「エスプレッソマシンは持っていないけれど、家のドリッパーでエスプレッソっぽい濃い一杯が作れないかな」と考えたことはありませんか。カフェラテを家で作りたいときや、小さなカップで苦味とコクをぎゅっと味わいたいときに、真っ先に浮かぶ疑問だと思います。
先に結論をお伝えすると、ドリップでエスプレッソそのものは作れません。エスプレッソは約9気圧の圧力をかけて短時間で抽出するコーヒーと定義されていて、お湯の重さで落とすドリップとは仕組みが違うからです。ただし、粉の量・湯の量・挽き目の3つを動かせば、エスプレッソに近い濃さの「濃いめドリップ」は十分に作れます。全日本コーヒー協会自身も、アイスコーヒーでは粉を多めにして湯を少なめにする濃い抽出を案内しています。
この記事では、エスプレッソとドリップの違いを圧力・挽き目・時間という理屈から整理し、協会やメーカーの公式の分量を並べたうえで、家のドリッパーで濃く落とす考え方と、やりがちな失敗の原因を解説します。もう一歩近づけたい人のために、直火式エスプレッソメーカーの使い方と注意点も取扱説明書に沿ってまとめました。
・ドリップでエスプレッソが作れない理由(約9気圧・極細挽き・20〜30秒)
・協会とメーカー公式の分量で比べる、エスプレッソとドリップの濃さの差
・家のドリッパーでエスプレッソ風に濃く落とすときの考え方と失敗の原因
・ラテ風・アイスへの使い分けと、直火式エスプレッソメーカーの注意点
ドリップでエスプレッソは作れる?答えは「近い濃さ」まで

そもそもエスプレッソとは「圧力で抽出したコーヒー」のこと
エスプレッソは、濃いコーヒー全般を指す言葉ではありません。抽出方法で決まる名前です。全日本コーヒー協会はエスプレッソを「極細挽きのコーヒー粉に約 9 気圧の圧力をかけて短時間で抽出するコーヒー。」と説明しています(全日本コーヒー協会「エスプレッソ」)。つまり、極細挽き・約9気圧・短時間という3つの条件がそろって、はじめてエスプレッソと呼べるわけです。
ここでやりがちなのが、「深煎りの豆を濃く淹れればエスプレッソになる」という思い込みです。深煎りの豆を使っても、湯を注いで重力で落とす限り、それはドリップコーヒーです。味が苦くて濃くても、抽出の仕組みが違うので、エスプレッソ特有のとろみや表面の泡までは再現できません。
見分けるコツは、器具の説明書やメニューで「圧力」「気圧」という言葉が出てくるかどうかです。エスプレッソマシンや直火式の器具には圧力の説明があり、ドリッパーにはありません。この記事で目指すのは、本物のエスプレッソではなく「ドリップでできる範囲で、エスプレッソに近い濃さの一杯」だと最初に決めておくと、期待とのずれが小さくなります。
ドリップは「重力」、エスプレッソは「圧力」で湯を通す
結論として、2つの差は湯を粉に通す力の違いです。キーコーヒーはドリップを「ドリッパーとフィルター、コーヒー粉をセットしてお湯を注いで抽出」する方法、エスプレッソを「専用のマシンを使い、高い圧力をかけてコーヒー粉にお湯を通して抽出します。」と説明しています(キーコーヒー「エスプレッソとコーヒーはどう違う?」)。
なぜ力の差が味に出るかというと、圧力をかけると、極細挽きのぎっしり詰まった粉の層にも短時間で湯を押し通せるからです。ドリップで同じ極細挽きを使うと、湯は自分の重さだけで粉の層を通ろうとするため、なかなか落ちません。その結果、粉と湯が触れる時間が延び、狙ったのとは違う苦味が出やすくなります。
家庭でありがちなのは、「エスプレッソ用」と書かれた極細挽きの粉をそのままペーパードリップに使い、湯がいつまでも落ちずに困るケースです。粉の袋に「エスプレッソ用」とあれば、それはマシン向けの挽き目だと読み取ってください。ドリップで濃くしたいなら、挽き目をエスプレッソ並みにするのではなく、ドリップ向けの範囲の中で少しだけ細かくする、という考え方が出発点になります。
「エスプレッソ風」と呼ぶなら量とカップから合わせる
ドリップでエスプレッソに近づけるときに合わせやすいのは、味よりも先に「量」です。全日本コーヒー協会のエスプレッソは、粉6~9gで1杯25〜30mL分という材料の目安が示されています。普段のマグカップ1杯とは、出来上がりの量がまるで違います。
