焙煎で多くのガスを含んでいる傾向があるので、粉がふくらむ様子を見てから次へ進むと落ち着いて淹れられます。
湯を満たしたら5~7分、触らずに待つ
蒸らしが終わったら、フィンを湯で満たしてふたをし、あとは待つだけです。ベトナム航空の旅行ガイドは「完全に滴り落ちるまで5~7分待つ」としています(ベトナム航空 旅行ガイド)。落ちきったら、好みで練乳や氷を加えて仕上げます。
この5~7分は、挽き目と粉の量とディスクの押し加減が適正だったかを判定する物差しになります。時間が大きく短ければ薄く、大きく長ければ詰まり気味という目安で、次の一杯の条件を調整していきます。
やりがちなのは、待ちきれずにディスクを押し込んだり、フィンを持ち上げて揺すったりすることです。途中で粉の層を動かすと、詰まりが一気に解消されて雑味ごと落ちたり、粉がカップに漏れたりします。キッチンタイマーで時間を計り、記録しておくと、自分の粉と器具に合った条件が見つかりやすくなります。
落ちない・早すぎる・苦すぎる。フィンの失敗はどこで起きる?

5~7分を大きく過ぎても落ちきらないとき
いつまで待っても湯が残っている場合、原因の多くは粉の層が詰まっていることにあります。考えられるのは、挽き目が細かすぎる、微粉が多い、ディスクを強く押しすぎた、粉の量が多すぎる、のいずれかです。
理由は前の章で触れたとおりで、フィンは圧力をかけない重力式なので、粉の層の抵抗が大きいとそのまま落ちる速さが遅くなります。抽出が長引くほど粉と湯が触れる時間が延び、苦味や渋みが出やすくなるので、「時間がかかったぶん濃くておいしい」とは限りません。
直し方は、一度に1つの条件だけを変えることです。まずディスクを押す力を弱め、それでも遅ければ挽き目を粗くし、それでも遅ければ粉の量をガイドの範囲の少ないほう(大さじ3杯)に寄せます。複数の条件を同時に変えると、どれが効いたのかがわからなくなります。
抽出中に湯が減らないと、ついディスクを上から押し込みたくなります。ところがこれをすると、粉の層がさらに締まって詰まりが悪化するか、逆に層が崩れて濁った液や粉がカップに流れ込みます。対策は、抽出中は触らないことを前提に、次の一杯で「ディスクを押す力を弱める」「挽き目を粗くする」のどちらか1つを変えることです。
すぐに落ちきって薄いとき
逆に、湯を満たしてから短い時間で落ちきってしまい、色も味も薄いという場合は、湯が粉の間を素通りしています。原因は、挽き目が粗すぎる、粉の量が少ない、ディスクをほとんど押していない、のいずれかであることが多いです。
フィンでは、粉と湯が触れている時間が抽出の量を左右します。ガイドが示す5~7分より大きく短いということは、成分が溶け出す前に湯が通り抜けているということです。とくに練乳を加える飲み方では、抽出液が薄いと甘さだけが目立ち、コーヒーの苦味と釣り合わなくなります。
直し方は、まず粉の量を大さじ4杯の側に寄せ、それでも早ければ挽き目を一段細かくします。ディスクを軽く押して粉面を平らにすることも忘れずに。濃さを上げたいときに湯量を減らす方法もありますが、フィンは「湯で満たす」前提なので、まずは粉側の条件から調整するのが筋です。
苦味だけが立って香りが弱いとき
深煎りのロブスタ種を使う以上、苦味はベトナムコーヒーの持ち味です。ただ、苦味ばかりで香りが感じられない、後味がえぐい、というときは抽出条件が行きすぎている可能性があります。
考えられる原因は、湯温が高すぎる、抽出時間が長すぎる、挽きムラで微粉が多い、の3つです。ガイドが「沸騰直下」と書き、国家観光局が90℃〜95℃と示しているのは、沸騰したての湯を長時間粉に触れさせると、苦味や雑味まで引き出しやすいからだと考えられます。
やりがちなのは、苦いからといって練乳を足し続けることです。甘さで苦味は隠れても、えぐみは残ります。直し方としては、湯を一度別の容器に移して温度を下げる、挽き目を少し粗くして抽出時間を5~7分に収める、の順で試してみてください。それでも苦味が強いと感じるなら、焙煎度が浅めの豆を使うのも選択肢です。
フィンが手元にないときはどうする?
