コーヒー豆の売り場で「エルサルバドル」という名前を見かけても、ブラジルやコロンビアほど味のイメージが浮かばない人は多いのではないでしょうか。中米の小さな国のコーヒーだとはわかっても、何が特徴なのか、ラベルにある「SHG」や「パカマラ」が何を指すのか、選ぶ手がかりがつかみにくいですよね。
先に結論をお伝えすると、エルサルバドルのコーヒーは在エルサルバドル日本国大使館の資料(2017年)で「香り、甘さ、バランスが取れた酸味が特徴」と紹介されています。国際コーヒー機関(ICO)のサイトに掲載された2015-16年度の資料では、精製の96%が水洗式で、品種はブルボンとパカスが中心です。パカスとマラゴジッペを掛け合わせた大粒のパカマラも、この国の研究機関から生まれました。そしてラベルのSHG・HG・CSは味のランクではなく、栽培された標高の区分です。
この記事では、ICO・World Coffee Research(WCR)・全日本コーヒー協会・大使館資料といった一次情報をもとに、産地の山系と標高、3つの品種、精製と焙煎度、1740年の伝来から内戦・さび病を経た歴史、そして日本の輸入量の推移までを順に整理します。数字は資料ごとに年次と出典を添えるので、豆を選ぶときの「ラベルの読み方」として使ってください。
・公式資料で確認できるエルサルバドル産の味の特徴と、その範囲
・6つの山系と、SHG・HG・CSという標高区分の正しい読み方
・ブルボン・パカス・パカマラの成り立ちと、精製・焙煎度の選び方
・1740年の伝来から内戦・さび病、日本の輸入量の推移までの流れ
エルサルバドルのコーヒーはどんな味?公式資料が示す特徴の範囲

大使館資料の「香り、甘さ、バランスが取れた酸味」が出発点です
エルサルバドル産の味をひとことで言うなら、公的な資料が示しているのは「香り・甘さ・酸味のバランス」です。在エルサルバドル日本国大使館の2017年の資料では、この国のコーヒーについて「香り、甘さ、バランスが取れた酸味が特徴」と紹介されています。強烈な個性で押すというより、全体の釣り合いで語られている点が手がかりになります。
なぜ「バランス」なのかを考えるときに見ておきたいのが、後で詳しく扱う栽培と精製の条件です。ICOの資料では精製の大部分が水洗式で、全農園がシェードツリー(日陰をつくる木)の下で栽培されていると説明されています。条件のそろった豆が多い国だと理解しておくと、ラベルの情報が読みやすくなります。
家でやりがちなのは、通販サイトや豆袋に書かれた「〇〇のような香り」という華やかな表現をそのまま期待して買い、思ったのと違うと感じてしまうことです。そうした表現は特定の農園やロット、焙煎の結果を伝えたもので、国全体の味を代表するものではありません。この記事でも、味の表現は公式資料の範囲に留めています。最初の一杯は、香り・甘さ・酸味の3つがどう釣り合っているかを意識して飲んでみると、特徴がつかみやすいですよ。
味を左右するのは産地名より「標高・品種・精製・焙煎」の4つ
同じ「エルサルバドル」と書かれた豆でも、味は一つではありません。味を左右するのは、どの標高で育ったか、どの品種か、どう精製したか、どこまで焙煎したかの4つが重なった結果です。産地名は、その4つの条件を絞り込むための入り口だと考えてください。
理由はシンプルで、コーヒーの風味は生豆の段階で決まる要素と、焙煎・抽出で引き出される要素の両方でできているからです。たとえばWCRはブルボンについて、高い標高で優れたカップ品質を示すと説明しています。つまり品種と標高の組み合わせが条件になり、さらに焙煎度が浅いか深いかで、同じ生豆でも感じ方が変わります。
やりがちな失敗は「エルサルバドル産を買ったのに、前に飲んだものと全然違う」と産地のせいにしてしまうことです。前回は中煎り、今回は深煎りだった、ということはよくあります。豆袋を見るときは、国名の次に「標高(またはSHGなどの区分)」「品種」「精製方法」「焙煎度」の4項目がどこまで書かれているかを確かめましょう。全部そろっている豆ほど、次に買うときに同じ条件を選び直せます。
| 主な産地 | 6つの山系。面積ではApaneca-Ilamatepecが50.1%(ICO掲載資料・2015-16年度) |
| 主な品種・精製方法 | ブルボン・パカス・パカマラ/水洗式(Washed)96% |
| 味の傾向 | 香り、甘さ、バランスが取れた酸味(大使館2017年資料の表現) |
| 淹れ方のコツ | まずは中煎り(ミディアム/ハイ/シティ)を選び、香りと酸味の釣り合いを確かめる |
グアテマラやコスタリカとの違いは?比べられるのは「数字」の部分