飲む器もヒントになります。UCCの用語辞典では、デミタスを「エスプレッソを飲むときなどに使用する小容量のカップのこと。」とし、通常のコーヒーカップ(100~150cc)のおよそ半量(70~80cc)のカップと説明しています(UCC「デミタスとは」)。小さいカップに少量を注ぐと、それだけで「濃いものを少し味わう」飲み方になります。
やりがちな失敗は、濃く淹れた液体を普段のマグカップにたっぷり注いでしまうことです。濃さを上げるには湯を減らすのが基本なので、出来上がりの量は自然と少なくなります。量が少ないのは失敗ではなく、濃くした結果です。最初から小さめのカップを温めて用意しておくと、冷めにくく、香りも逃げにくくなります。
エスプレッソ=極細挽きの粉に約9気圧の圧力をかけて短時間で抽出するコーヒー(全日本コーヒー協会)。UCCの用語辞典では、すばやく抽出する様子からEXPRESS(急行)にちなんで呼ばれるようになったと言われている、と紹介されています。
デミタス=エスプレッソを飲むときなどに使う小容量のカップ。通常のカップのおよそ半量(70~80cc)。「デミ」は少量・半量、「タス」はカップの意味です(UCC)。

カフェのメニューに「エスプレッソ」と「カプチーノ」が並んでいると、どちらも小ぶりなカップで出てくることが多く、何がどう違うのか迷いますよね。濃いのはどっちなのか…
なぜ同じ豆でも味が変わる?圧力・挽き目・時間の3つの差
挽き目の差:エスプレッソは極細挽き、ドリップは細挽き~粗挽き
同じ豆でも、挽き目が変われば湯に触れる表面の広さが変わり、成分の溶け出し方が変わります。キーコーヒーはドリップの挽き目を「細挽き~荒挽き」、エスプレッソを「極細挽き」と分けています。全日本コーヒー協会の基本原則でも、器具にあった挽き方をすることが6つの原則の1つに挙げられています(全日本コーヒー協会「おいしいコーヒーの基本原則」)。
理由はシンプルで、細かく挽くほど粉の表面が増え、短い時間でも成分が出やすくなるからです。エスプレッソは20〜30秒という短時間で一気に抽出するため、極細挽きでないと成分が出きりません。一方、ドリップは湯が数分かけて粉を通るので、そこまで細かくする必要がありません。
家で起こりがちなのは、市販の挽いた粉を「濃くしたいから」とミルでもう一度細かく挽き直すことです。挽き直すと微粉が増え、ペーパーの目が詰まりやすくなります。濃さを上げたいときは、挽き目を一気に細かくするより、次の章で扱う粉と湯の量のほうを先に動かすほうが、味の変化を読みやすくなります。
時間の差:20〜30秒の一気抽出と、数分かけるドリップ
抽出時間も大きな違いです。全日本コーヒー協会は、エスプレッソを「一杯分(25〜35mL)を 20〜30 秒間で一気に抽出する」と案内しています(全日本コーヒー協会「エスプレッソ」)。これに対してHARIOのV60の基本の淹れ方では、杯数に関係なくお湯が落ちきるまでを3分以内にする、と案内されています(HARIO「V60」)。
時間が味にどう響くかは、協会の基本原則がわかりやすく説明しています。成分によって溶け出しやすさに違いがあり、抽出時間が短いと酸っぱくて薄く、長いと苦くてエグくなる、という整理です。エスプレッソは圧力で短時間でも十分に成分を引き出せますが、ドリップで時間だけを短くすると、薄くて酸っぱい側に寄りやすくなります。
逆に、濃くしようとして時間を延ばしすぎると、苦味やエグみが前に出ます。ドリップで濃さを狙うときは、時間を極端に動かさず、普段の淹れ方の時間の範囲に収めたまま、粉と湯の比率で濃さを上げるのが理屈に合ったやり方です。キッチンタイマーで落ちきるまでの時間を測っておくと、味が変わった原因を後から確かめられます。
見た目の差:クレマは圧力がつくる泡
エスプレッソの表面に浮かぶ細かな泡(クレマ)は、ドリップでは再現できません。これは淹れ方の上手下手ではなく、仕組みの違いです。UCCの用語辞典は、直火式エスプレッソについて「蒸気圧によって抽出するが、エスプレッソマシンでいれるときのようなきめ細かな泡(クレマ)は作れない。」と説明しています(UCC「直火式エスプレッソとは」)。