フィンを持っていない場合、ペーパードリッパーなど手元の器具で代わりに淹れることを考える人もいると思います。ただ、今回確認した出典の中に、フィンの代用方法を案内した公式の情報はありませんでした。
仕組みから考えると、フィンとペーパードリップの違いは主に2つあります。1つは金属フィルターかどうかで、紙は油分や微粉を通しにくいので、口当たりはすっきり寄りになります。もう1つは湯をためて待つかどうかで、ペーパードリップは注ぎ方で抽出時間が変わります。つまり代用すると、同じ豆でも味の出方が変わることを前提にしておく必要があります。
代用するなら、粉は深煎りを選び、湯温は90~95℃程度に落ち着かせ、濃いめに落として練乳を合わせる、という方向性だけはそろえられます。器具なしで淹れる方法の全体像は、別記事のコーヒードリッパー代用の解説も参考になります。本場の口当たりを確かめたいなら、やはりフィンを1つ用意するのが近道です。
練乳と氷でどう変わる?カフェ・スア・ダーから塩コーヒーまで
カフェ・スア・ダーは淹れたあとに練乳と氷
ベトナムコーヒーの飲み方で真っ先に名前が挙がるのが、練乳入りのアイスコーヒーです。ベトナム航空の旅行ガイドは「「カフェ・スア・ダー」(ca phe sua da / 練乳入りアイスコーヒー)は最も人気のあるバリエーションで」と紹介しています(ベトナム航空 旅行ガイド)。ベトナム国家観光局の日本語サイトでは、同じ飲み物を「カフェ・スー・ダー」と表記しています。
作り方は、フィンで落としたコーヒーに練乳と氷を加えるだけです。フィンの抽出液は濃く、練乳の甘さも強いので、氷が溶けて少し薄まることを前提にした組み合わせだと考えるとわかりやすいです。
やりがちな失敗は、練乳を入れる前に氷を入れてしまうことです。冷えた液体には練乳が溶けにくく、グラスの底に沈んだまま残ります。温かいうちに練乳をよく混ぜて溶かしてから氷を加えると、甘さが全体に行きわたります。氷の量や急冷の考え方は、ドリップでアイスコーヒーを淹れる記事でも詳しく扱っています。
何も入れないカフェ・デン、ミルク多めのバック・シウ
練乳を入れない飲み方もあります。ベトナム国家観光局の紹介では、カフェ・デンは何も加えないブラックで、ホットでもアイスでも飲まれるとされています。フィンで落とした深煎りロブスタ種の濃さと香ばしさを、そのまま味わうスタイルです。
反対に、コーヒーが少なめでミルクが多いマイルドな飲み物として紹介されているのがバック・シウです。苦味が苦手な人や、子ども向けではなく大人がやわらかい味で楽しみたいときに選ばれる飲み方と言えます。
カフェ・デンで失敗しやすいのは、練乳ありきの濃さで淹れたものをブラックで飲み、苦すぎると感じてしまうことです。ブラックで飲むなら、粉の量をガイドの範囲の少ないほうに寄せる、湯温を落ち着かせる、といった調整で飲み口が変わります。バック・シウを家で作るなら、抽出液をいつもどおり淹れ、ミルクの量で濃さを決めると、毎回同じ味を出しやすくなります。
塩コーヒー・エッグコーヒー・ココナッツコーヒー
ベトナムには、地域の名物として知られるアレンジもあります。ベトナム国家観光局の紹介では、中部のフエではひとつまみの海塩を加えるカフェ・ムオイ(塩コーヒー)、ココナッツクリームと練乳、ロブスタ種のコーヒーを氷とブレンドするココナッツコーヒーが挙げられています。
ハノイのエッグコーヒーについて、国家観光局は「1946年の牛乳不足から生まれたハノイの名物で」と書いています(ベトナム国家観光局)。牛乳が手に入りにくい時代に、乳の代わりになるものを工夫した結果として生まれた、という背景は、練乳が定着した理由とも通じるところがあります。