中米の他の国と比べて「どちらがおいしいか」は、公式資料では決められません。この記事では産地どうしの味の優劣はつけず、確かめられる数字で違いを見ます。比べやすいのが、日本がどれだけ輸入しているかです。
全日本コーヒー協会が財務省「貿易統計」をもとにまとめた表では、2024年の日本の生豆輸入量は、グアテマラ19,068トン、ホンジュラス7,166トン、ニカラグア1,561トン、コスタリカ1,487トン、エルサルバドル1,095トン、メキシコ942トンでした。中米の産地の中で、エルサルバドル産は日本では量の少ない部類に入ります。
ここでやりがちなのが、「輸入量が少ない=人気がない、品質が低い」と読んでしまうことです。大使館資料に掲載された投稿では、エルサルバドル産は「知名度が少なく、エルサルバドルの魅力と合わせたストーリーを伝えられて」いないといった見方が紹介されています(大使館資料)。量の少なさは味の評価ではなく、流通や知名度の問題として語られているわけです。比べるなら、精製方法・標高・品種といったラベルの項目どうしで比べるのが確実です。
産地はどこ?6つの山系と標高500〜2,365mの幅
面積の半分を占めるのはApaneca-Ilamatepec山系
エルサルバドルのコーヒー産地は、国内の6つの山系に分かれています。ICOのサイトに掲載されたエルサルバドル側の2015-16年度の資料によると、栽培面積の50.1%(66,550ha)をApaneca-Ilamatepec山系が占め、2番目のEl Bálsamo-Quezaltepec山系が28.3%(37,545ha)です。この2つで面積の8割近くになります。
山系の名前を知っておくと便利なのは、豆袋やスペシャルティの評価結果に「Apaneca Ilamatepec」「Alotepec-Metapan」のように山系名がそのまま書かれることがあるからです。後で紹介するカップ・オブ・エクセレンス(COE)2025年の結果でも、上位ロットの産地欄にこれらの山系名が並んでいます。
やりがちな失敗は、山系名を都市名や農園名と取り違えることです。たとえば「サンタアナ」は地域・都市の名前で、Apaneca-Ilamatepec山系の周辺にあたる地名として出てきます。表記の揺れもあり、スペイン語のアクセント記号が省かれたり、ハイフンが入ったり入らなかったりします。ラベルを見るときは、6つの山系名のどれに近いかで読み替えると迷いにくくなります。なお、この資料は2015-16年度のものなので、面積の割合は「当時の資料では」という前提で見てください。
同じ国でも標高の幅は山系ごとに違う
標高の幅は山系によって大きく違います。ICO掲載資料の数値では、Apaneca-Ilamatepecが500〜2,365m、El Bálsamo-Quezaltepecが500〜1,960m、Tecapa-Chinamecaが500〜2,139mと、上限が高い山系がある一方、Chichontepecは500〜1,000mに収まっています。Alotepec-Metapánは1,000〜2,000mと、低いところでも1,000mから始まるのが特徴です。
標高を気にする理由は、エルサルバドルでは標高そのものが豆の区分(SHG・HG・CS)の基準になっているからです。同じ山系でも、斜面の低いところと高いところでは区分が変わります。山系名だけで「この山系の豆は高地産」と決めつけず、ラベルに書かれた標高や区分を合わせて確認するのが確実です。
| 山系 | 栽培面積 | 面積比 | 標高範囲 |
|---|---|---|---|
| Apaneca-Ilamatepec | 66,550ha | 50.1% | 500〜2,365m |
| El Bálsamo-Quezaltepec | 37,545ha | 28.3% | 500〜1,960m |
| Tecapa-Chinameca | 15,705ha | 11.8% | 500〜2,139m |
| Chichontepec | 6,075ha | 4.6% | 500〜1,000m |
| Cacahuatique | 4,815ha | 3.6% | 500〜1,663m |
| Alotepec-Metapán | 2,200ha | 1.7% | 1,000〜2,000m |
全農園が日陰栽培という資料の記述
ICO掲載資料には、エルサルバドルのコーヒー農園はすべてシェードツリーの下で栽培されている、という趣旨の記述があります。シェードツリーとは、コーヒーの木に日陰をつくるために一緒に植えられる高木のことです。