圧力をかける直火式でさえマシンのようなクレマが難しいのですから、圧力をかけないドリップで同じ泡を求めるのは無理があります。ドリップの表面に泡が出ることはありますが、それは蒸らしのときに粉からガスが抜けてできる泡で、エスプレッソのクレマとは別物です。
やりがちなのは、泡を出そうとして高い位置から勢いよく湯を注ぐことです。粉が暴れて抽出が不均一になり、味がぶれやすくなります。ドリップでは泡を目標にせず、濃さと香りを目標にする、と割り切ると迷いが減ります。泡まで楽しみたい場合は、後半で紹介する直火式の器具や、ミルクを泡立てて上にのせる方法を考えるのが近道です。
| 項目 | エスプレッソ | ドリップ |
|---|---|---|
| 湯を通す力 | 約9気圧の圧力(協会) | 湯の重さ(重力) |
| 挽き目 | 極細挽き | 細挽き~荒挽き(キーコーヒー) |
| 抽出時間 | 20〜30秒(協会) | 落ちきるまで3分以内(HARIO V60) |
| 焙煎度 | 中煎り~極深煎り(一部浅煎りもあり) | 浅煎り、中煎り、深煎りなど(キーコーヒー) |
| 表面の泡 | クレマ | クレマはできない |

焙煎度の差:エスプレッソは深煎りと決まっているわけではない
「エスプレッソ=深煎り」と思われがちですが、公式の説明には幅があります。UCCの用語辞典は「深めに焙煎したコーヒーを極細挽きにして、専用の機械を使って圧力をかけながら抽出するコーヒー。」と説明しています(UCC「エスプレッソとは」)。一方でキーコーヒーは、エスプレッソの焙煎度を「中煎り~極深煎り(一部浅煎りのものもあり)」としています。
つまり、深めの焙煎が中心ではあるものの、浅めの豆が使われる例もある、というのが公式どうしを並べたときの読み方です。焙煎が深いほど苦味とコクが出やすい傾向があるので、ドリップでエスプレッソ風の印象に寄せたいなら、深煎り寄りの豆を選ぶと方向性をつかみやすくなります。
やりがちな失敗は、浅煎りの豆で湯を減らして濃くし、「酸っぱいだけで、思っていたエスプレッソっぽさがない」と感じることです。濃さを上げると、豆がもともと持っている特徴も濃く出ます。浅煎りの酸味が好きなら問題ありませんが、苦味とコクを狙うなら、豆の袋の焙煎度表示を見て、深煎り寄りのものから始めるのが手堅い選び方です。
濃いめに落とすには何を変える?粉・湯・挽き目の考え方

いちばん効くのは「湯を減らす」こと
ドリップで濃さを上げるとき、最初に動かしたいのは湯の量です。粉が同じなら、湯を減らすほど出来上がりの濃さは上がります。全日本コーヒー協会のペーパードリップ式は、1杯140mL分としてコーヒー粉12g(中細挽き)に湯160mLという材料です(全日本コーヒー協会「ペーパードリップ式」)。この湯の量を減らしていくと、同じ粉から濃い液体が少量取れる形になります。
湯を減らすのが効く理由は、ドリップの注ぎ方にあります。協会の手順では、蒸らしのあと1投目80mL、2投目40mL、3投目20mLと注ぎ分けます。最初の注湯で濃い成分がよく出て、後半の注湯は全体を薄める役割も担うため、後半の注湯を控えれば濃さを保ったまま量を減らせます。
家でありがちなのは、湯を減らしたのにサーバーの目盛りを見ずに注ぎ続け、結局いつもの量になってしまうことです。濃く淹れる日は、スケールかサーバーの目盛りで「ここで止める」量を先に決めてから注ぎ始めましょう。止める量を毎回同じにすると、粉の量や挽き目を変えたときの味の差がはっきりわかります。
次に効くのは「粉を増やす」こと
湯を減らすと量が少なくなりすぎる場合は、粉を増やします。全日本コーヒー協会は、カフェ・オ・レ用のドリップではコーヒー粉15gにお湯120mLという材料を示しています(全日本コーヒー協会「カフェ・オ・レ、カフェラテ、カプチーノの違い」)。普段のペーパードリップの12gと160mLと比べると、粉を増やし、湯を減らしている形です。ミルクで割っても負けない濃さにするための分量と読めます。