家で試すときにやりがちなのは、レシピの分量がわからないまま材料を足していき、味がまとまらなくなることです。今回確認した出典には、これらのアレンジの分量は示されていませんでした。まずはフィンの基本の抽出を安定させ、そのうえで塩ならひとつまみ、というように1つの材料だけを少量ずつ加えて確かめていくのが安全な進め方です。
| 名前 | 中身 | 向いている人 |
|---|---|---|
| カフェ・スア・ダー | 練乳入りのアイスコーヒー(ベトナム航空のガイドで最も人気のあるバリエーションと紹介) | 甘く冷たい定番を試したい人 |
| カフェ・デン | 何も加えないブラック。ホットでもアイスでも | 豆そのものの苦味と香ばしさを知りたい人 |
| バック・シウ | コーヒー少なめ・ミルク多めのマイルドな飲み物 | 苦味を控えたい人 |
| カフェ・ムオイ | フエの塩コーヒー。ひとつまみの海塩 | 地域の味を家で試したい人 |
| エッグコーヒー | 1946年の牛乳不足から生まれたハノイの名物(国家観光局) | 歴史のある名物を知りたい人 |
| ココナッツコーヒー | ココナッツクリーム、練乳、ロブスタを氷とブレンド(国家観光局) | デザート感覚で楽しみたい人 |
どんな人にどの飲み方が合う?シーン別の選び方
初めてフィンを使う人には、まずカフェ・スア・ダーをおすすめします。練乳と氷が入るので、抽出の濃さが多少ぶれても味がまとまりやすく、基本の手順に慣れる練習になります。暑い季節に作りおきの代わりとして一杯ずつ淹れる、という使い方にも向いています。
ブラック派の人は、カフェ・デンから試すと、ロブスタ種の深煎りがどんな味なのかを確かめられます。普段アラビカ種のブラックを飲んでいる人ほど、その違いがはっきりわかるはずです。ただし、苦味が強すぎると感じたら、前の章で触れた湯温と抽出時間の調整を先に試してください。
甘いものが好きだけれど練乳の甘さは重いと感じる人には、バック・シウのようにミルクで割る飲み方が合います。週末に少し手間をかけて楽しみたい人は、塩コーヒーやココナッツコーヒーのような地域の名物に挑戦してみるのもいいでしょう。どのシーンでも、土台になるのはフィンで安定した抽出液を作ることです。
ベトナムの豆はどれだけ飲まれている?生産と輸入を数字で読む
世界最大のロブスタ種生産国、ベトナム
全日本コーヒー協会は、産地紹介の中でベトナムについて「世界最大のロブスタ種生産国ベトナムのコーヒー豆は、アジアブームに伴って日本でも人気が高まっている。」と書いています(全日本コーヒー協会「コーヒーの生産地」)。
フィンで淹れるベトナムコーヒーが深煎りのロブスタ種を前提にしているのは、まさにこの生産事情と結びついています。身近に大量にある豆の性質に合わせて、焙煎の深さ、挽き目、抽出の方法、練乳との組み合わせが形づくられてきた、と見ると全体がつながります。
やりがちな誤解は、「ベトナムの豆=フィン専用」と考えてしまうことです。協会がロブスタ種について「主にインスタントコーヒーの原料に使用される」と説明しているように、ベトナム産の豆は日本ではさまざまな製品の原料としても使われています。産地としてのベトナムの基礎は、別記事で詳しくまとめています。

ICOの生産量で見るベトナムの規模
国際コーヒー機関(ICO)の資料を全日本コーヒー協会が掲載した統計(ICO 2026.9.12資料)によると、ベトナムの総生産量は2025年で31,885(単位は1,000袋)です(全日本コーヒー協会掲載 ICO資料)。ここでの「袋」は60kg袋です。
同じ表では、ブラジルが59,400、コロンビアが12,800、インドネシアが12,322(いずれも2025年、単位1,000袋)、輸出国の総合計が177,945となっています。ここで挙げたのは表の一部を抜き出したものなので、順位を断定するには表の全行を見る必要がありますが、ベトナムが大きな生産国であることは数字から読み取れます。