日陰栽培が注目されるのは、直射日光をさえぎることで栽培環境が変わるからです。コーヒーの産地では、日なたで一斉に育てる方式と、木々の間で育てる方式の両方が見られます。エルサルバドルでは後者が国全体の前提だと資料が説明している点は、他の産地の豆と比べるときの一つの手がかりになります。
ただし、日陰栽培だから必ずこういう味になる、とまで言い切れる一次資料はありません。ここでやりがちなのは、豆袋に「シェードグロウン」と書いてあるのを見て、それだけで味や品質の保証だと受け取ることです。日陰栽培は栽培方法の説明であり、品質評価ではありません。ラベルで見かけたら「栽培条件の情報が一つ増えた」と受け止め、味の判断は標高・品種・精製・焙煎度の表示と合わせて行いましょう。
「西部52%」と「50.1%」はなぜ違う?資料で区分が違う理由
エルサルバドルの産地の割合を調べると、資料によって数字が違って見えることがあります。これは間違いというより、区分のしかたが違うためです。大使館の2017年資料は産地を西部52%、中央部29%、東部19%と地域で3つに分けていますが、ICO掲載資料は6つの山系の面積比で示しています。
同じように、標高についても大使館資料は「生産の71%は標高900〜1,500mの間の山間部」と書いていて、ICO資料の区分(800m・1,200mの区切り)とは境界が違います。さらに報道によっては、面積比と生産量比が混ざって山系の順位や割合が入れ替わって伝えられていることもあります。
やりがちな失敗は、別々の資料の数字を一つの表に並べて「どれが正しい?」と混乱することです。対策は、数字を見るたびに「何の割合か(面積か生産量か)」「どう区分したか(地域か山系か)」「いつの資料か」の3点を確かめることです。この記事では、山系の数字はICO掲載資料に固定し、地域の割合は大使館資料のものとして分けて書いています。
SHG・HG・CSは味のランクじゃない?標高区分の読み方

3つの区分の境目は800mと1,200m
エルサルバドル産の豆袋で見かけるSHG・HG・CSは、栽培された標高による区分です。ICO掲載資料では、最上位の区分を「Strictly High Grown-SHG」と表記し、その条件を「Produced above 1,200 m」としています。つまりSHGは標高1,200m超で生産された豆という意味です。
同じ資料で、HG(High Grown)は800〜1,200m、CS(Central Standard)は600〜800mとされています。数字の区切りを知っておくと、袋に「SHG」とだけ書かれていても、おおよそどの高さで育った豆なのかを読み取れます。
SHG(Strictly High Grown)=標高1,200m超で生産された豆
HG(High Grown)=標高800〜1,200mで生産された豆
CS(Central Standard)=標高600〜800mで生産された豆
※ICOのサイトに掲載されたエルサルバドル側の2015-16年度資料の区分。資料や販売者によって区切りや呼び名が異なる場合があります。
ラベルの読み方として注意したいのは、同じ「SHG」でも1,200mを少し超えた豆と、2,000m近い高地の豆が同じ区分に入ることです。標高の具体的な数字が書かれていれば、区分よりそちらを優先して見ると、豆どうしの違いがよりはっきりします。
実は「SHG=おいしい」ではない理由
意外と知られていないけれど、SHGは味の等級ではありません。あくまで「どの高さで育ったか」の区分で、カップの評価点や欠点の少なさを直接示すものではないのです。
では、なぜ高い標高の豆が珍重されるのか。WCRはブルボンについて「known for excellent quality in the cup at the highest altitudes.」と説明しています(WCR品種カタログ:ブルボン)。高い標高と品種の組み合わせが品質につながりやすいという話であって、標高が高ければどんな豆でも良い、という意味ではありません。精製の丁寧さや焙煎度でも、カップの印象は変わります。
実際、品質を競うカップ・オブ・エクセレンスのような評価は、標高区分とは別に、審査員がカップを味わって点数をつけます。SHGの豆の中にも評価の高いロットとそうでないロットがあり、HGの豆が好みに合うこともあるわけです。SHGは「選ぶための条件の一つ」と考えて、ほかの表示と組み合わせて見るのがおすすめです。
SHBなど別の表記・別の区切りに出会ったら