メリタジャパンも、1杯分(125cc)の目安をお湯140ccコーヒー粉約8gとしたうえで、「これを基準に飲む量やお好みの濃さに合わせて粉の量を調整してみてください。」と案内しています(メリタジャパン「メリタ式の淹れ方」)。メーカーも、濃さは粉の量で調整するものとして説明しているわけです。
注意したいのは、ドリッパーの容量です。粉を増やすと蒸らしで膨らむ分も増え、小さなドリッパーでは湯を注ぐ余裕がなくなります。粉を増やす日は、1〜2杯用ではなく一回り大きいドリッパーを使うか、粉の量を少しずつ増やして、湯が縁からあふれないかを確かめながら進めてください。
挽き目は「少し細かく」まで。極細にはしない
挽き目は濃さに効きますが、動かし方に注意が必要です。全日本コーヒー協会のアイスコーヒーの淹れ方では、濃く抽出する前提で、コーヒー粉12〜15gの挽き目を細挽き〜中細挽きとしています(全日本コーヒー協会「アイスコーヒー」)。濃い抽出でも、ドリップの範囲は細挽きまで、と読み取れます。
極細挽きまで進めない理由は、前の章で見たとおり、圧力がないドリップでは湯が通りにくくなるからです。湯がなかなか落ちないと、抽出時間が延び、協会の基本原則でいう「苦くてエグく」なる側に寄ります。濃くしたかったのに、えぐみの強い一杯になってしまうのはこのパターンです。
ミルを使っているなら、普段の目盛りから1段階だけ細かくして、落ちきるまでの時間を測ってみるのがおすすめです。時間が普段より大きく延びるようなら、細かくしすぎのサインです。挽いた粉を買う場合は、袋の挽き目表示が「中細挽き」「細挽き」のものを選び、「エスプレッソ用」「極細挽き」はドリップに使わないようにしましょう。
濃さを上げる順番は「湯を減らす → 粉を増やす → 挽き目を少し細かく」。一度に3つ動かすと、どれが効いたのかわからなくなります。1回に1つずつ動かし、落ちきるまでの時間も一緒に記録しておくと、自分の好みの濃さに早くたどり着けます。
湯温は普段どおり約95℃から。下げるのは苦すぎるときだけ
湯温は、濃さそのものよりも苦味の出方に関わります。全日本コーヒー協会の基本原則では約95℃が適温とされ、沸騰後にポットを火から離し、湯面の沸き立ちが落ち着いた状態が目安と説明されています。ペーパードリップ式やアイスコーヒーの淹れ方でも、湯は95℃前後まで少し置いてから使う手順です。
濃く淹れるときも、まずはこの湯温から始めるのが基本です。湯温が高いほど成分は溶け出しやすくなるため、深煎りの豆を濃く淹れて苦味が強すぎると感じたら、湯温を少し下げる、という順番で調整します。逆に最初から湯温を大きく下げると、成分が出きらず、薄くて酸っぱい側に寄ることがあります。
メリタジャパンも、抽出に最適なお湯の温度は使う豆の種類によって異なるため、調整してみてほしいと案内しています。温度計がない場合は、協会の説明どおり、沸騰した湯をドリップケトルに移して沸き立ちが落ち着くのを待つだけでも目安になります。陶器やガラスのドリッパーは、先に湯で温めておくと抽出中の温度が安定します。

同じ豆を買ってきたのに、昨日はおいしかったのに今日は酸っぱい。ネットのレシピどおりに淹れたつもりなのに、なんだか苦くてえぐい。ドリップコーヒーは道具も手順もシン…
ドリップでエスプレッソ風に淹れる手順と、メーカー別の基準量
公式の分量を並べると、濃さの差が数字で見える
エスプレッソとドリップの濃さの差を、協会とメーカー公式の数字で並べてみます。粉の量だけを見ると両者はそれほど違いません。違うのは、その粉から取り出す液体の量です。以下は、コーヒーの教科書編集部が各公式ページに書かれた値だけを集めた表です。
| 出典と淹れ方 | 粉の量・挽き目 | 湯・出来上がり |
|---|---|---|
| 全日本コーヒー協会:エスプレッソ | 6~9g・極細挽き | 1杯25〜30mL分(20〜30秒) |
| キーコーヒー:エスプレッソ | 7~8g・極細挽き | できあがり量20~30ml程度 |
| キーコーヒー:ドリップ | 10g | できあがり量120ml |
| 全日本コーヒー協会:ペーパードリップ | 12g・中細挽き | 湯160mL(1杯140mL分) |