数字を読むときの注意点は、生産年度の区切りが国によって違うことです。表ではベトナムが10-9、ブラジルが4-3と記載されています。同じ「2025」でも対象期間がずれるので、国どうしを厳密に比べるときはこの点を頭に置いておく必要があります。
日本の生豆輸入はベトナムが2位
日本に入ってくる生豆で見ると、ベトナムは輸入量の2位です。全日本コーヒー協会の統計資料では、2021年から2025年まで、ベトナムはいずれも2位に入っています(全日本コーヒー協会 統計資料)。1位はブラジルで、2025年は146,619,058(単位kg)でした。
協会のデータページでは、日本のコーヒー生豆輸入量(2025年)は359,382トンで、ブラジル、ベトナム、コロンビアの3か国で輸入量のほぼ4分の3を占めると説明されています(全日本コーヒー協会 統計データ)。下の表は、協会の資料から編集部がベトナムの数字を拾って並べたものです。
| 年 | ICO総生産量(単位1,000袋) | 日本の生豆輸入量(単位kg) | 日本の輸入順位 |
|---|---|---|---|
| 2021 | 31,390 | 100,324,550 | 2位 |
| 2022 | 30,721 | 105,728,194 | 2位 |
| 2023 | 26,785 | 99,095,606 | 2位 |
| 2024 | 28,685 | 97,330,528 | 2位 |
| 2025 | 31,885 | 89,997,950(確々報) | 2位 |
出典:全日本コーヒー協会掲載のICO資料(2026.9.12)、全日本コーヒー協会の生豆輸入量統計。ICOの生産年度はベトナムが10-9。
表を見ると、生産量と日本の輸入量は同じ動きをしているわけではありません。輸入量は為替や需要、他の産地との兼ね合いでも変わるので、一方の数字だけで産地の勢いを判断しないことが、統計を読むときのコツです。
カフェイン量の数字は条件つきで読む
濃く落とすベトナムコーヒーは、カフェインが多いのでは、と気になる人もいると思います。食品安全委員会のファクトシート「食品中のカフェイン」では、コーヒーのカフェイン濃度が100mlあたり60mgと示されていますが、これはコーヒー粉末10gに熱湯150mlという浸出条件での値です(食品安全委員会 ファクトシート)。
フィンは粉の量と湯の量の比率がこの条件と違うので、この値をそのままフィンの抽出液に当てはめることはできません。また、このファクトシートの作成日は平成23年3月31日で、作成から年数がたっている資料である点にも注意が必要です。同じファクトシートには「海外の情報によると、現在、食品中のカフェインについては、一日摂取許容量(ADI)のような健康への悪影響がないと推定される摂取量は設定されていません。」という記載もあります(食品安全委員会 ファクトシート)。
豆の種類によるカフェインの違いなど、くわしい読み方は別記事で扱っていますが、数字は条件とセットで読むのが基本です。体調や妊娠中のカフェインについては医師に相談してください。
まとめ
最初の一杯は、ガイドどおり大さじ3~4杯の粗挽きの粉で淹れ、湯を満たしてから落ちきるまでの時間をタイマーで計ってみてください。5~7分より大きく短いか長いかがわかれば、次に直すのが挽き目なのか、粉の量なのか、ディスクの押し加減なのかが見えてきます。抽出が安定したら、練乳と氷でカフェ・スア・ダーに仕上げて、ベトナムの定番の味を確かめてみましょう。
※統計・法令・各ガイドの内容は記事作成時点のものです。最新情報は公式サイトでご確認ください。

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