エルサルバドル産の豆には、SHGではなく「SHB」と書かれていることもあります。SHBもSHGと同じく標高の高さを示す表記として使われますが、販売者によって使う呼び名や境界の数字が違い、ICO掲載資料の区分(800m・1,200mの区切り)と一致しないことがあります。
区切りが揃わない理由の一つは、標高区分が国や販売の場面ごとに使われてきた呼び名で、全世界共通の規格ではないことです。前のセクションで見たように、大使館資料も「標高900〜1,500m」という別の幅で生産の割合を説明しています。資料ごとに物差しが違うのは自然なことなのです。
この記事では、混乱を避けるために区分の数字をICO掲載資料のSHG・HG・CSに統一しています。家で豆を選ぶときは、「SHB」「SHG」の文字だけで判断せず、袋に具体的な標高が書かれているかを見ましょう。書かれていなければ、販売者の説明ページで区分の定義を確かめるのが確実です。区分名が同じでも中身の定義が違うかもしれない、と頭の片隅に置いておくと、別の店の豆と比べるときに迷いません。
やりがちな失敗:区分だけで選んで焙煎度を見落とす
エルサルバドル産を選ぶときにもっともありがちな失敗が、「SHGだから大丈夫」と区分だけで買い、焙煎度の表示を見落とすことです。期待していたのは大使館資料が紹介するような香りや甘さ、酸味の釣り合いだったのに、深煎りの豆だったために苦味が前に出て、印象が違ったというケースです。
原因は、標高区分と焙煎度がまったく別の情報だからです。標高区分は生豆の育ち方、焙煎度は焙煎所がどこまで火を入れたかを示しています。同じSHGの生豆でも、焙煎度が変われば味の出方は変わります。
「SHG」「高地産」の文字だけを見て買い、焙煎度の表示を確認しない。標高区分は生豆の情報、焙煎度は焙煎の情報で、まったく別物です。産地の特徴を知りたい最初の一袋は、区分と一緒に焙煎度(浅煎り・中煎り・深煎り)も必ず確かめましょう。
対策はシンプルで、袋の表示を「区分(標高)→品種→精製→焙煎度」の順にチェックする習慣をつけることです。焙煎度が書かれていない場合は、販売者の説明を確認するか、店頭なら尋ねてみましょう。
ブルボン・パカス・パカマラは何が違う?3品種の成り立ち
ブルボン:世界的に重要とされる伝統品種
エルサルバドルのコーヒーを支えてきた中心の品種がブルボンです。WCRによると、ブルボンはフランス人宣教師がイエメンからブルボン島(現在のレユニオン)へ持ち込んだ系統で、アラビカ種の中でも文化的・遺伝的に重要な品種の一つと説明されています。そして「known for excellent quality in the cup at the highest altitudes.」、つまり高い標高で優れたカップ品質を示すとされています(WCR品種カタログ:ブルボン)。
エルサルバドルは標高1,000mを超える山系を多く持つ国なので、ブルボンの性質と土地の条件が重なりやすいと言えます。大使館資料も、この国のコーヒー種は「アラビカ種ブルボン亜種が主力で」あると説明しています(大使館資料)。
注意したいのは、WCRがブルボンを葉さび病への抵抗性が低い品種としている点です。ここが後の歴史の話、2012年のさび病の被害につながっていきます。豆袋で「ブルボン」を見かけたら、伝統的な品種であると同時に、病気に弱く産地の苦労がある品種だと知っておくと、ラベルの見え方が少し変わりますよ。
パカス:1949年にサンタアナで見つかったブルボンの突然変異
パカスはエルサルバドル生まれの品種です。WCRは「The variety was discovered in 1949 on a farm owned by the Pacas family in the Santa Ana region of El Salvador.」と説明しています(WCR品種カタログ:パカス)。1949年、サンタアナ地域のパカス家の農園で見つかったブルボンの自然突然変異で、品種名は発見された農園の一家の名前に由来します。
WCRの評価では、収量は中程度、豆の大きさは標準的です。一方、葉さび病については「Very high susceptibility to coffee leaf rust.」と、抵抗性が低いことがはっきり書かれています(WCR品種カタログ:パカス)。ICO掲載資料にも「The Pacas variety was widely planted.」とあり、国内で広く植えられた品種だとわかります(ICO掲載資料)。
やりがちな誤解は、パカスとパカマラを同じものだと思うことです。名前が似ていますが、パカスはブルボンの突然変異、パカマラはパカスを親にして別の品種と掛け合わせたものです。ラベルの品種欄は一文字違いで別物なので、よく確かめましょう。