| メリタジャパン:メリタ式 | 約8g | お湯140cc(1杯分125cc) |
| 全日本コーヒー協会:カフェ・オ・レ用ドリップ | 15g | お湯120mL |
| 全日本コーヒー協会:アイスコーヒー | 12〜15g・細挽き〜中細挽き | 湯140mL(1杯140mL分) |
表を見ると、エスプレッソは粉7~8gから20~30ml程度、ドリップは粉10gから120mlと、粉の量に対して取り出す液体がまったく違うことがわかります(キーコーヒー)。ドリップで同じ比率まで湯を減らすと、粉全体に湯が行き渡らなくなるため、ドリップで近づけられるのは「普段より濃い」ところまでです。協会のカフェ・オ・レ用やアイスコーヒー用のように、粉を増やして湯を減らした公式の分量が、家で使える現実的な出発点になります。
濃いめドリップの流れは「蒸らしを丁寧に、後半を控える」
手順そのものは普段のドリップと同じで、変えるのは粉と湯の量、そして後半の注湯です。蒸らしの時間はメーカーで案内が違います。全日本コーヒー協会のペーパードリップ式は20mLの湯で約20秒、アイスコーヒーでは30〜40秒、HARIOのV60は粉量の2倍のお湯で30秒、メリタは粉と同量程度のお湯で20秒から30秒ほどです。どれか1社の値を正解とせず、使っているドリッパーのメーカーの案内に合わせてください。
協会のアイスコーヒーの淹れ方は、本来は氷で冷やす前提の分量です。温かいまま飲む場合は氷で薄まらないぶん濃く感じるので、湯の量を協会の140mLから少しずつ減らして、好みの濃さを探す使い方になります。これは公式レシピの転用なので、最初の1杯は「基準」ではなく「試しの出発点」と考えてください。
注ぐ速さでもコクの出方は変わる
粉と湯の量を決めたら、次に効いてくるのは注ぐ速さです。HARIOはV60について、速く注ぐとすっきりした味に、ゆっくり注ぐとコク深い味になると説明しています。エスプレッソ風の濃さとコクを狙うなら、ゆっくり注ぐほうが方向性に合います。
理由は、ゆっくり注ぐと湯が粉の層にとどまる時間が長くなり、成分が出やすくなるからです。HARIOのV60は円すい形で粉の層が深く、湯が中心に向かって流れて粉と長く触れる構造だと説明されています。一方、メリタの1つ穴のドリッパーは、内側のミゾと1つ穴の抽出口がお湯の流れをコントロールすると案内されていて、杯数分を一度にまんべんなく注ぐ淹れ方です。ドリッパーによって、注ぎ方で調整できる幅が違います。
やりがちなのは、ゆっくり注ぐことを意識しすぎて、落ちきるまでの時間が大きく延びてしまうことです。HARIOのV60なら、落ちきるまで3分以内という基準があります。ゆっくり注いでもこの範囲に収まっているかを確かめると、コクを引き出しつつ、えぐみが出すぎるのを防げます。細口のドリップケトルを使うと、湯の量と速さを細かく調整しやすくなります。
濃く淹れたつもりが苦いだけ…よくある失敗と原因

失敗1:極細挽きで目詰まりし、苦くてエグい一杯になる
いちばん多い失敗は、エスプレッソに近づけようとして挽き目を極細にし、ペーパーが目詰まりするケースです。湯がほとんど落ちず、ようやく落ちきったときには、濃いというより苦くてえぐい味になっています。
原因は、圧力のないドリップで、圧力前提の挽き目を使ったことです。全日本コーヒー協会の基本原則は、抽出時間が長いと苦くてエグくなると説明しています。目詰まりで抽出時間が延びれば、狙っていない成分まで溶け出してしまうのは自然な結果です。協会の基本原則で、一杯分の粉量の目安が極細挽き6~8g、細挽き8~10g、中細挽き約10g、中挽き12~13g、粗挽き約15gと挽き目ごとに分けられているのも、挽き目と器具の組み合わせが前提になっているからです。
原因:圧力がかからないため湯が通りにくく、抽出時間が延びて苦味とエグみが出やすくなる。
対策:挽き目はドリップの範囲(細挽き〜中細挽き)にとどめ、濃さは湯を減らす・粉を増やすで調整する。落ちきるまでの時間を毎回測る。