パカマラ:パカスとマラゴジッペを掛け合わせた大粒品種
エルサルバドルを語るうえで欠かせないのがパカマラです。WCRは「Originated from a cross between Pacas and Maragogipe.」と説明しています(WCR品種カタログ:パカマラ)。パカスと、大粒で知られるマラゴジッペを交配した品種で、エルサルバドルのコーヒー研究所(ISIC)が開発しました。名前も「パカス」と「マラゴジッペ」を組み合わせたものです。
WCRの評価では豆の大きさがVery Large(非常に大きい区分)とされ、優れたカップ品質を生み出しうる品種と説明されています。葉さび病への抵抗性は低いとされます。大使館資料は、北西部のチャラテナンゴ地域がカップ・オブ・エクセレンスでパカマラ種が上位を独占するようになり、知名度を上げたと記しています。
なお、パカマラの開発年は資料によって食い違いがあり、WCRのページにも開発年の記載はありません。この記事では年を断定しないことにしています。豆袋や紹介文で開発年を見かけても、出典によって違うことがあると知っておいてください。大粒の豆は焙煎のときに火の通り方が変わることもあるため、焙煎所がパカマラ単独で丁寧に焙煎した豆を選ぶと、品種の個性を確かめやすくなります。
品種の割合は資料によって違う
エルサルバドルの品種構成を調べると、資料ごとに割合が違います。ICO掲載資料(2015-16年度)では、Bourbon 62%、Pacas 31%、Pacamara 2%、その他5%です。一方、大使館の2017年資料では、ブルボンが生産の50%、パカス32%、パカマラ3%とされ、同じ文書の別の段落には「60%がブルボン、33%がパカス」とも書かれています。
数字が揃わないのは、調査の年次や集計の方法が資料ごとに違うためと考えられます。どの資料でもブルボンがもっとも多く、パカスがそれに続き、パカマラはごく一部という順番は共通しています。この記事では単一の割合を「正解」として断定せず、資料名と年次を添えて紹介しています。
| 項目 | ブルボン | パカス | パカマラ |
|---|---|---|---|
| 成り立ち | イエメンからブルボン島(現レユニオン)へ導入 | 1949年にサンタアナ地域で発見されたブルボンの自然突然変異 | パカス×マラゴジッペ。ISICが開発 |
| 豆の大きさ | ― | 標準的 | Very Large |
| 葉さび病 | 抵抗性が低い | 抵抗性が低い | 抵抗性が低い |
| 品種構成(ICO 2015-16) | 62% | 31% | 2% |
水洗式96%の国で豆を選ぶ:精製方法と焙煎度の考え方

水洗式とは?果肉を除いて発酵・水洗いする精製
エルサルバドル産の豆の大部分は、水洗式(ウォッシュド)で精製されています。ICO掲載資料では精製の内訳が水洗式96%、セミウォッシュド・ハニー・ナチュラルを合わせて4%です。同資料には「Washed coffee from berry to green」という表現もあり、果実から生豆までを水洗式で仕上げる国として紹介されています(ICO掲載資料)。
水洗式の工程について、全日本コーヒー協会のコラムは「コーヒーチェリーから果肉を除去し、豆についた粘液質(ミューシレージ)を発酵させてから、きれいな水で洗い、乾燥させる製法です。」と説明しています。果肉と粘液質を取り除いてから乾燥させるので、果実の要素を豆に残す精製とは工程が違います。
家で豆を選ぶときに覚えておきたいのは、エルサルバドル産で精製方法の表示がない場合、水洗式である可能性が高いということです。ただし断定はできないので、気になるときは販売者の説明で確認しましょう。逆に「ナチュラル」「ハニー」と書かれていれば、それは少数派の精製を選んだ豆だと読めます。
ナチュラル・ハニーは少数派、だからこそ表示を確かめる
ナチュラル(非水洗式)は、全日本コーヒー協会の説明では「果肉がついたままのコーヒーチェリーを天日干しで乾燥させて、その後、脱穀してコーヒー豆を取り出す製法です。」とされています(全日本コーヒー協会のコラム)。水洗式とは逆に、果肉をつけたまま乾燥させるのがポイントです。
ハニープロセスについては、協会のページではコスタリカの精製方法として説明されています。エルサルバドルでもハニーやナチュラルの豆はつくられていますが、ICO掲載資料の数字では全体の4%にあたる少数派です。ただ、品評会では扱いが異なり、カップ・オブ・エクセレンス2025年のエルサルバドル大会では、伝統的ウォッシュド&ハニー、伝統的ナチュラル、実験的という3つの部門が設けられていました。
やりがちなのは、精製方法の違いを見ずに「エルサルバドル産はこういう味」と一括りにすることです。同じ国の豆でも、精製が違えば工程が違い、風味の出方も変わりえます。精製方法ごとの違いをもっと知りたい方は、生豆と精製の基礎をまとめた記事も参考にしてください。

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焙煎度は8段階、まずは中煎りから試す
焙煎度について、全日本コーヒー協会のコラムは「焙煎度は最も浅いライトローストから真っ黒になるまで炒り上げたイタリアンローストまで8段階ありますが、大まかには浅炒り、中炒り、深炒りの3段階。」と説明しています。浅煎りはライト・シナモン、中煎りはミディアム・ハイ・シティ、深煎りはフルシティ・フレンチ・イタリアンです。シティは深煎りではなく中煎りに入る点に気をつけてください。
エルサルバドル産の特徴として紹介される「香り、甘さ、バランスが取れた酸味」を確かめたいなら、まずは中煎りから試すのがわかりやすいでしょう。一般に、焙煎が浅いほど酸味が、深いほど苦味が前に出やすいとされていて、中煎りはその中間にあたります。酸味が好きなら浅煎り寄り、ミルクと合わせるなら深煎り寄り、と好みで振り幅を調整していけます。
エルサルバドル産の特徴を知りたい最初の一袋は、水洗式・中煎り(ミディアム/ハイ/シティ)の豆を選ぶと比べやすくなります。精製は全体の96%が水洗式(ICO掲載資料)なので、まずは「多数派の条件」で味の基準をつくり、そこから浅煎り・深煎りやナチュラルへ広げていきましょう。
焙煎度ごとの味の違いの理屈は、焙煎を詳しく扱った記事で解説しています。

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読者タイプ別の選び方と、やりがちな失敗
どんな飲み方をしたいかで、エルサルバドル産の選び方は変わります。ブラックで産地の特徴を知りたい人は、水洗式・中煎りで品種名が明記された豆を。品種の違いを楽しみたい人は、同じ焙煎度のブルボンとパカマラを並べて飲むと違いがわかりやすくなります。ミルクと合わせたい人は深煎り寄り、少量ずつ珍しい豆を試したい人はナチュラルやハニーといった少数派の精製を選ぶと、同じ国の幅広さに気づけます。
ブレンドの中に入っていた「エルサルバドル」の名前を見て、そのブレンドの味をエルサルバドル産の味だと思い込む。ブレンドは複数の産地の豆を組み合わせたものなので、単一産地の特徴はわかりません。産地の味を知りたいときは、産地名だけが書かれたストレート(シングルオリジン)の豆を選びましょう。
この失敗が起きやすいのは、エルサルバドル産が日本でブレンドに使われてきた経緯があるからです。大使館資料にも「日本ではエルサルバドルコーヒーはブレンド用として販売されて」いるという記述が見られます(大使館資料)。ブレンドの中のエルサルバドル産は名脇役、ストレートは主役、と分けて考えると選びやすくなりますよ。
1740年の伝来から内戦・さび病まで:歴史を知るとラベルが読める
1740年、アウワチャパンから始まった栽培
エルサルバドルにコーヒーが伝わったのは1740年です。ICO掲載資料の年表には「Coffee brought into El Salvador」として1740年が記され(ICO掲載資料)、大使館の2017年資料も同じ年に上陸したと説明しています。
栽培の広がりについて、大使館資料は「エルサルバドルのコーヒー栽培はアウワチャパンで始まり、その後サンタアナ、ソンソナテへ広まった。」と書いています(大使館資料)。アウワチャパン、サンタアナ、ソンソナテはいずれも国の西部にある地域です。大使館資料が産地の52%を西部としていることと合わせると、栽培が始まった地域が今も中心であり続けていることが読み取れます。
こうした地名は、パカス種が見つかった「サンタアナ地域」のように、品種や豆の説明にも登場します。豆袋で地名を見かけたときに「西部の伝統的な産地だな」と位置関係がわかると、ラベルの情報をつなげて読めるようになります。ちなみに大使館資料によると、国際コーヒー機関が10月1日をコーヒーの日と定めており、エルサルバドルでも10月1日をコーヒーの日と呼んでいるそうです。
輸出の大半がコーヒーになった時代