すでに極細挽きの粉を買ってしまった場合は、ペーパードリップより、圧力で抽出する器具に使うのが本来の用途です。ただし、後半で触れる直火式の器具も、取扱説明書でエスプレッソマシン用極細コーヒーの使用を避けるよう案内しています。粉を買う前に、袋の挽き目表示と自分の器具が合っているかを確かめるのが、いちばん確実な予防策です。
失敗2:時間を短くして「薄くて酸っぱい」濃いめになる
2つ目は、エスプレッソのように短時間で済ませようとして、湯を一気に注いで落としてしまう失敗です。量は少ないのに、飲んでみると薄く、酸っぱさが目立つ、という結果になりがちです。
原因は、圧力がない状態で抽出時間だけを短くしたことです。協会の基本原則のとおり、抽出時間が短いと酸っぱくて薄くなります。エスプレッソが20〜30秒で成分を引き出せるのは、約9気圧の圧力と極細挽きがあるからで、ドリップで時間だけをまねても同じ結果にはなりません。
対策は、時間を普段の淹れ方の範囲に戻すことです。蒸らしはメーカーの案内どおりきちんと取り、その後の注湯もゆっくり行います。濃さは時間ではなく、粉と湯の比率で作る、と覚えておくと失敗しにくくなります。深煎りの豆でも酸っぱさが目立つなら、蒸らしの時間が足りていないか、湯温が下がりすぎていないかも確かめてみてください。
失敗3:粉を増やしたら湯があふれ、注ぎ足しで薄まる
3つ目は、粉を一気に増やした結果、蒸らしで粉が大きく膨らみ、湯を注ぐ余裕がなくなる失敗です。あふれそうになって注ぐのを止め、落ちきってから注ぎ足すうちに、粉の上の湯が薄い液体として流れ、全体の濃さが下がってしまいます。
原因は、粉の量に対してドリッパーの容量が足りないことです。HARIOのV60の説明にあるように、ドリッパーの内側のリブはペーパーとドリッパーの間に空間を作り、蒸らしで粉が膨らむのを妨げない役割があります。粉を増やすほど膨らむ量も増えるので、余裕のないドリッパーでは湯の通り道が乱れやすくなります。
対策は、粉を増やすときはドリッパーのサイズを一回り大きくするか、粉の増やし方を小さくすることです。また、注湯の途中で粉が乾くほど湯を落としきらず、粉の上に湯が少し残っているうちに次を注ぐと、湯の流れが安定しやすくなります。メーカーの取扱説明書にある「何杯用」の表示は、粉を増やす日の上限を考える目安にもなります。
ミルクで割るならどう使う?ラテ風・オレ・アイスの使い分け
カフェラテとカフェ・オ・レは「ベース」と「比率」が違う
濃いめドリップの使い道として多いのが、ミルクで割る飲み方です。ここで押さえておきたいのは、名前によってベースのコーヒーと比率が違うことです。全日本コーヒー協会は、カフェ・オ・レを「ドリップコーヒーにミルクを1:1の割合で合わせたもの。」と説明しています(全日本コーヒー協会「カフェ・オ・レ、カフェラテ、カプチーノの違い」)。
一方、カフェラテはエスプレッソとミルクを1対4の割合で合わせたもので、材料の目安は1杯140mLでエスプレッソ30mL、牛乳120mLとされています。カプチーノは、ラテとの違いがミルクの泡立て方で、エスプレッソ50mL、牛乳80mLが目安です。つまり、ドリップをベースにしたものは協会の定義ではカフェ・オ・レで、厳密にはカフェラテではありません。
家で濃いめドリップをミルクで割るなら、協会のカフェ・オ・レの分量(コーヒー粉15g、お湯120mL、牛乳100mL)がそのまま使えます。ミルクを多めにしてラテ風に寄せたい場合は、コーヒーをさらに濃く落とさないと、コーヒーの味がミルクに埋もれやすくなります。名前にこだわるより、ミルクに対してコーヒーが負けない濃さかどうかで判断するのが実用的です。

家でカフェラテを作ってみたら牛乳の味しかしない、泡がすぐ消えてしまう、カフェで飲むようななめらかさにならない。そんな経験はありませんか。原因の多くは、豆やマシン…
アイスにするなら「氷で薄まる分」を先に濃くしておく
濃いめドリップが本領を発揮するのはアイスです。全日本コーヒー協会のアイスコーヒーの淹れ方では、氷が入ったサーバーに直接注いで急冷する方法について、氷が溶けて薄まるため、通常のホットより粉を多めにし、湯を少なめにして濃く抽出すると説明しています(全日本コーヒー協会「アイスコーヒー」)。急冷すると透明感のある仕上がりになる、とも書かれています。