伝来から100年ほどで、コーヒーはエルサルバドルの経済を支える柱になっていきます。ICO掲載資料の年表では、1855年に初めて輸出され(「First Export of Salvadoran Coffee」)、1864年に経済的な離陸を迎えたとされています(ICO掲載資料)。
大使館資料によると、1879年にはコーヒーが輸出の49%、藍が32%となり、それまで主力だった藍をコーヒーが上回りました。その後も比重は増え、1904年に全輸出の81%、1940年には90%に達し、資料は「輸出品目の殆どがコーヒーとなった。」と表現しています(大使館資料)。
この歴史を知っておくと、エルサルバドルの農園や地域がコーヒーと深く結びついている理由が見えてきます。輸出の大半がコーヒーという状況は、産業として国全体で栽培や精製の仕組みを整えてきたことを意味します。精製の大部分が水洗式で揃っていることも、こうした積み重ねと切り離して考えにくい部分です。ただし、因果関係を直接示す一次資料はないので、「背景として知っておく」くらいの受け止め方がちょうどよいでしょう。
1970年代の世界3位と、12年間の内戦
大使館の2017年資料によると、エルサルバドルは1975年に世界3位の生産国となり、1978/79収穫年度には201千トンを記録しました。これが資料上のピークです。大使館サイトに掲載された寄稿でも、1970年代には生産量で世界3位だったと書かれています。
ところが1980年以降、12年間の内戦で生産は減少し、1988/89収穫年度には89千トンまで落ち込みました。1981年3月にはコーヒーの輸出ビジネスが国有化されています。大使館資料は「内戦中にコーヒーミルが破壊された。」と記す一方で、「ただ、コーヒーの木はこのような中でも成長を続け栽培も継続し、」とも書いています(大使館資料)。精製の設備が被害を受けても、木そのものは畑に残り続けたということです。
ブルボンやパカスといった伝統的な品種が今も多く残っていることを、こうした歴史と結びつけて語る説明もあります。ただし、内戦と品種構成の因果関係を一次資料で確かめることはできなかったため、この記事では断定しません。歴史の話は、豆の背景を知る材料として楽しむのがよいと思います。
2012年のさび病と回復への取り組み
近年の大きな出来事が、2012年に発生したさび病(コーヒーの葉さび病)です。大使館の2017年資料によると、生産は約20千トンまで減少し、2016/17収穫年度に35千トンまで回復したとされています。前のセクションで見たとおり、主力のブルボン、パカス、パカマラはいずれもWCRで葉さび病への抵抗性が低いとされる品種で、病気の影響を受けやすい状況にありました。
ICO掲載資料によると、2014年に政府が回復政策を始め、同じ2014年から国の機関であるCENTA Caféが技術支援やさび病に強い苗の配布を担っています。品種の構成を少しずつ見直しながら、生産の立て直しが進められてきたことがわかります。
| 年 | できごと | 出典 |
|---|---|---|
| 1740年 | コーヒーが伝わる。栽培はアウワチャパンから | ICO・大使館 |
| 1855年 | 初めての輸出 | ICO |
| 1940年 | コーヒーが全輸出の90%に | 大使館 |
| 1975年 | 世界3位の生産国に | 大使館 |
| 1980年以降 | 12年間の内戦で生産が減少 | 大使館 |
| 2012年 | さび病が発生 | 大使館 |
| 2014年 | 政府の回復政策開始、CENTA Caféが技術支援 | ICO |
いまの生産量と日本の輸入量は?数字で見る現在地とCOE
ICO統計で見る生産量:2023年は769千袋
エルサルバドルの生産量の推移は、全日本コーヒー協会が掲載しているICO統計(2024年版)で確認できます。生産年度(10月〜翌9月)の総生産量は、2018年761千袋、2019年661千袋、2020年606千袋、2021年707千袋、2022年717千袋、2023年769千袋です。2020年に落ち込んだあと、2023年にかけて持ち直していることがわかります。
ここで注意したいのは、生産量の数字は出典によって集計期間が違うことです。ICOは生産年度、米国農務省(USDA)は独自のマーケティングイヤーで集計しているため、同じ「2024年ごろ」の数字でも値が揃いません。異なる出典の数字を一つのグラフに並べて増減を語るのは避けたほうが安全です。
やりがちなのは、袋数をそのまま他の国と比べて「エルサルバドルは小さな産地」と片付けてしまうことです。数字の規模だけでなく、山系ごとの標高や品種、精製の揃い方といった中身を合わせて見ると、この国のコーヒーの個性がよく見えてきます。数字は必ず「何年のどの出典か」をセットで読みましょう。