理屈は、氷が溶けた水も最終的な一杯の一部になる、ということです。いつもの濃さで落とすと、氷の分だけ薄まり、物足りない味になります。だから最初から濃く落としておくわけです。これはドリップでエスプレッソ風の濃さを作る考え方と、まったく同じ方向です。
やりがちな失敗は、氷を少なめにして、熱い液体で氷がすぐ全部溶けてしまうことです。冷えきらず、ぬるくて薄い仕上がりになります。サーバーに氷をしっかり入れておき、濃い液体を落としながら冷やすと、協会の言う急冷の効果が出やすくなります。冷やしたあとにミルクを加えれば、アイスのカフェ・オ・レとしても楽しめます。
読者タイプ別:濃いめドリップの使い分け
どの飲み方を目指すかで、濃さの作り方の優先順位が変わります。ストレートで小さなカップに注いで飲みたい人は、量の少なさを受け入れて、湯を減らすことを優先します。デミタスのような70~80ccのカップを使うと、少ない量でも一杯として成り立ちます。
朝にミルクで割って飲みたい人は、協会のカフェ・オ・レの分量を出発点にし、ミルクの量を増やしたいときだけ粉を増やします。アイスにしたい人は、協会のアイスコーヒーの分量(粉12〜15g、湯140mL)をそのまま使えます。いずれも、普段のドリッパーと粉で始められるのが利点です。
クレマやとろみまで含めて本物に近いものを求める人は、ドリップの工夫だけでは届かないので、圧力で抽出する器具を検討するのが現実的です。どのタイプでも共通するのは、1回に1つだけ条件を変えて、落ちきるまでの時間と一緒に記録することです。記録が3回分たまると、自分の好みがどの方向にあるのかが見えてきます。
実は、エスプレッソは「カフェインが多い」とは限らない
意外と知られていないのが、エスプレッソのカフェイン量です。濃くて苦いので多そうに思えますが、キーコーヒーは「短時間で抽出するため、カフェイン自体はそれほど多く含まれていない」ことを、あまり知られていない点の1つとして紹介しています(キーコーヒー)。ただし、同ページに具体的な量は書かれていません。
国内の公的な数値としては、食品安全委員会のファクトシート「食品中のカフェイン」に、コーヒーは60 mg/100 ml(浸出方法:コーヒー粉末10 g/熱湯150 ml)と示されています(食品安全委員会「食品中のカフェイン」)。これは特定の浸出条件の値で、エスプレッソの値は示されていません。濃いめドリップは粉を増やすことが多いので、この条件の値をそのまま当てはめないことが大切です。
味の濃さとカフェインの量は、必ずしも同じ方向に動くわけではありません。「濃いから多い」「薄いから少ない」と決めつけず、気になる場合は飲む量で調整するのが現実的です。体調や妊娠中のカフェインについては医師に相談してください。
もっと近づけたい人へ:直火式という選択肢と注意点
直火式エスプレッソメーカーは「蒸気圧」で抽出する
ドリップの工夫を超えて、もう一歩エスプレッソに近づけたい場合の選択肢が、直火式のエスプレッソメーカーです。UCCの用語辞典は直火式エスプレッソを、エスプレッソを抽出するための直火式のコーヒー抽出器具で、蒸気圧によって抽出し、イタリアでは家庭で多く使用されていると説明しています(UCC「直火式エスプレッソとは」)。
ドリップとの違いは、圧力がかかることです。下のボイラーに入れた水が加熱されて蒸気圧が生まれ、その力で湯が粉を通り、上のサーバーにコーヒーが上がってきます。重力だけのドリップより、エスプレッソの仕組みに近い抽出です。
ただし、UCCが書いているとおり、マシンのようなきめ細かなクレマは作れません。「マシンがなくても家でエスプレッソ」と期待しすぎると、泡の少なさにがっかりするかもしれません。ドリップより濃く、圧力で抽出したコクのある一杯が取れる器具、と理解しておくと、ドリップとの違いを正しく比べられます。
| 仕組み | 熱源で加熱し、内部に圧力がかかって抽出する直火式 |
| 水と粉 | 安全バルブの下まで冷水。モカ用に挽いた粉を押さえつけずに入れる |
| 火加減・熱源 | ガス台は弱火で炎をはみ出させない。電気コンロ等は最大火力にしない。IHは専用アダプター使用時のみ(公式製品ページ) |
| 手入れ | 洗剤や研磨剤を使わずぬるま湯で手洗い。食器洗浄機は不可。本体はアルミニウム合金 |
使い方の要点は「水はバルブの下・粉は押さえない・弱火」
直火式の代表的な製品であるビアレッティのモカエキスプレスは、取扱説明書で手順が示されています(ビアレッティ「モカエキスプレス 取扱説明書」)。ボイラーの安全バルブの下まで冷水を入れ、ろうと形フィルターにモカ用に挽いたコーヒーを入れます。このとき押さえつけず、縁に粉が残らないようにします。サーバーをねじ込み、ガス台なら弱火にかけ、サーバーがいっぱいになったら熱源から外して注ぎます。
この手順には、それぞれ理由があります。粉を押さえつけないのは、圧力で抽出する器具なので、粉が詰まりすぎると湯が通りにくくなるからです。取扱説明書の「よくある質問」でも、安全バルブが漏れる場合の確認点として、モカ用の粉を使っているか、粉を押さえつけていないか、水を入れすぎていないかが挙げられています。
そのほかの注意点として、抽出後はカップに注ぐ前にコーヒーをかき混ぜること、初めて使うときは最初の3回の抽出は飲まないことが案内されています。エスプレッソマシンのタンピング(協会の説明では15~20kg程度の圧力をかける作業)とは考え方が逆なので、マシンの知識をそのまま当てはめないようにしてください。
失敗例:エスプレッソ用の極細粉を詰めて押し固めてしまう
直火式でやりがちなのが、「エスプレッソを作る器具だから」とエスプレッソマシン用の極細の粉を使い、さらにマシンのように押し固めてしまう失敗です。取扱説明書は、エスプレッソマシン用極細コーヒーなどは使用しないこと、モカ用に挽いたコーヒーを使用し極細引きは使用しないこと、粉を押さえつけないことをはっきり案内しています。
原因は、器具の名前とエスプレッソマシンを同じものだと考えてしまうことです。直火式は熱で内部に圧力をかける器具で、取扱説明書では、記載内容に従わない場合、やけどの原因や、コーヒーメーカーの爆発を引き起こす恐れがあると注意されています。粉が詰まりすぎることは、味の問題だけでなく安全の問題にもつながります。
原因:直火式とエスプレッソマシンを同じものと考え、マシン向けの挽き目とタンピングを当てはめてしまう。
対策:取扱説明書どおり、モカ用に挽いた粉を押さえつけずに入れ、水は安全バルブの下まで、ガス台は弱火で使う。使用中は目を離さない。
直火式で濃さやコクを調整したいときも、ドリップと同じく、まずは豆の焙煎度を変えるのが安全です。粉の挽き目や詰め方で調整しようとすると、取扱説明書の範囲を外れやすくなります。
手入れと保管で、次の一杯の味が決まる
直火式は、手入れの仕方がドリッパーと違います。モカエキスプレスの取扱説明書では、使用後は洗剤や研磨剤を使用せずに毎回ぬるま湯で洗浄すること、食器洗浄機での洗浄には適していないことが案内されています。しみやさびを防ぐため、すべての部品を完全に乾かし、閉めずに保管することも書かれています。
理由は、本体がアルミニウム合金でできていることと、パッキンや安全バルブなど、圧力を保つための部品があることです。取扱説明書では、パッキンが摩耗した場合は交換し、最低年に1回は交換することが推奨されています。安全バルブについても、水道水の石灰で穴が詰まるおそれがあるため、定期的にピストンを動かして点検するよう案内されています。
やりがちなのは、ドリッパーと同じ感覚で洗剤を使って洗ったり、組み立てたまま湿った状態でしまったりすることです。熱源についても、イタリアの公式製品ページでは、IHは専用のインダクションプレートアダプターを使う場合に限って使えると案内されています(Bialetti「Moka Express」)。購入前に、自宅のコンロの種類と取扱説明書の熱源の条件を照らし合わせてください。
まとめ
まずは普段の粉の量のまま、湯だけを減らして小さめのカップに注いでみてください。落ちきるまでの時間をメモしておけば、次に粉や挽き目を動かしたときの違いが、理屈どおりに見えてきます。
※分量や器具の使い方はメーカーにより異なります。最新情報は各公式サイトや取扱説明書でご確認ください。

コメント