USDAの報告で見る現状と課題
より新しい見通しとしては、USDAの年次報告(2025年5月)を伝えた海外のコーヒー業界メディアの要約があります。それによると、2024/25年度の生産は推定561千袋、2025/26年度の予測は597千袋、栽培面積は118千haで横ばいとされています。2024年12月の豪雨で、収穫期のチェリーが傷んだことにも触れられています。
同じ要約では、2024/25年度の輸出先は米国が47%と最大で、ベルギー、イタリア、ドイツ、サウジアラビアに続いて日本は21,964袋とされています。課題としては、樹の老朽化、収益性の低さ、農村の労働力不足が挙げられ、生産者の団体は耐さび病の苗を年3000万本、10年にわたって植える必要があるとの見解を示しています。
また、大使館サイトに掲載された寄稿では、収穫量が40年前の3割に達しない水準まで減っており、その背景に国際価格の下落と気候変動があると述べられています(寄稿者個人の見解です)。こうした数字を見ると、私たちが手にする一袋の背景に、品種の更新や担い手の確保といった長い取り組みがあることが伝わってきます。
日本の輸入量は2010年の約5分の1(コーヒーの教科書調べ)
日本に入ってくるエルサルバドル産の量は、ここ十数年で大きく減っています。全日本コーヒー協会の国別生豆輸入量の表(資料:財務省「貿易統計」)から、エルサルバドルの行を年ごとに並べたのが下の表です。表の注記には「輸入量には脱カフェインの生豆を含む。」とあります。
| 年 | 輸入量 | 備考 |
|---|---|---|
| 2010年 | 5,758トン | 比較の起点 |
| 2020年 | 2,681トン | ― |
| 2022年 | 2,237トン | ― |
| 2023年 | 1,263トン | ― |
| 2024年 | 1,095トン | 確々報。2010年の約5分の1 |
出典:全日本コーヒー協会「コーヒー生豆 国別輸入量」(資料:財務省「貿易統計」)。2024年の輸入国は50か国、総合計は360,287トン。
読み方の注意として、この数字はあくまで「日本の輸入量」で、エルサルバドルの輸出量そのものではありません。2024年の日本の総輸入量360,287トンから見ると、エルサルバドル産はごく一部です。日本が豆を買っている国の全体像は、産地とランキングをまとめた記事でも整理しています。

カップ・オブ・エクセレンスとスペシャルティの関係
エルサルバドル産の評価を語るときによく出てくるのが、カップ・オブ・エクセレンス(COE)です。大使館資料によると、COEは1999年にACE(Alliance for Coffee Excellence)が品評会とネットオークションとして始めたものです。ACEの公式ページによると、2025年のエルサルバドル大会は国際審査週が2025年5月26〜30日、COEオークションが2025年7月24日で、ヘッドジャッジ1名と国際審査員13名が審査しました。各部門の1位の得点は、伝統的ウォッシュド&ハニーが90.93(Alotepec-Metapan)、伝統的ナチュラルが90.30(Apaneca Ilamatepec)、実験的が90.18(Alotepec-Metapan)でした。
スペシャルティコーヒーの考え方については、日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)が「消費者(コーヒーを飲む人)の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること。」と定義しています。種から一杯までの一貫した品質管理や、サステナビリティ、トレーサビリティも要件とされています。
まとめ
エルサルバドル産を選ぶときに大切なのは、国名だけで味を決めつけず、標高・品種・精製・焙煎度の4つの表示を順に読むことです。1740年に伝わったコーヒーが国の輸出の大半を担うまでに育ち、内戦やさび病を経ても栽培が続いてきた背景を知ると、一袋に書かれた山系名や品種名が具体的な意味を持って見えてきます。最初の一歩として、次に豆を買うときは「エルサルバドル・水洗式・中煎り」の豆を一つ選び、ブレンドではなくストレートで飲んで、香りと甘さ、酸味の釣り合いを確かめてみてください。
※統計・品種構成などの数値は各資料の発行年時点のものです。最新情報は各機関の公式サイトでご確認ください。

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